第3話 入学式

「…………」


 しまった、やらかしてる。

 親と別行動になってから。


 誰とも一切、喋ってナイ……。


 今日という、4月7日。花の女子高生デビュー。

 それが終始無言なんて、初日からして枯れそうだ……。


 空はこんなに、晴れてるのにね。


「新入生の皆さんは、私にちゃんと付いて来てねー」


 先生の声、ちょっとダルそう。

 まぁ、渡り廊下をこの人数――30人規模で動けば。

 当然、制御不能だしね。


 軽い学校案内なんて、別に今更しなくても。


「ねぇ、この後カラオケ行かない?」

「いいね、行く行くっ」


 ……右も、


「初日って、緊張するね」

「分かる。めっちゃ不安だよねぇ」


 左も。


「俺の中学にもいたわ〜」

「マジか。やっぱいるんだなぁ」


 みんなそれぞれの一歩を、自分の歩幅で踏み出した。


 ……、高くない?

 って、私が劣ってるんだよね。うん。


「――で、最後はやっぱり俺が出て、1点決めて勝ったんだよなぁ!」

「ははは、すっごいねー」


 ? あの男女ふたり

 なんか凄く、盛り上がって――いや、なんか違う。


 体格の良い男子の方が、盛り上げようと努力してる。

 相手の女子に、気があって?


「……初日から、」


 一目惚れ? どんなだろ、気にはなる。


 茶色い、ボブの髪型の

 こっそり、顔を覗き見――!


 ぅわ、アイドルみたいな……!

 それか、芸能プロダクション?

 マジ? あー、狙うの納得。


「…………」


 いいなぁ。

 入学初日、男子から。

 ドラマチックな、門出スタートじゃん。


 ……見ないようにしよ。






「――以上で、解散でーす。引き続き、備品購入の希望者は、各自で買い求めるようにー」


 って、先生の声で解散したけど。


 ちょっと、気分悪い、かも。

 慣れない空気に酔ったかな。


「……初日だけど、」


 保健室、寄って行こう。

 今後、お世話になると思うしね。






 ――あった、“保健室”っ。


 ……ドアは、閉まってる。

 えーっと、とりあえずノック。


 コンコン。


「――はーい」


 保健室の内側から、女性の声――ん?

 。この声、多分、先生じゃない。


「廊下のあなた〜、急患ですかー?」

「……いえ、少しだけ休憩したくて」

「……あー、満室なのでぇ。他を当たるとか、出来ますかぁ〜?」


 は?


 ガラガラガラッ。


「失礼します」

「うわ、拒否ったのに入って来たっ!?」

「! あれ、あなた――」


 さっきのアイドル――茶髪のっ!?

 しかも部屋には、独り切り。

 先生用の、椅子に座って……。


「……あー、はじめましてぇ」


 ? 茶髪の人――


「とりあえず……座る?」






藤沢ふじさわ佑菜ゆうなって言いますぅ。えーっと、よろしくねー! なんて……。あ、保健室の先生は、ちょっと野暮用があるってさ」

「あー、櫻庭さくらば有佐ありさです……」


 流れで、同じベッドに座って。

 これ、ちょっと気不味いけど――


「それで、何で保健室こんなとこ? みんな校庭に繰り出して、もう写真とか撮ってるけど」


 私みたいな人と違う。

 藤沢さんは、もっと、こう、日向の中に居る人でしょ。


 って、藤沢さん?

 なんか、きょとんとした顔で――


「あれ、もしかして――あたしがみんなと自撮りしたいとか、そういう風に思ってる?」


 え。


「違うの?」

「あははっ! ノーサンキュ〜。初対面の人達とぉ、そんなの無理無理カタツムリ〜!」

「は?」

「あ、もう言いません。って言うか、あたし、人混みにやられちゃって。ここまで逃げて来たんだよねぇ。みんな、やったら距離近くてさぁ。気分悪くなっちゃった……」


 まぁ、藤沢さんの容姿なら。特に男子は寄って来るよね。

 てか自分の魅力に、気付いてない?

 でもなんか、嫌味じゃない……。


「……もしかして。“他当たって”とか言ってたのって、?」

「おっ、櫻庭さん正解っ! どうして分かったの? 超能力者エスパー?」

「私も同じタイプだから」

「あー、の人かぁ〜」


 ――ふふっ、


「ふふふっ! 私達、矛盾してるっ。独りになりたくて、来たのにっ」

「あははははっ! 確かにっ。ねぇ、アニメ好き?」

「嫌いじゃない」

「部活は?」

「帰宅部」

「何型?」

「A型」

「あぁー! 惜しいっ! あたしB型っ! でも連絡先、交換しない?」

「はいこれ、私の“QR”」

「おっけー。あ、登録完了っ」


 ――藤沢佑菜。


 嗚呼ああ本当ホント


 変な人っ――……






「はえー、めっちゃリアルな夢っ」


 って、学食の隅の席に座って。

 佑菜、ラーメン食べながら――


「てかもう、プレイバックじゃん。結婚式で流すやつじゃん」

「そこまで? でも、リアルな夢だった……。今日が5月の9日だから、もう1ヶ月も過ぎたんだ」


 はぁ、最初の1ヶ月って。あれよあれよと過ぎてくね。


「あ、佑菜、覚えてる? あの後、入学祝いって、2人でケーキ食べた事」

「そりゃあ勿論、バッチリと! 小振りなホールケーキとか。背伸びしたよね、あたし達ぃ」

「はははっ、確かに。しかもその後のお会計――佑菜がお金、足りなくなって!」

「そうそう、有佐に初日から! 1000円借りちゃったりしてさぁ〜。あははははははっ!」


 …………。


「あはは……あれ、有佐サン?」

「いやぁ、? って」

「……Oh」

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