第20話 『神聖』なる護り③

 戦列艦エルラウド 司令室 (sideディメダ)


「グレリアスが………グレリアスが轟沈しました!」


 有り得ない。

 その報告を聞いて最初に思ったのは、『有り得ない』だった。



 二ホン軍が非常に強力な可能性は感じていた。

 先ほどから大量の爆発音がこの部屋までに聞こえてきて、二ホンの攻撃が苛烈なものであることもすぐに理解できた。指揮しながらも艦隊にかなりの損害が出てもおかしくないとは感じていた。しかしだ。


 あの艦には他の艦よりも魔法防御が充実している。それだけでなく、あの艦には神聖なる護りホーリーシールドが装備されていたはずだ。


 それが打ち破られるなんて有り得ない。いいや、有り得てはならないのだ!


「一等将官閣下!?どうされたのです!?」


 ー気づけば私は甲板の方へと走り出していた。



 あの報告は嘘なんだ。


 なあに、グレリアスが轟沈なんて有り得ない。外に出てみればいつも通りあの巨艦が見えるはずだ。


 そうに違いない。………そうに違いないんだ。




 そんなことを考えながら走っていた私が甲板で見た光景は-


「あ………あ………あああぁぁぁ………」


 バラバラになった大量の木片、あちこちから上がる炎と黒い煙、そして海面で溺れまいと必死にもがく兵士たち。


 そして何よりも、いつもはそこに見えたはずのグレリアスが………跡形も無くなっていた。
















 この戦いは負けだ。













 突きつけられたその現実が、私には受け入れられず。


「艦長!艦長!?大丈夫ですか!?」


 その場にへたり込んで………その後の記憶はもう何もない。






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 護衛艦いせ CIC



 第二護衛艦隊群の旗艦である『いせ』。そのCICでは今回の戦闘で慌ただしくなっていた。


「敵大型空母の撃破に成功しました!」


「敵艦隊残り324隻です!」


 次々と聞こえてくる敵撃破の報。だが、そんな中でも群司令の竹沢は厳しい表情を少しも変えなかった。


「発射したミサイルと撃破できた敵の数が合わん………やはり間に合わせのプログラムではボロが出たのか?」


「いえ、どうも敵空母は何発かミサイルを耐えたようでして……」


「何?木造でだと?……まあそれを考えるのは後の話か。旗艦であろう敵空母や大半の艦は撃破したのだ。後は残りを蹴散らすだけだ。今度は砲撃でやって構わんぞ」


 竹沢のそんな指令にいせの主席幕僚である津野田が返事を返す。


「了解しました。にしてもアグレシーズ帝国の艦砲は数十キロの射程を持つという情報、嘘だったようですな」


「ああ。確かリマ国の方から入った情報だったか?用心してミサイルを使うだけ無駄だったな……まあそんな射程があったら尖閣に砲撃しないのもおかしいからな」


「いえ、そうではなく」


 そう言うと津野田はかけている眼鏡をクイッとして、発言を続ける。


「我が国の位置情報についてもリマ国内部から帝国に漏れた可能性がかなり高いようでして。今回の件もリマ国が絡んでいるとなると……」


「…………かなり怪しいな。その件はこの戦いが終わったら上に報告しておこう」


 津野田のその懸念に、竹沢も同意し上への報告を決める。


「まあ、今はこの戦闘に集中するぞ!全艦隊砲撃戦用意!」


「「「了解!!!」」」


 後に尖閣沖海戦と呼ばれるこの戦いは、終わりを迎えようとしていた。


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