第46話 もやもや

 ちょっとむしゃくしゃした。

 その感情を抑えきれなくて私は、さっさとお風呂から出てきてしまった。

 理由は自分でもよくわからない。


 「牛乳でも飲んで頭を冷やそうかな」


 自販機にお金を入れて商品の番号を選択する。

 中の機械が動いて取り出し口に牛乳瓶が置かれた。

 ため息交じりにそれを手に取って近くの椅子に座って蓋を開ける。


 「はうぅ~」


 大きめの一口飲んだ後、ちょっと間抜けな声といっしょに、こみ上げていたモヤモヤした感情がスッとなりを潜めた。


 「芹沢さんもお風呂出たんだね」


 隣にぎしっと椅子が軋む音が聞こえた。

 瞑っていた目を開けて隣を見ると鮎川君が座っていた。

 今の間抜けな声聞こえてなかったよね……油断してた。


 「うん、皆よりも先に入ってたから」


 お風呂に長く浸かってられない人って思われるのは幼く見られるみたいで嫌だから事情を説明した。

 私が先に入ってだいぶ後からみんなが入って来たんだって。


 「なんか複雑っていうかなんて言うか……物憂げな顔っていえばいいのかな?してたからちょっと声かけたんだよ」

 

 誰のせいでいつもそんな顔にさせられてるのか……って思わなくはなかったけどそれは私の心の中に秘めておいた。


 「うん、でももう大丈夫だよ」

 

 私のことを考えて欲しいって思うけど、心配させてそれが理由で考えてもらうのはちょっと違う気がするから心配させないようにそう言っておいた。


 「そっか、ならよかった。邪魔したね」

 

 達希君は、テレビが置かれて何人かがくつろいでいる和室の方へと向かおうとする。

 えっ……行っちゃうの……?

 あくまでも達希君は私のことを少し気にかけて話しかけてくれただけらしかった。


 「えいっ」


 私は、その腕を掴んだ。


 「……どうしたの?」


 なんでそんなことをするのか不思議、といったような表情を達希君は浮かべた。

 傍にいて欲しいって思いに任せて衝動でしちゃったからなんて言い訳しよう……。

 

 「えっと……」


 何も考えてなかったから、なんて言っていいかもわからなくてその腕を掴んだまま固まってしまう。


 「うんと、やっぱり大丈夫じゃなかったの」

 

 これは、悩んでいる女の子の「大丈夫」って言葉を真に受けた達希君が悪い。

 達希君への言い訳じゃなくて自分自身にそう言い訳をする。


 「顔、赤いよ?」


 自分でも顔が熱くなっているのは分かる。だって恥ずかしいもん。

 それによく考えたら、他のお客さん達から丸見えだし……。

 かなり恥ずかしいけど、ここで腕を離したらまるで恥ずかしさにこの気持ちが負けたことになっちゃうからそれは絶対にしない。


 「大丈夫だけど大丈夫じゃないから……このまま……もう少しだけ……」


 どうしていいか自分でもよくわからなくて変なことを言っている自覚はあったけど腕を抱くようにしてそのままその場に立ち続ける。


 「どうしたものかな……」


 そう言って困ったようなに達希君は頬をかいた。

 人前で恥ずかしいけど、少しづつ満たされるような気持がして幸せを感じる。


 「気持ちよかったです」

 「姉さん、先に出た六花さんはってえぇぇぇっ!?」


 女湯の暖簾をくぐって芹沢さん姉妹とお母さんが出てきた。

 慌てて腕を離したけど、ちょっと遅かったかな……?


 「あらあら、うふふ」


 お母さんは、微笑ましいものを見るような眼で

 

 「姉さん見ちゃダメ!!」

 「えっ、何っ!?」


 智菜ちゃんは叫びながら璃奈ちゃんの目を手で覆ってた。

 見られたことに私は後悔はない。

 むしろちょっとした、宣戦布告みたいなものになった気がした。

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