第99話:とある野営地での一幕
「と、まぁ俺とフィンについての思い出話はいくらでも出て来るんだが、やっぱり一番と言われればそれだな。まだ弱くて情けなかった俺が変わるきっかけになった、賢者としての俺の出発点だ」
最初に話すのならこれだろうと召喚された当時の話と、真の意味でフィンと仲間になれた時の話を白神に語り聞かせた。
聞かされた本人はほへぇー、とフィンのちょっとアホで人間味のある姿と、その素晴らしき善性に関心しているようだった。
自慢の友人を褒められるのは何とも気分がいいものである。
「先輩って、最初から先輩じゃなかったんですね……」
「……なんとなく言いたいことはわかる。だが敢えて言わせてもらえば、結局のところ変わらざるを得なかったんだよ。弱いままじゃ、魔王討伐なんて過酷な旅は無理無茶無謀だった」
それは実力的な話はもちろんのこと、心の方も当てはまる。
何せ、五年近くもかかった旅だったんだ。戦うこと以外にも苦労は多々あったし、中には戦わずとも危険な目にもあった。
道を切り開くための鍵を入手するために潜ったダンジョンで、心を試す試練とかあったなと昔のことを思い返す。
マリアンヌ……トラップダンジョン……神罰(物理)……ウッ……アタマガ……
「ともかく、だ。俺は中学の頃、異世界に召喚されて勇者と共に魔王を倒して、そしてこの世界に帰ってきた賢者……てことはわかったか?」
「あ、はい。それはわかったんですけど、他のお仲間さんはどうしたんですか? 旅のお仲間は、先輩を含めて5人って聞いたんですけど……」
「……そういえば、ある程度の話は赤園が聞いてるんだったな」
はい、と頷く白神。
聞いてみれば、白神達が受けていた世界樹の試練と言うのは他の世界の英雄の中でも試練に適した英雄が相手として選ばれるらしい。
もっとも、英雄とは言え本人ではなく、本人を象った影らしいのだが。
それでも人格や記憶も模しているため、そういった異世界の話も聞くことができたそうだ。
「そうだな。俺たちの旅は俺とフィンの二人。王国騎士団の中でも最強と呼ばれていた聖騎士ガリアン、そして聖女と呼ばれていたマリアンヌが合流して出発することになる」
「……あれ? リーンスヴェールドランド……リンさんは? 最初からいなかったんです?」
「そうだな。そもそもあいつ、俺たちの敵だったし」
「……え、ええぇ!? て、敵だったんですか!?」
突然立ち上がって驚きを露にする白神に、そりゃそう言う反応にもなるわと苦笑する。
俺だって当時は驚いたもんだ。何せ、先ほどまで命を懸けて戦っていた相手が仲間になるとか言い出すんだ。警戒はしても歓迎はしない。
……まぁ、フィンはあっさり信じたんだが。
なんだよ、嘘を言ってるようには見えないって。お前そんなの分かるのかよ流石だなフィン。
「旅が始まって、3年くらいたった頃だったかねぇ……そのころの俺たちは、魔王を探しながら各地で人助けなんかをしてたんだよ」
その時にとある村で噂を聞いてな、と過去の出来事を思い返す。
ともに戦った赤き魔竜リーンスヴェールドランドとの出会いを。
◇
「なぁんで魔王が見つからなねぇんだよぉ!?」
ああもう!! と頭を抱えて叫ぶ俺を、隣にいたガリアンがまあまあと宥めて来る。
「こんな野営中にあんまり叫ぶもんじゃねぇぞ、ケント。下手すりゃ魔物が寄ってきちまう」
「『防音』と『隠蔽』の効果付けた結界貼ってるからそんなこと問題ねぇよ!!」
「や、やることはちゃんとやってんだな、相変わらず……」
「あらあら……ケントくん。そんなに叫んでどうしたんですか?」
そんな様子をしょうがないわねぇーといった様子で眺めていたマリアンヌは、立ち上がって俺の隣に腰を下ろした。
ちょうどガリアンとマリアンヌに挟まれる形になってしまった俺は、流石にこれ以上喚くのも迷惑かと考え、やるせないため息とともに再び座り込んだ。
俺が召喚され、そして魔王討伐の旅に出てから三年が経過した。
俺を召喚した王国は勇者フィン、そして賢者の俺の他にも頼もしい仲間をつけてくれた。
それが今俺の両隣にいるガリアンとマリアンヌ。
ガリアンは俺を召喚した王国の騎士らしいのだが、その実力は王国騎士団の中でもトップである聖騎士の称号を賜った程の実力者。年齢も俺たちよりも高く、今では頼れる兄貴分のような存在だ。
マリアンヌはこの世界で最大の宗教組織である
彼女の手にかかれば千切れた手足も元通りに治せる他、瀕死の重傷であっても数時間で復帰させられるほど。その功績もあってか、若くして聖女という教会最高峰の称号を得た猛者である。
そんな四人で魔王討伐に出た俺たち。
だが俺はここで一つ、大きく勘違いしていたのだ。
最初は俺も「待ってろよ魔王! 俺たちが倒してやる!」と勇み足だったのだが、その魔王がどこにいるのかと思えば、これが全くの不明だったのだ。
つまるところ、この魔王討伐の旅はまず魔王を探すところから始めなければならなかったのだ。
「三年だぞ三年!! これだけ探してるっていうのに、手掛かりらしいものが見つからないってどうなってるの!? 本当に魔王いるの? ってくらい手掛かりないんだけど!?」
「と言ってもなぁ……各国で魔物が活性化してるのは事実だし、伝承通り魔王の復活で姿を現す聖剣が出た時点でいるのは確定してるんだ」
「そうですよぉ~。そんなにカッカしないで、ケントくんもこのスープ飲みましょ? おいしいですよ?」
そう言ってはいと手渡された木の器には、牛骨から出汁を取って作ったスープがあった。
おいしいのは、作った俺が一番よくわかってます。
マリアンヌにお礼を言いつつ、一口飲めば少しだけ落ち着いた。
「……俺の世界の物語じゃ、魔王ってのはどっかの城にいて勇者を待ち構えてるもんなんだ。何で定住してないんだよ魔王の奴……!!」
「そりゃお前、魔王は自然発生する災害みたいなもんだからな」
「ケントくん異世界出身ですからねぇ~。常識がずれてるのは仕方ないですよ」
これも食っとけ、とガリアンから俺が作ったハムサンドを渡される。
まぁそりゃ、ゲームみたいに簡単にはいかないことはわかっていたさ。
ただ三年たっても手掛かりがないのは、流石にどうなのかと賢者のケントは思うわけで。
「ま、焦っても仕方ねぇんだ。これも伝承だが、魔王は生まれた場所から動かねぇと聞いている。世界で一番魔力の澱みが強い場所を見つければ、そこが魔王のいる場所に違いねぇよ」
「伝承なので、絶対、とは言い切れませんが、その可能性が限りなく高いことは事実でしょう。魔王と相対すれば、聖剣は力を開放し黄金の光は魔王を滅すると言います。その時までは我慢ですよ」
よしよしと何故か頭を撫でて来るマリアンヌ。
その手を跳ねのけようとするのだが、押してもびくともしないためすぐに諦めてされるがままになる。
確かに賢者は体張るタイプじゃないので非力なのだが、聖女もそういう非力ポジじゃなかったっけ? と思うことなかれ。
彼女、回復はもちろんだが、時にはメイスでぶん殴ってたりもするため純粋な力では俺よりも上である。
……あれ? もしかして俺が一番弱いのでは?
「まぁでも、はやいとここの旅を終えたいのも確かだよな。俺たちがこうしている間にも、活性化した魔物の脅威に怯えてる民がいるんだ。ケントの気持ちもよくわかるぜ」
「ガリアン……」
「それに、聖女とは言えマリアンヌもいい歳だ。はやいとこ帰らないと、貰い手もなくなっちまうだろうしな!」
「ガリアン……」
「ガリア~ン? 後でテント裏まで来なさい?」
いつの間にか手にしていたメイスを素振りするマリアンヌの姿を見て、冗談だから落ち着けと顔を引きつらせるガリアン。
まぁでも、マリアンヌも20を超えてると聞く。元の世界じゃまだまだ若いんだが、10代前半での結婚もおかしくはないこの世界においては行き遅れなんて言われてもおかしくはない年齢なのだろう。
ブンッ、と顔面のすれすれをメイスが横切って行った。
「……何か余計なことでも考えましたか?」
「……イ、イエ」
怖いよこの人。
「みんな~、追加の薪を拾ってきた……楽しそうだね! 何をしてたんだい?」
マリアンヌの「あらあらうふふ」に殺意の波動を感じ始めたころ、ちょうど野営地周辺で薪拾いに行ってたフィンが帰還した。
ナイスタイミングだ、と俺とガリアンの心の声が重なった気がした。
「うふふ……何でもないですよ?」
「そうなのかい? マリアンヌの年齢がどうの、という話が聞こえた気がしたんだけど」
「ばっ! か、お前自分で地雷を踏んでんじゃねぇよ……!?」
「くそっ、この勇者様空気を読めよ空気を……!?」
「ガリア~ン? ケントく~ん?」
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岳鳥翁です。
白神再登場して早々に過去編で白神ファンには申し訳ない。
と言うわけで、リンちゃんとの出会いの過去編になります。
面白い、続きが気になる! など思っていただけましたら、是非とも感想やレビュー、ブックマーク等々よろしくお願いします!
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