春はやっぱごちそうになる食べ物が多いよな・そして嫁と子供が増えたぜ

 さて、寒い冬も過ぎて草木が芽吹く春になった。


 そうすると魚も活発に動くようになる。


 それとよく子供の面倒を見てくれていた乳母の女性とその子供が俺の妻になった。


 彼女の旦那が冬の狩りの際に猪によって負った傷がもとで死んでしまい、しばらくは村で共同で生活を支援していたが、彼女とは俺たち家族が一番今まで仲良くしていた縁もあって子供も含めて俺の家族となることになったのである。


 彼女の名前はチニタ、意味合いは”夢”であったりする。


「チニタ、これからよろしくな」


「はいこちらこそ」


 当然だがイアンパヌとチニタ及びそれぞれの子供に不公平があるようではいけない。


 まあ、基本的には四六時中家族とは一緒にいるし、不公平とかは基本無いんだけどな。


 家族単位で行動することが多いのは不公平感を出さないためとかだし。


 この結婚は村長のウカエチウの指示によるものである。


 そしてこうしたことは縄文時代では珍しくなく、すでに結婚している女が妻を失った男を夫に新しく迎えて多夫一妻となる家庭もあるし、俺のところのように一夫多妻になる場合もある。


 これは当然一人の側が残りの家族を支える能力があると認められる場合に限られたがな。


 なんで彼女の子供の男一人と女一人も今は一緒に住んでる。


 幸い乳児は今はいなかったのでまあなんとかなるだろう。


 もうすぐ生まれそうではあるが。


 そして今日は海岸に来て、男は丸木舟に乗って魚釣りをしている。


 春先になると鯛(たい)、鰈(かれい)、鱚(きす)、目張(めばる)、鮎魚女(あいなめ)などが旬になる。


 それを釣り竿を使って釣り上げるのだ。


「よーし来た!」


 イアンパヌとの息子が早速鱚を釣り上げた。


「むむ、あ、こっちも来たよ」


 チニタの息子も負けじと鰈を釣り上げた。


 この二人は歳が同じくらいでそれなりにお互いをライバル視しているようだ。


「うむむ、俺はさっぱり釣れんなぁ」


 今日は俺が絶不調でなかなか魚が釣れない。


 まあ魚釣りなんてそんなものなんだが、息子たちはいっぱい釣り上げているのでちょっと悔しいな。


 隣りにいても全く釣れ無い時もあるのが釣りの不思議なところだ。


 一方女たちはみんなで浜で貝を取っている。


 春先の砂浜の貝は浅蜊(あさり)や蛤(はまぐり)がいっぱい取れるし、流れ着いたワカメなどの海藻も拾えるしな。


 双子は砂浜を銅のシャベルで掘り返して貝を探している。


「かい、いたー」

「かい、いたー」


 チニタの娘は双子のひとつ下で双子について歩いてうろちょろしてる。


「いたー?」


 チニタの娘が双子に首を傾げて聞いた。


「あい、あげる」

「あい、あげる」


 双子は年下の妹にお姉さんぶれるのが嬉しいらしい。


 チニタの娘が笑顔でそれを受け取った。


「あい、あいがとです」


 そしてチニタの娘もお姉さんが出来てかまってもらえるのは嬉しいようだ。


「んー、いいわねえ」


 そういうイアンパヌのお腹は大きくなっていて、多分もうすぐ新しく子供が生まれると思う。


 スッポンを食った時に多分できたんだな。 


「あ、あんまりムリしないでくださいね」


「そうよ、お母さんあんまり無理しないで」


 チニタは何度も子供をなくしているのでイアンパヌの体とお腹の子供を気遣ってるようだ。


 勿論上の娘も心配している。


 この時代だと半分くらいは生まれてすぐ死んじまうのが普通だからな。


「うん、大丈夫ですよ。

 少し体を動かしたほうがいいですから」


 まあ、二人が仲良くしてくれて何よりだ。


 まあ、この二人は同じ子供を乳をあげて育てた仲間でもあるしな。


 魚や貝がある程度取れたら、丸木舟は海岸に上げて紐でくくりつけて、みんなで雑木林に入る。


 蕗の薹(ふきのとう)、芹(せり)、薺(なずな)、筍(たけのこ)、独活(うど)、タラの芽などの野草に加えて、野いちごもつむ。


「いちごー、あったー」

「いちごー、あったー」


「あったー?」


 おんなじようなことを双子たちが繰り返してるな。


 まあ、仲良きことは美しきかなだ。


 その夜は魚と貝と野草のごった煮にデザートは野いちごだ。


「うまー」

「うまー」

「うまー」


 双子とチニタの娘がニッコリと笑って食べる。


 子供が増えると賑やかになるな。


「うん、君が釣ったこれはなかなか美味しいね」


「君の魚もなかなか美味しいよ」


 男の方は仲がいいんだか悪いんだか。


 まあ険悪ではないようだし、お互いライバルと思って成長していってくれればいいんじゃないかな。

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