第44話 料理をしてあげたい人
「ふわぁ~おいしいです」
「予想よりもうまくできたようで何より」
美優紀さんは、みんなの反応を見て満足気に頷いた。
「雑用しかさせてもらえなかったんですけど?」
六花は、愚痴を言いながらお替りを自分のトレーによそっている。
「……私もみじん切りしかさせてもらってない」
「帰ったら、料理の練習しましょう。まずは、野菜の皮をむくとこから」
智菜ちゃんのフォローはフォローになっているかも怪しい。
調理自体は、簡単であっという間だったけどカレーは美味しい。
「これ、家で作ったらここまでは美味しくないのよ」
「え、どうしてです?」
叶夢が訪ねると美優紀さんは、ふっと笑って答えた。
「これ、手間かかってないでしょ?それにかなりの時短料理だったし」
そう言われてみれば、そうだ。
時間がかかったとすれば、みじん切りにした素材の量が多くて過熱するのに難儀したくらいだろう。
「言われてみればそうですね」
なるほど納得といったふうに叶夢も頷いた。
「でもね、そこそこ食べられる味なのは自然に囲まれてみんなで食べてるからなのよ」
非日常的だから、ということなんだろう。
それに釣りで歩き回って軽く運動していたからお腹がすいてたしな。
「姉さん聞きましたか? 場所によっては姉さんの壊滅的な腕前の料理でも、どうにか食べてもらえるってことですよ?」
「……か、壊滅的じゃ、ない……もん……」
璃奈さんの声は自信がないのか尻すぼみだ。
「大丈夫よ?これから練習していけばいくらでも上手くなれるから」
美優紀さんの優しいフォローが入る。
「ですよね……頑張ります」
頑張るぞ!!みたいなポーズをとった璃奈さんを見て何かを思いついたのかいたずらっ子のような顔をして美優紀さんが、そういえばさと切り出した。
「璃奈ちゃんは、誰か料理を食べて欲しい人がいるのかな……?」
そう訊いた瞬間に璃奈さんは凍り付いた。
「……」
「どんな子なのか気になるわぁ」
さらに、畳みかけるように質問を繰り出す。
「……い、いないですよぉ……私みたいな人と話すことが苦手な人に、料理を作ってあげたい人なんてできっこないですし……できたとしてもそんなことする勇気なんてないですよ……」
顔を手で押さえながら璃奈さんは、似合わない早口でそう言った。
そして僕に視線を向けた後、そっぽを向いた。
「そっか……いないんだ。でもそんな、自分を卑下しちゃだめよ?」
美優紀さんは変なことを訊いてごめんねと言ってその話題をすることを止めた。
「片付けは、私がやっとくからみんなで遊んできなさい」
立ち上がって美優紀さんは片づけを始める。
「僕も手伝いますか?」
この中で男手は僕一人だから、そう言うと美優紀さんは
「せっかくだしみんなと遊んできていいよ。あ、五時までには、みんなを連れて帰ってきてね?温泉行くから」
と言った。
ここから一キロほど車で走ってきた道を戻ると小さな温泉があるのだ。
「わかりました」
僕は五時までっていう時間の制限を何となくどこか懐かしく感じた。
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