第27話 オマエら人間じゃねぇ
戦いの火蓋は切られ、ついに優勝を決める決勝戦が始まった。
「オラオラおせぇぞ!」
だが、エンデはボールへと一直線に突き進み、強引にそのボールを奪っていった。エンデは長い白髪を風になびかせてゴールめがけて疾走する。
「くっ、やはり速いな……だが!」
摩音はエンデの恐るべきスピードに追い付くために、身体強化魔法をさらに上乗せして地を蹴った。
走っているというよりは前方に跳躍しているような勢いでエンデに追い付く。
「オレに追いつくか。すげえなセンパイ!」
「こんなもので驚くようではまだまだだなっ!」
そう言うと、摩音は靴底から風魔法を発射。グラウンドに砂を盛大に巻き上げた後、風の勢いを利用して加速した足さばきでエンデのボールをかすめ取る。
「魔法による直接的な妨害は禁じられているが、砂が舞っただけなのでこれはセーフなのだ!」
「これが魔法ってやつか。面白れぇ……!」
ボールを蹴って反対側に走る摩音の背中は土煙の中に消える。その様子を見てエンデは心底楽しそうに笑った。さながら好敵手を見つけた戦闘狂のように。
「死神の力、見せてやんぜ!!」
直後、烈風が吹き荒れ、摩音の巻き起こした土煙が内側から爆発したように払われた。その中心には、身の丈以上ある巨大な大鎌を携えたエンデの姿が。
「ちょ、武器は反則だろ!」
「魔法だろうと武器だろうと相手を傷つけなきゃグレーなんだろ、センパイ?」
「ぐぬぬ」
摩音自身も、だいたいそんな考えで魔法を使っていたので強く言えなかった。相手を傷つけない限りはレッドカードは渡されないはずだ。恐らく。
「ボールは返してもらうぜ!」
エンデは力いっぱい大鎌を横なぎに振るう。すると再度暴風が発生し、摩音をはじめとする二年二組チームの生徒に直撃する。
「ぐわああああああ!」
「とばされるー!」
チームメイトたちは竜巻のような暴風を受けて次々と地に倒れ、気づけばボールは空高く飛ばされていた。
エンデはボールめがけて高く跳躍する。
「させるものか!」
摩音は飛行魔法を発動し、ロケットのような勢いで空に舞い上がった。
「いただきだ!」
「いいや我がもらう!」
ほぼ同時にボールのもとへとたどり着いた摩音とエンデは、これまたほぼ同時にボールを蹴った。
摩音は様々な魔法を自身の足に付与して、エンデはほぼ神としての底力だけで。ほぼ互角な両者の力は拮抗し、2つの異質なチカラに挟まれたボール周辺の空間がバチバチと火花を散らしながら軋みを上げていた。
まるで花火が延々と弾け続けているような光景を前にして、二年二組、一年二組の両チームメンバー全員は見守るしかなかった。なぜなら高すぎて届かないから。
「もう、あいつら人間じゃねえな……」
「たしかエンデちゃんは死神さんだって言ってたよ」
「へぇ……」
空中で摩音とボールの奪い合いをしているエンデに、呆然としている一年二組チームの面々。
対して摩音の巻き起こす非現実的な現象には一年生よりも一年分だけ慣れている二年二組チームは、委員長の指示の下、いつボールが戻って来てもいいように準備していた。
「さすがにここまで来ると、見てるだけっていうのもね」
一方、ため息交じりにそんな事を呟いたのは、ゴールの前で一部始終を眺めていた
彼は摩音が勝手に暴走しそうになった時には止めようと構えていたのだが、相手が予想以上に手ごわかった事を知り、摩音を手伝う事にした。
唯羽はゆっくりと右手を広げ、空に掲げる。すると唯羽の周囲が淡く輝きを放ち、その光は唯羽の手元に集まった。その耀きが一層強くなった直後、唯羽の手には一振りの長剣が握られていた。
鍔には天使の翼を模した金色の装飾。刀身の刃はあらゆる光を収め、あらゆる闇を切り裂く耀きに満ちている。
その剣は、唯羽が勇者をやっていた異世界で、こう呼ばれている物だった。
「思えば久しぶりかもしれないね、《聖剣》を使うのは」
誰にも聞こえない呟きを漏らしながら、勇者は聖剣を地に突き立てる。
その瞬間、彼の立つ大地は聖域と化した。
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