第20話 神の御光を受けし2人
場所は移って、
相手の名は
「おーっし!いくぜぇ!」
豪快な掛け声と共に打ち出されるサーブ。だがその軌道はまともでは無かった。
天井スレスレまで打ち上がったシャトルは、一愛のコート上空に入るや否や隕石のような勢いで落ちて来た。
「くっ……!」
どうにか打ち返そうとラケットを振るも、ものすごい速度で落下するシャトルを捉えることは出来なかった。
明らかに超常的なチカラの加わったシャトルは、床に半ばめり込むように激突した。
「これで俺は17点。んで、今は17対15か…… お前、結構やるじゃねえか」
「それはどうも……。まあ、さっきのサーブは返せませんでしたがね」
鳥すら打ち落とせるような、もはやサーブとも言えないショットだったが、ルール上は一応サーブである。そして相手の妨害をしている訳でもないので、ちょっとチカラを加えてサーブするのも、反則では無かった。
「そりゃお前、もうボロボロじゃねえか。棄権してもいいんだぜ?」
翔は疲れ切ったような一愛を見てそう言った。それは見方によれば、試合相手を気に掛けられるだけの余裕があると言外に告げているようにも見える。
だが、彼がそう言うのも無理はないだろう。今の一愛は、翔の人知を超える猛攻に反撃し続けていた為、服はボロボロ、切り傷のようなものも見えるその体にも相当の疲労が見て取れる。もはや普通にバドミントンをしていれば絶対にありえないダメージの受け方をしていた。
「いえ、まだまだです……。試合を続けましょう」
肩で息をしている一愛だったが、彼女はまだ諦めてはいなかった。2つ横のコートを見ると、火野先輩と試合をしている人美が目に入ったのだ。せめて人美が戦っている間だけは、絶対に諦めたりはしない。
一愛は審判に少しだけのタイムを貰うと、コート上に膝をたてて祈りのポーズを取った。
「神よ、どうか私に力を……」
試合中もずっと首に下げている十字架を両手で握りしめ、祈るように目を瞑る。すると、彼女の声に呼応するように十字架が淡い光を発し、一愛の体を包み込んだ。
「ほお……」
翔が興味深そうに唸る中、一愛のボロボロだった服はみるみる綺麗になり、体の傷や疲労も完璧に癒えてしまった。
しかもそれだけではない。翔は一愛の体から、とてつもないパワーを感じた。人間からは感じない、翔のそれとよく似た超常的なチカラだ。
「お前も人間じゃなかったとはな」
「いえ、私は人間ですよ。ただまあ……誰よりも神の
余裕の戻って来たような笑みでそう返す一愛の胸元には、金色に輝く小さな十字架が揺れていた。幼き頃に神を名乗った女性から譲り受けた、神の加護がたっぷりと詰まった十字架である。十字架で神と繋がっている一愛は、祈りをささげる事でその加護を得られるのだ。
今までは点数上は拮抗していたものの、一愛は確実に押されていた。それは男女の体力の差以前に、翔が人間ではないのが原因だろう。
だが今、一愛も持てるチカラを全て解き放ち、翔と同じ舞台に立った。
「面白れぇじゃねえか……質で言えばほとんど俺と変わらねぇチカラを持ってやがるな」
「あら、あなたのも『同じ』なんですか?」
「まあな。似た者同士と分かった今、俺も本気を出さなきゃ失礼ってもんだろ」
翔はラケットを持つ右腕をぐるぐると回した後、気合いを入れるように拳を手のひらに打ち付けた。
「神に創られし『天使』のチカラ、今ここで振るってやろうじゃねぇか!!」
試合を、いや、戦いを楽しむような凶暴的な笑みを顔に浮かべた翔の背中から、光り輝く純白の翼が現れた。
その神々しさ、そして対峙するだけで感じる圧倒的な重圧は、まさにイメージ通りの天使のそれだった。
「私だって、負けませんっ!」
対して神の加護を受けた少女は、力いっぱいラケットを構えてそう告げる。それはまさに、戦い狂いの天使を討とうと剣を握る戦士のごとく。
【天使】 天塚 翔 VS 【祈り人】
神の力。その片鱗を振るいし2人の試合は、今まさに第二ラウンドへと突入した。
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