第21話 帝国軍狂操曲 第一楽章①
戦列艦エルラウド 司令室
ドタドタと走る音が廊下から聞こえてくる。その足音の主であろう兵士が、司令室の扉を乱暴に開けて焦った様子で入室してくる。
「大変です!ディメダ一等将官閣下がお倒れになられました!」
そんな兵士の報告に、元より二ホンの攻撃で混乱していた司令室は更に状況が悪化する。
「そ、そんな!もうダメだ。我々は二ホンに殺されるんだ」
「帝国軍が負けるわけない!負けるわけない!あははははははは!」
「ディメダ様が倒れている今なら逃げれるな……」
絶望して悲観的になる者、完全に自棄になってしまう者、諦めて自分だけでも助かろうと逃亡を画策する者。それぞれ三者三様ではあるが、そのどれもがもはや戦うことを放棄している。
こういう時こそ冷静で優れたリーダーが必要なのだが、ディメダの代役となる準一等将官のケイオスは残念ながらそうでは無かった。帝国の貴族である彼は、あくまで箔付のために今回の戦いに参加していたのであり指揮官としての能力など無いに等しかった。
「ケイオス準一等将官閣下!ディメダ一等将官閣下がお倒れになった今、貴方が最高司令官です!さあ、ご指示を!」
「指示だと!?ふざけないでくれ!もはや指示したところでどうにもならないぞ!?この艦だって
「し、しかし……」
「勝てっこない!もうこの戦いは無理だ!………そうだ、降伏しよう!そうすれば奴らも僕の命までは取らないかもしれない。お前たち、拡声魔法で降伏の意を二ホン軍に伝えるんだ!」
自分だけは助かりたい一心のそんな命令も、実は最良だったのだがその命令が通ることはなかった。
「何をバカなことを言っているのだ!」
「ディ、ディメダ一等将官閣下!お目覚めになられたのですね」
そう、ディメダが目覚めたのである。
「うむ。それはそうと、降伏はならんぞ。帝国軍の威信にかけて、降伏はならん。まだ勝機はあるはずだ!戦え!全力で奴らを叩き潰すのだ!」
「でも、艦隊は半壊してるし士気も下がっているんだ、ここは退却をしなきゃあ無駄死にに……」
ケイオスがそう食い下がるが、ディメダはそんなケイオスに対して怒号を浴びせる。
「黙れえええええっ!!!帝国軍の恥さらしめが!死ぬまで戦え!死ね!死ねええええ!」
気を失った時とはまるで別人のように血走った目でそう怒鳴り散らすディメダ。普段の冷静で温厚な彼との大違いに司令室一同は違和感を抱くものの、命令は絶対だ。彼の命令に従って艦隊は全速前進を開始した。
そして、そのディメダの青い瞳はいつもよりやや紫がかっていた。
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