第49話 意識させたい
テントを決めた後、特にすることもなくその場から離れていたお母さんと達希君を混ぜていろんなこと話して適当に夜も深まったころにお開きになった。
回線状況も山の中だからよくないしスマホを使って時間を潰すことになれていたみんなは特にやることもなくなってしまったのだ。
そしてテントの中は、私と達希君の二人っきり。
「じゃ、疲れたから寝るね。おやすみ」
そう言ってテントに入って五分もしないうちに早々と達希君は毛布に入って横になってしまった。
私は――――――というと、異性と二人っきりっていう状況でとても寝られたものじゃない。
というか、そもそも少しでも達希君に意識させたくてアピールしようとしているのだから寝るつもりもない。
「う、うん……ってようやく二人っきりになったのに寝ちゃうの?」
思わずそんなことを言ってしまった。
これじゃまるで私が達希君と二人でいたいって面と向かっていってしまってるようなもんじゃん。
慌てて口を塞いでも吐いた言葉はもとに戻ってこない。
「ん?どういう意味かな?」
達希君は不思議そうな顔をした。
「何でもないの」
とっさになかったことにしようとする私。
「何か話したいことあるなら聞くよ?」
「えっ!?」
まさか達希君の方からそう振ってくるとは思わなくて思わず声を上げてしまう。
でも、何か話さなきゃ絶対に達希君は「何もないなら寝るね」とか言って会話の機会を失っちゃいそうだ。
何か話すこと……あ、そうだ。
前々から気になっていることがあった。
「ね、ねぇ……なんで名前で呼んでくれないの?」
私はいつも名前で呼んでるのに達希君は全然私のことを名前で呼んでくれない。
そう訊くとちょっと目線を逸らしながら達希君は言った。
「前にも言ったことあるかもだけどさ、女子のこと名前で呼ぶのって僕にはハードル高くてさ……苗字にさん付けなら壁があるみたいで気も楽だし……」
「今こうやって女子と寝てるのに?」
ちょっと意識させるようにわざと言ってみた。
「正直言ってちょっと今もハードル高いなって思うけど空間が一緒なだけで添い寝してるってわけじゃないし、付き合いは長いからきっとこれぐらいは大丈夫なんだよ」
空間が一緒なだけなら……かぁ。
ってよく考えてみたらあんまり女性として意識されてないってことじゃん。
それなら―――――――あることを思いついた私は、自分の毛布を体の上から避けて、達希君の毛布の中へと入る。
「え……ちょ……」
達希君も予想外の行動だったのか戸惑いの声をあげた。
「えへへ……」
私も、恥ずかしすぎて恥ずか死しそうだった。
自分ながらに思い切ったことしたなって思う。
でも間違いなく今、達希君は私のことだけを考えてくれているはず。
そう考えるとちょっとにやけてしまった。
「……これで添い寝だよ?」
「……そう…だけど……」
達希君の顔を胸元から見上げると、わずかに赤くなっているのが近くで見て分かった。
「まだ、名前で呼んでくれない?」
恋愛脳になってしまった私の脳に任せてどんどん突き進む。
こうなったらもう止まったら負けだ。
止まったら恥ずかしくなって、こういう思い切った行動には出られないから今のうちに進めるところまで進んでおきたい。
「……わかったよ……わかったからとりあえず毛布から一旦、出て」
達希君は、しどろもどろになりながらやっとといった様子で言った。
でもそれは、断る。
「やだ。名前、名前で呼んで?」
あとから、やっぱり無理とか言われるかもしれないもんね?
ここで名前で呼んでもらって既成事実を作ってしまうのが一番な気がした。
「……六花……これでいいかな……?」
達希君は恥ずかし気に小声で私の名前を呼んだ。
小学校からずっと一緒にいてようやく読んでもらえた。
「……いいよっ!!これからもその呼び方でよろしくね?」
「せめて学校にいるときだけは勘弁してくれないかな……」
頬を掻きながらそっぽを向いて言った達希君の言葉への答えは決まっている。
「ダメ」
だってこれは、璃奈ちゃんへの牽制球でもあるんだから。
夜は更けているというのに高揚感のせいか、眠れそうになかった。
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