第8話「最初の守護者」

 遠くに建物と船の影が見える。

 あれが港町のようだ。あそこから船で大陸へだな。


 王様から貰った手形。

 本来手形は然るべき方の紹介を経て、税を納めないと貰えないものだとか。

 それは私の世界と似ているかもな。 


 だがこれは特別製だそうだ。

 これを見せればどこの国の関所も通れて、船も馬車というものもタダで乗れるというか、後でイヨシマ王家が支払ってくれるそうだ。

 路銀もたくさん頂いたのに、本当に有り難い。

 王様の、そしてある意味あの淫魔のおかげだな。




 地図を見ると光がこの近くを指している。ここに最初の一人がいるのか?

 そう思って辺りを見ると、木陰で誰かが寝ていた。

 いや、もしかして倒れているのか?


 近づいてみるとそれは肩まで伸びた黒髪、顔つきは可愛らしく、私と歳が近そうな女性だった。

 銀色の胸当てに腕当て、脛当て。その下に白い衣服。

 しかしまた裾が短く足が出て……この世界では普通だと分かっていてもな。


「う、ん……あれ? ここどこ?」

 女性が起き上がり、私を見て尋ねてきた。

「ここはイヨシマ王国の港町、ヤワタハマ付近ですよ」

「え、そんな国知らないわよ。あ、もしかしてここって異世界……」

「おや、あなたも異界から来られたのですか?」

「うん、ってあんたも……あれ、政彦まさひこ? じゃないわね」

 女性が首を傾げて言う。

「私は石見藤次郎いわみとうじろうといいますが……ん、『政彦』?」

「知ってるの? あ、政彦の苗字も石見だったから、もしかしてあんた親戚?」

「……あの、今は何年ですか?」

「は? 西暦だと20◯◯年だけど?」

「それでわかりました。あなたが言う政彦はおそらく、私の三百年ほど後の子孫ですよ」

「へ? ……え、え? じゃああたし異世界に来ただけじゃなくて、タイムスリップしたの?」

「タイムスリップとやらが時代を行き来するという事ならそうでしょうね。ここと私の世界は同じ時代と聞いていますので」


「うぎゃー! あたし自力でタイムスリップ出来ないのよー! 帰れないじゃんかー!」

 女性が地団駄を踏んで喚いた。


「え、では何かの偶然でこちらにという事ですか?」

「う、うん……ん? ねえあんたさ、政彦の約三百年前のご先祖様って事は江戸時代の人でしょ? なんでタイムスリップ理解してて、子孫の事知ってるの?」

「時代を自由に移動できる子孫がいましてね、それでですよ」

「あ、それってサキとセリスの事?」

 セリスは一彦の字だな。

 未来じゃ字は無いそうだが、そう思ってくれればいいと彼が言ってたし。


「はい。あの二人もご存知でしたか?」

「うん。あたしも政彦やセリス達と一緒に戦った間柄だからね」

「という事は彦右衛門ひこえもん香菜かなもご存知ですよね? 私はその息子です」

 父上と母上は後の世に行って政彦や一彦、多くのお仲間と共に大敵と戦ったと聞いているからなあ。


「あ、そうだったのね。彦右衛門さんとはあんまり話してなかったけど、香菜さんとはたくさんお話したわ。それと思い出したけど、あんたのことも聞いてたわ」

「そうでしたか。ところであなたのお名前は?」

「あたしは武田たけだすみれっていうんだけど、戦闘時や冒険時は『リュミ』と名乗ってるの。だからそう呼んで」


「ええ。リュミ殿」

「呼び捨てにして。仲間のご先祖様に殿だなんて呼ばれるとむず痒いわ」

「ではそうさせてもらいますよ、リュミ」

「うん! ところで藤次郎さんはどうして異世界にいるの?」

「修行の旅に来たのですよ。両親や一彦や沙貴の話を聞いて、異界に憧れていたのです」

「なんちゅう頭の柔らかいお侍さんなのよ」

「そうでもありませんよ。それでリュミはどうしますか? なんならこの世界の守護神様にお願いして、元の時代へ戻る扉を」

「うーん、いやせっかく来たんだからこの世界を見てみたいわ。だから藤次郎さんに着いて行っていい?」


「え? まあいいですが」

「よっし! じゃあよろしくね!」

 リュミは満面の笑みを浮かべ、私に手を差し出した。

 ああ、握手というやつだな。

「はい、よろしくお願いします」

 

 


「さてと、リュミにもこの世界をの事を……ん、この辺りを指す光が強く輝いている?」

「ねえ、この光って何?」

 リュミが地図を覗き込んで尋ねてきた。

「見えるのですか?」

「え、普通は見えないの?」

「はい。これは私しか見えなかったのですが……あ、もしや?」

「何よ?」

「リュミ、あなたは四大守護者の一人なのかもしれませんね。だから見えるのでしょう」

「え、四大守護者って優者を守る者でしょ? あたしが?」

「はい。そしてこの世界ではどうやら私がそうらしいのです」

「へえ、セリスのご先祖様もやっぱ優者なんだ」

「私は紛い物かもしれませんがね」

「きっと本物よ。じゃ、ちゃんと守ってあげるからね」

「よろしくお願いします。そうだ、私も一ついいですか?」

「うん、何?」

「私も呼び捨てでいいですよ。今のリュミは私より年上のようですし」

 なんとなくだが、雰囲気でそう見える。

「え、藤次郎さんって今いくつ?」

「十五歳です」

「ああ、あたしは十六だからそうなるわね。じゃあ藤次郎、改めてよろしくね」

「ええ、よろしく」




 こうして私はリュミと出会った。

 そしてまさか……となるなんてな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る