第43話 キャンプカレーその2

 

 「璃奈ちゃんに智菜ちゃん、みじん切りはできるよね?人参、玉ねぎ、ピーマン、にんにくをそれぞれみじん切りにしておいてー」

 「達希君に叶夢かなめちゃんは、とりあえずフライパンの準備をしたらみじん切りが終わるまで待機ね」


 美優紀さんがてきぱきと指示を出していく。

 アウトドア用の簡易コンロは、火力があんまりでないから少し具材を炒めるのには時間がかかりそうだ。


 「うちのカレーとは違いますね」


 叶夢は、みじん切りにされていく具材を見ていた。


 「鍋も使わないみたいだね」


 調理器具は、ほんとに包丁とフライパンとフライ返しくらいしかない。

 皮むきみたいな下処理は、朝のうちに美優紀さんが済ませてきていたらしい。


 「今日作るのはドライカレーなのよ。だから鍋は必要ないの」


 美優紀さんが、取り皿を準備しながら教えてくれた。


 「姉さん、包丁の持ち方がなってませんよ?」

 「え、そうかな……。こう?」


 まな板に向かっている璃奈さんに智菜ちゃんが指導している。

 璃奈さんの手元はちょっと危なっかしい。


 「やっぱり、今度からお母さんに教えてもらうべきです」

 「玉ねぎが目に染みるよ~」


 璃奈さんが袖で目元を拭う。


 「みじん切り担当じゃなくてよかったですね」

 「ほんとそう思うよ」


 小さく切るのは骨が折れるし玉ねぎは目に染みる。

 そんな光景がしばらく続いてようやくみじん切りの行程が終わった。


 「疲れました……」


 フラフラな足取りの璃奈さんと場所を交代した。

 サラダ油をひいたフライパンでにんにくのみじん切りを入れ熱していく。


 「兄さん、ニンニクって食べた後は匂いが気になるのに食欲をそそるってなかなか癖のある食材ですよね」

 

 炒められて匂ってきたニンニクの香りに叶夢は、そんなことを言った。


 「さて、こんなもんでいいかな?」

 

 ニンニクがわずかにきつね色になってきたところで、さらに人参を追加してさらに炒める。


 「これちょっと多くない?」


 アウトドア用の小さめのフライパンには、人参一本分のみじん切りが入っている。

 フライパンは二つだから人参二本分だ。


 「二人前で人参半分なんだけどね、どうせみんな食べ盛りだからお替りするでしょう?」


 横合いから美優紀さんが、キャベツを会えながらそう言った。

 キャベツに酢を入れているからコールスローサラダでも作っているのかな?


 「炒めるだけだから先輩はいいですよね」


 智菜ちゃんの言う通りでこれだけの野菜をみじん切りにするのはなかなか大変だっただろう。

 まだこれに玉ねぎ四個、ピーマン六個が続くのだ。

 

 「そろそろお肉に移ろうか?」


 叶夢とは、後々二つのフライパンの進捗状況がそろっているほうが楽だろうからとペースをそろえている。


 「そうですね」


 人参とニンニクを取り出し油を足して大量の合いびき肉を入れていく。

 

 「900グラム……?」


 叶夢は言葉を失っている。

 普段二人で食べるときに、こんないお肉を使うことはない。

 

 「多くないよ。だいたい一杯が野菜込みで200グラム弱だからお替りまで考えたらそんなもんだよ」


 美優紀さんがそう言って合いびき肉をパックから出していく。


 「適当に火が通ったら塩コショウで下味をつけて中濃ソースとケチャップを入れて混ぜ合わせてカレー粉を加えてもうちょっと炒めといてー。あ、六花は今言ったのをそこの箱から出しといて」


 ある程度、火が通ったので六花からそれらを受け取って適量をフライパンの中にいれた。

 そして取り出しておいた人参を戻して、玉ねぎのみじん切りを入れて最後にピーマンのみじん切りをいれた。


 「もうちょっとかなぁ」


 叶夢が期待に満ちた表情でフライパンの中を見つめる。


 「あともう少しピーマンと玉ねぎに火が通ったら終わりでいいかな」


 カレー粉を入れた辺りから傍にカレーのいい匂いが立ち込めていて食欲をそそってくる。

 

 「ん、もう十分そうね」


 フライパンを覗いて美優紀さんがそう言ったのでコンロの火を落とした。

 ようやくできたカレーは見た目からして期待以上のカレーだ。


 「六花、パパっと盛り付けちゃって」


 重ねて場所をとらないようにしてあったお皿を机に広げながら美優紀さんは、六花に指示を出した。


 「私、雑用ばっかりじゃない?」


 六花は不満げに抗議するが


 「料理ができないのは、どこの誰ですか?」


 とバッサリ切り捨てられている。

 六花のカレー作りは雑用で終わったらしかった。

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