縄文時代は困ったときはできり限り助け合ったのさ、それが他の集落でもな
さて、三日三晩降り続いた雪はなんとかやんで、空に晴れ間が見えてきた。
俺達の集落は屋根が雪で潰れることもなく、なんとか全員無事にやり過ごせた。
まあ雪がやんだと言っても、深く降り積もっていては、移動も大変だし急いで外に出ることもなかろう。
「それにしても、5日間続くはずだった雪が、3日でやんでよかったな」
俺はイアンパヌとしみじみ語り合った。
「ええ、これから雪が溶けるまで大変だけどね」
まあ、食料もまだ結構余ってるし、薪も余ってる。
いちおう5日以上雪が降りつもったときのために、薪も余裕を持って拾ったりしたからな。
その時、突然犬が集落の北の方に駆け出した。
「お、おい、どうした?。」
”わんわん”
なんか俺についてこいと言いたげだな。
深い雪の上を歩いていくと、村の外から歩いてくる、男が二人。
「うお、こんな深い雪の中をわざわざ歩いてきたのか」
俺は雪をかき分けながら、そいつの方に近づき聞いた。
「おーい、どうした」
男は必死な形相で俺に言い返してきた。
「頼む、俺の集落に薪と食料を分けて……くれ」
そう言いながら男は雪の中でがっくりと膝をついた。
「おい、大丈夫か?」
倒れた男についてきたもう一人が俺に言った。
「済まない、体力的に限界だ…そいつを運んでやってくれ」
たった二人で雪をかき分けて来たらしいが、そのうち一人はどうも大丈夫ではなさそうだ。
「仕方ない、ウパシチリの所までなんとか運ぶか」
俺は雪の中を彼を背負ってなんとかウパシチリの所まで運んでいく。
「おーい、ウパシチリ、すまないがこいつの手当を頼む」
「すみません、どうか助けてください」
ウパシチリが炬燵の中からのそりとはいでてきた。
相変わらず炬燵が好きなんだな。
「あら、その方は?」
「ああ、隣の集落から来たらしい」
「取り合えず体を温めてあげましょう、どうぞ中に」
「ああ、すまねえな」
「ありがとうございます」
俺は背負った男をウパシチリの家になんとか入れて床の上においた。
ウパシチリは男の様子を見てから言った。
「ふむ、気を失っていますが空腹に加えて、疲労と寒さによるものですね。
命に別状はないと思います」
「そうか良かったぜ、しかし、薪と食料か」
「同胞の危機を見過ごす訳にはいきません。
村のみんなに集まってもらいましょう」
「ああ、そうだな」
俺は村の家を回ってウパシチリの所に来てもらった。
「みなさん、隣集落では薪と食料が尽きて大変なことになっているようです。
それぞれ一日分で良いので、皆さんの家から持ち寄ってください。
どうかお願いします」
「おう、死にそうになってるってなら早く持っていかないとな」
「だが、この雪のなかどうやって?」
そういう意見が出た中で俺は運ぶ方法を考えていた。
深い雪をかき分け進むのはとてつもなく大変だ。
しかも、それなりの量の薪や食料となる肉などを運ばないといけない。
「雪か……スキーかソリがあれば……待てよソリなら在るじゃないか。
隣村まで運ぶのは俺に任せてくれ、みんなはここに
食料と薪を急いで集めてくれ」
「分かった」
ソリは以前イアンパヌが妊娠したときに水を運ぶために作ったやつが在る。
あれを使えばかなり楽なんじゃなかろうか。
「ワンコ、済まないがお前たちにも力を借りるぞ」
”わんわん”
犬たちが任せろとばかりにこたえてくれる。
俺は雪の上を歩けるように、薪として集めた木を丸く丸めて、縄を張って輪かんじきを作る。
それから犬の前足から肩にかけて、縄をかけられソリを引っ張れるように縄を結びあげ、それを4つ作った。
犬ぞりは犬にも負担がでかいから、あんまやりたくはないが、今は非常事態だしな。
そんなことをしている間に、ウパシチリのところに薪や鹿の肉などが集められていた。
その薪や肉をソリに乗せて、俺は俺で薪を背負子へのせて村をでる。
「よし、この足跡を辿って、向ってくれ。
お前たち頼むぞ」
”わんわん”
四頭の犬が、荷物を満載したソリを引っ張る。
人間が乗れるようにはなっていないので、俺はかんじきで雪の上を歩いて行く。
本来なら大した事のない距離だが、慣れない雪道はカンジキを使っても結構辛い。
けどまあ、飢えたり寒さに凍えてる子供も居るだろう、急がないとな。
いつもなら1時間もあれば余裕で着くところを3時間ほどかけたのち、ようやく俺は、隣の集落にたどり着いた。
とりあえず村の中で一番大きい家に、俺はワンコたちと一緒に向かう。
この村のワンコが俺に気がついてやってくると、ソリを一緒に引っ張ろうとしてくれていた。
「おう、助かるぞ」
そして、村の長の家であろうところへ俺はたどり着いた。
「おーい、薪と鹿の肉を持ってきたぞ」
大きな家の中から村長が出てきた。
やはり女だが、だいぶやつれているようだ。
「ありがとうございます、中へお願いします」
どうやら村人たちはこの一番大きな家にみんな退避して、皆で身を寄せ合うことでなんとか寒さをしのいでいたらしい。
俺は薪を運び込むと弓きりで火をつけて、炉に薪をくべた。
「なんとか間に合ってよかったぜ」
「はい、本当に有難うございます」
持ってきた鹿の肉を焼いてやったら、ガツガツとそれを食う村人たち。
特に子供には辛かっただろう。
凍死者などは幸いでなかったようだ。
犬たちにも骨が分け与えられているようで良かったぜ。
「今日のところは泊まっていってください。
明日からは自分たちで狩りをして何とかいたしますので」
「ああ、済まねえなこっちも、結構ギリギリなんだ
薪を拾うのは雪中では難しいから、なるべく節約してくれ」
「はい、わかっています」
どうやらこっちの集落の巫女は雪が続くことを予見できなかったらしい。
村長なら全て同じことがわかるということでもないんだろうな。
とりあえず俺は一泊して翌朝村に戻った。
「只今戻ったぞ」
イアンパヌが心配げに出迎えてくれた。
「おかえりなさい、どうでした?」
「まあ、なんとか死人を出さないで済んだみたいだ」
イアンパヌもホッとしたようだ。
「それはよかったですね」
雪も大分溶けてきたが、まだまだ残ってる。
薪や食料を無駄にはできないからもう一日くらいは、のんびり何もしないで過ごすとしようか。
体を動かさないで、それなりに温度の所で過ごせばそこまで腹も減らないだろう。
まあ、育ち盛りの子どもたちには絶食は辛いだろうから、子どもたちには鹿の肉を食わせてやるがな。
親は辛いぜ、けど子供の安全が第一だよな。
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