第52話 一斉攻撃

 港湾都市シャベド 沿岸地域


 先日の二ホン軍による空襲。被害自体はそこまでだったものの、帝国の主要都市であるシャベド近くの上空を他国の航空戦力に我が物顔で飛行されたという事実は重大であった。


 当然、帝国軍としても何の対策をしないわけにもいかない。


 上空で常に警戒するアークドラゴンの数を4匹から8匹に増やし、また航空基地の敷地の一部に最近帝国軍で運用されたばかりの対空魔砲や通常魔砲を投入して対空陣地を作り始めた。


 アークドラゴンだけでなく通常のドラゴンやレッサードラゴンも他の都市の防衛隊から集結させて航空戦力の数もそろえた。


 また、二ホンへの再度の侵攻計画を一旦取りやめて、万が一二ホン軍が上陸してきても問題ないように陸軍の部隊を要所要所へと配備した。


 対空戦闘で砲弾が不足しないように、大量の砲弾も用意した。


 対空戦闘をほぼしたことのない帝国軍なりに出来る限りの対策をし、万全の体制に整えた。………少なくとも、帝国軍にとっては。


 それが逆効果であることは、誰も知らない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ちょうどジョール城の方では戦いが始まっていたころ。

 その対空陣地では、多くの兵士たちが砲弾を運んでいた。


「おーい、先にその積みあがってる砲弾の方から運んでくれ!」


「りょーかーい!………やれやれ、にしてもこの砲弾はいつもより重くねえか?」


 運搬作業をしている兵士が、となりで同じように運搬している相方に問いかける。


「そりゃそうだ。何せその砲弾は対空用に高濃度の魔法結晶を詰め込んだ代物だからな。重い分、破壊力もピカイチさ。なんでも半径50m程度は吹き飛ぶらしいぜ?」


 ドヤ顔でそう語る相方を内心ウザいと思いつつも、兵士はさらに問いかける。


「そりゃ凄いが………対空用なんだろ?当たればいいじゃねえか。破壊力は強くなくてもいいだろ?」


 そんな質問に、相方はやれやれと言った表情で返答する。


「当たれば、な。でも実際はうろちょろ飛び回るドラゴンに砲弾を当てるなんて無理だろう?だから破壊力を向上させて、直接当たらなくても近くで爆発すれば撃墜できるようにしたのさ」


「成る程………お前、やっぱ頭いいなぁ!」


「この程度で頭が良ければ、人類皆天才の集まりだろうな。お前が馬鹿なだけさ」


 いつも通りにそんな会話をしていると、怒号が耳に入ってくる。


「て、敵襲ー--っ!!!」


「な、何!?」


「う、うん?」


 いきなりの出来事に二人が動揺していると、何か変な音が聞こえてくる。



 ゴオオオッ………



 上を見ると、20は超える数のドラゴンではない何かがとてつもない速さで飛んでいた。


「ぼさっとするな!早く魔砲の砲撃準備を………」


 そんな上官の発言中に、空を飛ぶ何かから何個も何個も黒い点のようなものが落ちてくる。


「おい、なんだあれ?」


 能天気にそんなことを言う彼に、相方は。


「おい、逃げ」


 バアアアアアン!


 とてつもない爆発音が、航空基地に響く。

 本来なら滑走路を狙って落とされたそれは、いくつかがそれて対空陣地へと突入する。


 特別に高威力に作られた対空用の砲弾はまだ運搬中であり、山のように積み上げられていた。

 また、一部は対空陣地全体に既に運搬されている。


 それらが誘爆した時………な対空陣地で何が起きるかなど、分かりきった話だ。







 ドオオオオオオオオオオオッッッッッ!






 噴火のようなとてつもない爆発が、起きる。そのとてつもない衝撃で、各地に既に運搬されていた対空用の砲弾や通常の砲弾も爆発を起こす。


 もくもくと上がるとてつもない量の赤い煙と、爆発によるとてつもない高さの温度。飛び散る砲弾の破片。





 それらが全て収まった時には、そこには何も残っていなかった。

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