第30話 芹沢の母
「鮎川君だっけ?家に寄ってきなよ」
車の窓から、乗り出しながら璃奈さんのお母さんはそう言った。
「いえ、家がそう遠くないので失礼します」
歩いて5分ちょいってところだからそんなに距離はない。
「まぁ、そう言わずにさ。子供は遠慮しないの」
車から降りた璃奈さんのお母さんに背中を押されるようにして芹沢さんの家にお邪魔することになってしまった。
「お邪魔します」
挨拶をして靴をそろえてていると横から感心したような目で見られて
「偉いわね。大人でもできない人いるのに」
と言われた。
「マナーだって父に教わったので」
「お父さんもしっかりしているのね」
リビングに通されて、ソファーに座っててと言われて璃奈さんと一緒にソファーに腰かける。
「女子の家なのに
「なれているわけではないですけど家だと妹と二人っきりですし、ここにお邪魔したことあるので」
「え、璃奈……すでに彼を私の知らないうちに連れ込んだの?」
連れ込んだって……そういうわけじゃないですよって言おうと思ったがこれは僕に対しての質問じゃなかったから黙っていることにした。
「ちょっ、ちょっとお母さん、言い方……。達希君は、学校からの書類を私に届けに来てくれただけで……」
「本当にそれだけ?」
芹沢さんのお母さんの声は、楽しんでいるような声だ。
「あとは……ちょっと一緒に、お話をしただけで……」
「ふーん、まぁそんなところにしておいてあげる」
そう言って、リビングルームの机の上にプリンとお茶を持ってきて置いた。
「でも良かった。女慣れしてるような遊び人じゃなくて。あ、卵アレルギーとかない?」
プリンの成分表示を見ながらそう言うので大丈夫ですよと返した。
「智菜から、鮎川君のことは聞いててね。中学校時代に生徒会でとてもまじめな先輩だったとか、璃奈の面倒を見てくれてるとかって。私、それを聞いてすごく嬉しくって。こんな不登校で私からしたら愛娘だけど世間一般から見たら地味な子を気にかけてくれる家族以外の人がいるって」
「お母さん……地味傷つく…それ」
抗議するような璃奈さんに世間から見たらそうなんだよ、私は愛おしく思うけどね?と璃奈さんのお母さんは返した。
「だから私からもお礼を言いたくてね?半ば強引だったけど家に寄ってもらったの。ありがとう。この言葉じゃ足りないけど」
「お礼をされるほど大したことは、してません。芹沢さんに学校に行って欲しいから協力してって智菜さんの方に頼まれたので」
トークアプリでの智菜ちゃんとのやり取りを見せる。
「智菜さんからそのメッセージを受け取って心が動かされたんです」
「でも、智菜から聞いたわ。熱心に璃奈に学校に行けるよう働きかけてくれたって」
智菜ちゃんは、僕と璃奈のことを全部、話していたのか。
「こんなメッセージ貰っちゃったらいい加減には、できませんよ」
「大事な仕事だって
そう言って深々と璃奈さんのお母さんは頭を下げた。
「そう言えば、訊いていいかわからないけど」
と切り出してきた。
「なんでしょう?」
「妹と二人っきりって言ってたわね?それってどういう事?」
結構、このことに引っかかる人が多い気がする。
「母は、僕ら兄妹が中学生だったころに亡くなってしまってて父がその後、遠くへ単身赴任することになったんです」
「なんか訊いてしまって申し訳ないわ」
「いえ、もうこの生活には慣れましたし、問題はないです」
璃奈さんのお母さんは、璃奈さんの方を向き直り
「璃奈、とんだ優良物件じゃない!あんた、頑張りなさい」
と言って
「鮎川君こんなにしっかりしてるんだからきっと鮎川君のお父さんもしっかりしてるよね……再婚したら子供が四人に……学費は共働きだから何とかなるとして六人家族って大変なのかしら」
などと独り言を小声で漏らしていた。
そこへ、スマホに電話がかかってきた。
叶夢からだ。
「兄さん、帰りがちょっと遅くないですか?」
ちょっと重い声音でそう訊かれる。
「どこほっつき歩いてるかは、訊きませんけど早く帰ってきてくださいね」
「あぁ、うん」
電話はぶちっと切られ会話は、そこで終了する。
「妹に急かされたので、そろそろ帰ります。ごちそうさまでした」
そう言って、立ち上がる。
「寄ってってもらってありがとうね。妹さんにもよろしく言っといて」
璃奈さんのお母さんに手を振られてリビングを出る。
早く帰らないと、叶夢の機嫌を損ねそうだと思いながら帰り道を急ぐのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます