第37話 服選び
一時半に再集合して僕らは、駅ビルへと向かうことにした。
少し前に
駅ビルには、アウトドア用品を専門に扱うようなお店もあったりして物を揃えるには、何かと好都合だった。
と言っても駅ビルで買うのは、衣服だけ。
必要であれば、という話だったけど結局のところ買うことになったらしかった。
「兄さんの服は、私が選びますからね」
正直なところ服は十分持っていたのでこれ以上は要らない出費にも思えた。
「僕はいいよ。叶夢が好きなのを買いなよ」
「むーっ……そうだ、じゃあ兄さんが私のを選んでください」
その代わりに、と叶夢はとんでもないことを言った。
「責任重大だなぁ」
なんだかセンスを問われるように思えてそれも気が退けたが断るのも何だか違う気がした。
「わかったよ」
「やった」
叶夢はニコッと笑った。
「えぇ、叶夢ちゃんズルくない?」
そこに話を聞いていたのか六花が入ってきた。
「達希君、私のも選んで欲しいな……なんてね?」
上目遣いをしてねだるような視線を送ってくる。
僕と六花との間に叶夢が割って入った。
「六花さん、兄さんに選んでもらうより当日、いつもとは違った姿で兄さんを驚かす方がよくないですか?」
「確かにそれもそうかもね。そうするよっ」
六花は、満足気に引き下がった。
叶夢がニコッと微笑みかけてきたので、ナイスだったと思いつつ頭を下げた。
エスカレーターに乗り上の階に来ると、そのフロアには衣類を売る店がいくつかあった。
高級なものから、学生でも手の届く範囲のものまで。
「私は、この店を推したい」
頻繁にこういったところに来る六花がある店舗の前で足を止めた。
「奇遇ですね。私もここで服買ったりします」
叶夢も、その店を知っていたらしく六花と二人で盛り上がっている。
男子の僕には、女性用の衣服を売る店は無縁だったからよくわからなかったが二人がおすすめするのなら確かなのだろう。
「姉さん、私たちも可愛い服、探そうね」
「……う、うん」
その場を仕切る六花が別行動にするといったので璃奈さんは智菜ちゃんに連れられて他の店へと入っていった。
「六花さん、兄さんをお借りしますね?」
叶夢がなぜか断りをいれると
「叶夢ちゃんたら、借りるだなんて~まだ私のものにはなっていないんだよ?」
と言いながら六花は、快くそれを許した。
六花と距離が離れたところで
「チョロいですね。あの人」
とため息交じりに叶夢はそう言った。
「じゃあ、兄さん選んでくださいっ!!」
目的の店舗前に連れてこられると唐突に言われた。
女性のファッションなんてあんまり知らないしどうしたものかと考えていると、店員の女性と目が合った。
店員に訊いたら何か、いい服を選んでくれるかもしれないと思って店員さんに尋ねようとすると
「ダメですよ?兄さんのセンスで選ぶんです」
と人差し指で口を塞がれた。
観念して「わかったよ」と言うと叶夢は嬉しそうに微笑んだ。
適当に店内を見て、似合いそうなものを選べばいいだろう。
そう思って、店内の服を入り口に近いほうから順に見ていく。
「これなんかどうかな?」
膝下丈のロングワンピースを手に取り叶夢に渡すが
「なんかちょっと地味ですかもしれないです。何かカラフルな薄手のものでも纏いたくなりますがカラフルなのはいまいち私に似合わないんですよね」
と言ってもとあったところに戻されてしまった。
「じゃあこれは?」
ティアードスカートって書かれた服を渡す。
叶夢は、それを自分の体に合わせてしばらく鏡を見つめた後、それを僕へと戻した。
「これを着こなせるほど私、明るくないです」
確かに、よく見てみると快適性こそあるものの少し叶夢には活発的すぎるような印象だった。
「ごめん、もっとちゃんと考えるよ」
その後も何着か選んだものの叶夢からOKが出ることはなくもう少しで店内を一周し終えようとしていた。
「う~ん、ないかもしれないですね」
叶夢は、他の店に行きましょうと言った。
でも僕は、視界の隅に映った一着が気になった。
「ちょっと待って。これなんかどうかな?」
その一着を手に取り渡す。
それは、清涼感のあるサロペットパンツでこの時期のアウトドアにもってこいのものに見えたし、色合いも叶夢に似合っているように思えた。
叶夢は、それを自分の体に合わせしげしげと見つめた後、
「ギャザーブラウスが素敵です。兄さん、ナイスです!」
と言ってそれを持ってレジへと向かった。
何とか、叶夢の好みに当てはまる服を選べたらしかった。
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