第19話 バドミントンで分かるタイプ相性
【水使い】
着々と試合が行われていき、ついに2人の対決となった。隣のコートでは
「八菜が味方をするあなたの実力、見せてもらうわ」
「のぞむところです!」
サーブは火野先輩。両者が構えたところで、審判から試合開始の合図がされた。
「いくわよ……!」
火野先輩の高いサーブが上がる。人美は上手く体を捻りながら、火野先輩から一番離れている位置にシャトルを打ち返す。
「よしっ!これなら……!」
「甘いわっ!」
だが、火野先輩はまるで氷の上を滑るように滑らかかつ高速な移動でシャトルの落ちてくる場所まで動き、人美の足元に鋭いショットを放つ。
取りにくい位置を的確についた一撃は、彼女が決して初心者ではない事を語っていた。
「まずは1点、ね」
「くっ……やっぱり簡単にはいかないか」
人美はラケットを握る手に力を込めながら、試合前の八菜先輩との会話を思い起こした。
『《水使いの火野》…… 彼女は人美ちゃんも知ってる通り、《
『他にも何かある、という事ですか』
『ええ。例えば―――』
(自身の靴底を適度に濡らす事で体育館内を滑るように動く事が出来る移動技、《
人美は再びサーブの構えをつくる火野先輩から目を離さないようにしながら、対抗策を練る。
水技も厄介だが、火野先輩は基礎的な運動能力も高いらしい。仮に人美が先輩の《
「それなら……!」
人美はおもむろにポケットに手を突っ込み、中から小さな包み紙を取り出した。
「飴玉……?」
「ふふふ、ただのアメじゃありませんよ……!」
火野先輩が訝し気な視線を向ける中、人美は包みを開いてそれを口に入れる。
その直後、人美の口の中をしびれるような炭酸が駆け巡った。
「これこそ、電気使いであるハナみん先輩から貰った水使い対策!その名も《電撃飴》です!……炭酸つよっ」
「電撃飴……。へぇ、そういうのもあるのね」
まるで電撃のような強い炭酸味の飴を食べる事で、電気の加護を得られる……気がするアイテムである。運動能力強化、反射神経向上な様々なパワーアップができる……という設定だ。要するに八菜先輩が自作したただの飴である。
「さあ、今の私は電気属性付与状態……!水属性のヒノのん先輩は不利なんじゃありませんか?」
「どちらかと言えば麻痺状態な気もするけど」
一体どこからその自身が湧いてくるのか……と火野先輩は呆れ顔で呟くが、人美はパワーアップした気がしているらしい。
「まあいいわ。ふっ!」
火野先輩は気にせずサーブを放つ。力強く放たれたサーブだが、電気の加護を受けた人美には容易に返せる。
「あれっ」
―――事は無かった。
シャトルの下に辿り着く事はできたのだが、大きく振りかぶると盛大に空振りしてしまった。
「おっかしいなぁー……よしもう一回だ!」
めげずにラケットを構える人美。三度目の正直というのだし、今度こそは決まるはずだ。
だがしかし、悲劇は続く。
人美のショットはことごとく打ち返され、時には空振りし、あっという間に点数を奪われていった。そして……
「まーけたー!」
火野先輩の豪快なスマッシュが決まり、21対2で人美は敗北した。
「お疲れ様。惨敗だったわね」
「いやー、電撃飴作戦は失敗だったかな」
ステージ前に戻ると、真季那と八菜先輩に労いの言葉を貰った。ちなみに八菜先輩も負けてしまったらしい。相手はバドミントン部の副部長だったそうだ。
「いいと思ったんだけどなー、ハナみん先輩の電撃飴。水タイプには電気タイプがこうかばつぐんのはずなのに……」
「それは攻撃した時でしょ?」
後ろから火野先輩が半ば呆れたような声で近づいてきた。
「今回のあなたは電気の力で強くなったって設定なんでしょ?それだけじゃ水には勝てないわよ」
「「言われてみれば確かに!」」
人美と八菜先輩は声をそろえて驚愕の事実に打ち震えた。電気技でバフをかけただけでは、水タイプ相手にこうかばつぐんにはならないのだ。
「水使いと電気使いの戦い、今回は私の勝ちのようね」
「ぐぬぬ…… 次は負けないからね!」
八菜先輩は悔しそうにそう言うが、心なしか楽しそうでもあった。何か深い因縁でもあるのかと思ったが、実は仲良しだったりするのだろうか。
「もっとタイプ相性について勉強すればよかった……!」
「人美はまず体力づくりからだと思うのだけれど。動きがダメダメだったわよ」
一方、大袈裟に崩れ落ちる人美に慈悲のない言葉をぶつける真季那。体力テストで平均以上を取った事のない人美にバドミントンという過酷な競技はまだ早かったのだ。
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