1章75 『水無瀬 愛苗』 ③

 おとうさんがだいすきで


 おかあさんがだいすきで


 みんないっしょで「えへへー」ってなる



 おんなじおへやで


 おんなじおうちで


 おんなじおふとんでねる



 ちっちゃなせかい


 しあわせなせかい




 がんばってごはんをたべたら


 わたしはおっきくなって


 おそとにでれるようになった



 おかあさんとてをつないで


 おうちのそとへ



 こうえんにはひとがいっぱい


 おとうさんじゃないひと


 おかあさんじゃないひと


 わたしはどきどき



 おとうさんでも おかあさんでもない


 おともだちにであった


 なかよしになって「えへへー」ってわらった



 せかいがひろがった



 おうちにかえって おとうさんにおはなしした


「よかったね」っていってくれた



 おかあさんに「たのしかった?」ってきかれて


 わたしは「えへへー」ってわらった



 どきどきして おふとんでもねむれない


 でも ねむくなってねちゃった






――――




 おともだちがだいすきで


 みんなが「えへへー」ってわらってくれて


 わたしも「えへへー」ってわらった


 みんなでいっしょにあそんだ


 かけっこしたり


 かくれんぼしたり


 ボールなげしたり


 みんなでいっしょにあそんだ



 おかあさんといっしょに「ただいまー」ってして


 おとうさんが「おかえりー」っていった


 みんなでいっしょにごはんをたべた



 おとうさんが「おともだちすき?」っていって


 わたしは「なかよし」っていった


 おかあさんが「よかったね」っていって


 わたしは「えへへー」ってわらった



 おふとんにはいったらねむくなって


 あしたまた「いってきます」したら


 またおともだちとあそびたいなっておもって


 わたしはめをつむった




――――




 かけっこがみんなよりおそくて


 かくれんぼもじょうずにみつけられなくて


 ボールはすこししかとばなくて


 でもみんないっしょにあそんでくれた



 かけっこがビリでも「がんばれー」っていってくれて


 かくれんぼでまいごになっちゃっても「ここだよー」ってみつけてくれて


 ボールもひろってくれた



 めいわくかけちゃったから「ごめんねー」っていった


 みんなは「いいよー」っていってくれた


 いっしょに「えへへー」ってわらった



 みんなやさしくて


 みんなだいすきで


 ずっとなかよしがいいなっておもった


 またいっしょにあそびたいなっておもった



 おともだちといっしょがいいから


 おともだちとおんなじがいいから


 もっとがんばらなきゃっておもった


 またあしたがんばろうっておもった



 そうおもって


 おやすみなさいって


 わたしはめをつむった




――――




 すこしおっきくなって


 みんなはせがのびて


 わたしはあんまりかわってなかった



 みんなはかけっこがはやくなって


 でもわたしはぜんぜんだめなままで



 みんなが「がんばれー」って


 わたしは「うん」って



 いっぱいがんばろうとおもった


 ずっといっしょにあそびたいから




――――




 いっぱいがんばって


 でもあしははやくならなくって


 なのにまえよりもすぐにつかれちゃうようになった




――――




 がんばっておそとをはしったら


 おとうさんがよろこんでくれた


 おかあさんもわらってくれてた



 だからもっとがんばってみたら


 おむねがいたくなって


 のどがくるしくって


 わたしはころんじゃった



 いたくって くるしくって


 たてなくって ないちゃって



 みんながしんぱいそうで


 みんながざんねんになっちゃった




――――




 またすこしおっきくなって


 みんなとかけっこして


 みんなはもっとあしがはやくなって


 わたしはやっぱりぜんぜんできなくって



 わたしをまってると みんなは“や”なかおになっちゃって


 おともだちじゃなくなっちゃうのは“や”だから



 いっしょにあそぶのがまんして


 わたしはひとりでがんばった



 いっしょにあそべなくなったら


 みんなわたしのことわすれちゃって


 おともだちじゃなくなっちゃった




――――




 がんばっておそとをはしったら


 おとうさんがよろこんでくれた


 おかあさんもわらってくれてた



 あるひ わたしががんばったら


 おとうさんは「すごいね」って


 おかあさんは「よかったね」って



 あるひ わたしががんばったら


 おとうさんはざんねんそうにして


 おかあさんもざんねんになって



 あるひ わたしががんばったら


 おとうさんは「ごめんね」って


 おかあさんも「ごめんね」って



 だから もっとがんばってみたら


 おむねがいたくなって


 のどがくるしくって


 わたしはころんじゃった



 おむねがいたくて


 のどがくるしくって


 たてなくって ないちゃって


 せかいがまっくらになった




 めをあけたらしろいせかい


 しらないひとたち


 せんせいと おねえさん



 おねえさんがおとうさんとおかあさんをよんでくれた



 おとうさんはないてて


 おかあさんもないてた


 ふたりとも「ごめんなさい」っていった



 なにがなんだかわからなかったけど


 わたしもかなしくなって


 ないちゃった



 ふたりがかなしいのもざんねんなのも


 “や”だから


 わたしはもっとがんばろうとおもった




――――




 びょういんから でられなくなっちゃった



 しょうがっこうのおともだちが おみまいにきてくれた


 がっこうであったこと おはなししてくれた



 みんなは ちゅうがくねんになって こうがくねんになって


 わたしだけ ていがくねんのまんま



 みんなおっきくなるのに


 わたしはずっと ちっちゃいまんま



 すこしずつ あいにきてくれるおともだちが


 いなくなっちゃって



 あるひ みんな おんなじおようふくをきてた


 みんなは ちゅうがくせいになってた


 わたしだけ しょうがくせいのまんま



 せいふくで さんかい あいにきてくれて


 それから だれも こなくなっちゃった



 おともだちが いなくなっちゃった


 やだなっておもった



 おとうさんとおかあさんも


 まいにちは これなくなっちゃって


 さみしいけど でも わたしのせいで


 たいへんになっちゃったみたいで



 がんばろうとおもって


 がんばったけど


 わたしががんばるから いけないのかなって


 わかんなくって ないちゃった



 ひとりで きえちゃったら いいのかな


 さみしくって こわくって ないちゃった




――――



 おそとにいけないから


 まどのそとをみてた



 がっこうにいけないから


 まどのそとをみてた



 またあっちにかえれるように


 がんばろうって おもいながら



 あっちには おとうさんも おかあさんも


 それから おともだちだっている


 あっちにいけたら またみんなとなかよしになれる



 だから おへやのなかで いいこにして


 まどのそとのせかいを ひとりでみてた



 でも わたしはかえれなかった


 がんばりがたりなかったのかな



 でも わたしががんばると みんな“や”になっちゃう


 わたしもざんねんになっちゃって


 “や”になっちゃった




――――




 まどのそとをみてると かなしくなっちゃって


 ずっとかべをみてた



 なにもかかれてない しろいかべ


 おもいでも ゆめも



 わたしみたいで やだなっておもった



 しろくて からっぽな


 わたしのせかい




――――




 なにもない しろいかべ


 なにもない わたしのせかい



 でも かべにはかがみがついてた


 でも かがみにもわたししかいない



 かがみをみると “や”な“め”


 キラキラしない “や”な“め”



 みると“や”になっちゃうから


 やっぱりずっとかべをみてた




――――




 まどもかがみも“や”だから


 なにもない かべをみる



 まっしろで かなしいから


 にぎやかだったらいいのになっておもった



 せかいがさみしいから


 くれよんでなにかをかきたくなっちゃった



 でもそれは やっちゃだめなことで


 “わるいこと”したら みんなが“や”になっちゃうから


 わたしはがまんした



 だからおえかきちょうに おえかきをした


 くろいねこさんをかいた



 ひとりぼっちだと ねこさんもわたしみたいでかわいそうだから


 もうひとりねこさんをかいた


 こっちはおんなのこだから ぴんくのねこさん



 みんないっぱいのほうがきっとたのしいから


 もうひとりかこうとおもった



 したはもうかけないから おそらのうえ


 こんどはわんちゃんをかいた


 このこは おとこのこだからあお



 あれ? じゃあくろいねこさんはどっちなんだろう


 わかんないや



 みんないっしょできっとたのしいから


 あいてるとこに おはなをかいた


 かききれないくらいに いっぱいかいた


 みんなはいっぱいしあわせになった



 かきおわって えをみて


 わたしは「えへへ」ってすこしわらった



 でもちょっとしたら“や”になっちゃって


 おえかきちょうをとじて


 ひきだしにしまった


 いちばんしたにしまった



 つかれて ねむくなっちゃった


 びょうきがわるくなっちゃうと いけないから


 もうおえかきしない




――――




 さみしくって かなしくって


 しろいかべに なくなっちゃったせかいをそうぞうした


 くるしくって それもできなくなって


 みんなないてた



 かなしくって くるしくって


 ごめんなさいっていって


 さみしいけど すごくつかれて


 わたしはめをつむった


 せかいが “や”になっちゃった




――――




 かべをみてても ねむくならなくって


 でも みるものがないから ずっとみてた



 しろい せかい


 なにも ない


 だれも いない


 わたしの せかい



 わたしは ないちゃった



 そしたら


 まどのほうから こえがした



 しらないこえ


 くろいねこさんがいた


 ねこさんがしゃべった



 ねこさんは「どうしたの?」っていった


 わたしは「さみしいの」っていった



 ねこさんが いっしょにいてくれる っていった


 ねこさんは おともだちになってくれた



 わたしは 『ありがとう』 っていった




――――




 さみしいなって ざんねんになって


 わたしはないてた



 そうしたら めろちゃんがきてくれた


 おともだちになってくれた



 おそとのこと いっぱいおしえてくれて


 いっしょにテレビをみて いろいろおしえてくれて


 たくさん おしゃべりしてくれた


 ねるときもいっしょにいてくれた



 びょういんだから ほんとはねこさんはだめなんだけど


 めろちゃんは ねこさんようせいさんだから だいじょうぶなんだって



 おふとんで よこになって いっしょにねむる


 まくらのよこで まるくなる めろちゃんをなでなで



 いっしょだから おともだちだから


 あしたも こわくない



 まくらにほっぺをつけて となりをみる


 これからは うえを てんじょうを


 みなくていい



 よこをむいて わたしはめをつむった




――――




 めろちゃんといっしょ


 いっしょにてれびをみて おしゃべりした


 ごほんをよんでもらって おしゃべりした




――――




 えいゆうさんの ごほん


 めろちゃんがよんでくれた



 わるいどらごんさんを ひとりでやっつけちゃう


 でもえいゆうさんは ずっとひとりぼっち



 だれもみてないのにがんばって


 がんばったけど やっぱりだれもみてくれなかった



 りっぱなひとだなとおもったけど


 ひとりぼっちが わたしみたいでこわくなっちゃうから


 ごほんはあまりすきじゃなかった



 だからてれびで ぷりめろをみた


 おとうさんがいて おかあさんがいて


 おともだちもいっぱいで


 みんながしあわせで わたしもうれしい



 ぷりめろはかわいくって つよくて かっこよくて


 がんばっててすごい


 おめめがきらきらしてて わたしもきらきら



 でもわたしはふしぎだなーっておもった



 ぷりめろはつよいけど


 でも いっぱいころんだり ぶたれたりして


 たまにないちゃう



 でも ないちゃっても いっぱいがんばる



 どうしてそんなにがんばれるんだろう



 がんばっても だれもざんねんにならないし


 “や”にならないからすごいなっておもった



 めろちゃんにきいてみたら


「まほうしょうじょだからっす」っていってた


 わたしはそっかーっておもった



 そういえばめろちゃんは けがくろい


 おとこのことおんなのこ どっちなのってきいたら


 おんなのこっていってた



 わたしはたいへんっておもって


 ひきだしからおえかきちょうをだして


 くろいねこさんに あかいりぼんをかいてあげた



 ぴんくのねこさんのしっぽにも りぼんをつけてあげて


 わんちゃんは おそらからおちちゃうとあぶないから はねをつけてあげた



 めろちゃんが「じょうずっすね」っていってくれたから


 わたしはうれしくなって おねえさんにおねがいした


 かびんのよこに えをかざってもらった




 わたしがまほうしょうじょじゃないから


 みんなざんねんで“や”になっちゃったんだ



 わたしがまほうしょうじょになれれば


 まほうでみんなしあわせになれるのかな


 まほうでおねがいがかなうのかな



 ひとりぼっちのえいゆうさんとも おともだちになれて


 いっしょにわるいどらごんさんをやっつけて


 いっしょに「えへへー」ってできるのかな



 おかあさんが“おあいこ”っていってた


 わたしがまほうで“いいこと”をしたら


 またみんなおともだちになってくれるのかな


 おとうさんもおかあさんも にこにこになるのかな



 あのえみたいに みんなしあわせに




――――




 きせきとまほうは せかいにはないとおもってたけど


 でも ようせいさんはいた



 ようせいさんがきて おんなのことなかよしになって


 おんなのこはぷりめろになって


 まほうでみんなをしあわせにする



 めろちゃんがわたしのところにきてくれた


 おともだちになって なかよしになった


 じゃあ わたしもぷりめろになれるかな



 ようせいさんはいたから


 きせきもまほうもきっとあるよね



 わたしはがんばろうとおもった




――――




 がんばれなくなっちゃった




――――




 びょうきがだめになっちゃって


 わたしはあんまりおきれなくなっちゃった



 もうすこししたら おかおにきかいがついて


 ねたまんまになっちゃった



 もうがんばれないみたい



 めろちゃんは わたしのてのうえでまるくなって


 ずっとぎゅってしてくれてた



 しろい てんじょう


 せかいには めろちゃんのぽかぽかだけ



 おくちがかくされちゃって おしゃべりできない


 めろちゃんは おしゃべりがだいすき



 わたしがおしゃべりできないから


 めろちゃん ざんねんじゃないかな


 “や”になっちゃわないかな


 おともだちじゃなくなっちゃうのかな



 それは やだ


 ぜったいに やだ



 おとうさんも おかあさんも ざんねんで


 めろちゃんも ざんねんで


 だれもいなくなっちゃう



 それなら わたしがなくなっちゃえばいいのに


 おともだちじゃなくなっちゃうまえに


 おともだちのまんまで おわればいいのに



 つかれて わたしはめをつむる


 めがさめたら ひとりぼっちかもしれないから


 もう めがさめなければいいのに



 せかいがおわっちゃえばいいのに




――――




 せんせいがないてた


 ごめんなさいっていった



 おねえさんたちもないてた


 ごめんなさいっていった



 おとうさんもおかあさんもないてた


 ごめんなさいっていった



 めろちゃんもないてた


 ごめんねっていわれた



 きっとわたしががんばったからいけなかったんだ


 だから、きっとわたしがいなければよかったんだ



 だから、わたしもごめんなさいをして


 みんなのなみだをとめてって かみさまにおねがいをして


 わたしはめをつむった



 せかいがおわった




――――




 めがあいた



 まぶしいせかい



 すこししたら でんきとしろいてんじょうがみえた



 おねえさんがびっくりして はしっていった



 せかいは わたしは おわっちゃったはずなのに



 どうして




――――




 せんせいがないてた


 でも ありがとうっていった



 おねえさんたちもないてた


 でも ありがとうっていった



 おとうさんもおかあさんもないてた


 でも ありがとうっていってくれた



 めろちゃんもないてた


 でも ごめんねっていわれた



 せかいはおわったのに


 なにがなんだかわからなくて わたしもないた



 みんなが よかったねっていった


 だからきっと よかったんだとおもった



 だからわたしはうれしくなった


 ぽろぽろでちゃう なみだでいっぱいで


 でんきのひかりとまざって おはながさいたみたい



 せかいがかわった




――――




 どうしてかわかんないけど


 わたしはげんきになった



 びょうきはなくなって


 げんきになったみたい



 ふしぎだねーってめろちゃんとおしゃべりした




――――




 がんばれば おそとにでれて


 おうちにかえれるみたい


 だから わたしはがんばった



 ふつうのせいかつができるように


 ひとりでおそとをあるけるように


 おうちにかえるために


 ちゅうがくをそつぎょうするために



 うんどうと べんきょうを がんばった



 おとうさんと おかあさんと


 めろちゃんもいっしょに


 みんなでおうちにかえった




――――



 あるひ わたしはきがつく


 まほうがつかえること


 まほうしょうじょに へんしんできるようになってた


 ふしぎだなーっておもった



 それで わたしはきがつく


 わたしがたすかったふしぎは まほうのおかげだって


 かみさまが おねがいをきいてくれて


 まほうしょうじょになれるように かなえてくれたんだって



 おむねがどきどき



 やっぱり ようせいさんがいて


 きせきとまほうは せかいにあったんだ




――――




 でも せかいには


 ざんねんなひとがいっぱいいて


 ようせいさんにあえなかったひとが


 ないちゃってるこが いっぱいいる



 わたしは らっきーだったんだ



 でも わたしだけらっきーなのはずるいから


 ほかのこは わたしがたすけてあげたいなっておもった



 きせきとまほうがたりないなら


 わたしのまほうで みんなをしあわせにするんだ



 そうすれば みんなでしあわせになれる



 みんな“おあいこ”になれる



 わたしはまほうしょうじょになった



 めろちゃんといっしょに


 ぷりめろみたいに



 おむねがどきどき




――――




 こうこうにいくため


 びょういんにもかよえるように


 おひっこしをした


 めろちゃんもいっしょ


 みんなでおはなやさん


 おむねがどきどき




――――



 わたしはこうこうせいになった


 おともだちいっぱいできるかな


 がんばろうっておもった


 おむねがどきどき




――――




 みんなはすごくおとなっぽい


 わたしはすこしせがのびたけど


 でもみんなよりこどもっぽい


 わたしだけまだ しょうがくせいのまま



 だから みんなのおはなしがあんまりわかんなくて


 でも みんなたのしそうだったから


 わたしも「えへへー」ってわらった


 みんなはおとなだから「えへへー」とはいわなかった



 わたしがじょうずにできなくて


 みんながざんねんになったり “や”になっちゃうのはやだから


 いっぱいがんばろうとおもった




――――




 じょうずにおはなしができない


 もっとがんばろうっておもった




――――




 てんこうせいさんがくるんだって


 あたらしいおともだち


 いまてんこうするのはめずらしいんだって


 みんながざわざわしてた



 わかんないことがあったらたいへんだから


 わたしもやさしくしてあげようっておもった



 おともだちになれるかな


 おむねがどきどき




――――




 たいへん! っておもった



 てんこうせいさんがきた


 みんなのまえにたって こっちをむいた



 わたしがいる



 わたしといっしょなんだっておもった



 しろいかべの かがみにうつってた


 わたしとおんなじ“め”



 せかいがしろくて からっぽで


 ひとりぼっちで もう“や”になっちゃった“め”



 このこは わたしとおんなじなんだっておもった



 たすけてあげなきゃっておもった



 わたしにはめろちゃんがきてくれて


 まほうがあって かみさまがきせきをくれて


 それでわたしはたすかったけど


 このこにはようせいさんがいないんだ



 だからわたしのまほうで たすけてあげたいっておもった



 まずはおともだちになろうっておもった


 ちゃんとできるかな


 おむねがどきどき


 がんばらなくっちゃ




――――



 びとうくんはいつもひとりぼっち


 ほかのこが“や”みたい


 わたしのことも“や”みたい



 みんなはびとうくんがいるとざんねんになっちゃって


 みんなも“や”になっちゃう



「しっしっ」ってされると わたしも「しゅん」ってなっちゃいそうだけど


 でも もっとがんばろうとおもった



 このままじゃびとうくんが わたしみたいになっちゃう


 びとうくんがずっと“や”なまんまなのは かわいそうだから


 わたしがもっとがんばれば きっとだいじょうぶだよね




――――




 いいんかいにはいった いきものいいんかい


 わたしのおうちはおはなやさんだから


 きっとわたしもかつやくできるとおもった



 ほかのくらすのこがいっぱいで


 じょうきゅうせいの おにいさんとおねえさんもいっぱい


 おむねがどきどき



 ちゃんとできるかな


 いっぱいがんばろう




――――




 いいんかいで すごいこにあった


 とってもかわいくって きれいで かっこいいこ


 きさきななみちゃんっていうんだって



 おしごともぴゃーってやっつけちゃって


 おとなのひとともちゃんとおはなししてた



 かみのけも おめめも きらきらしてて


 ぷりめろみたいっておもった



 おともだちになりたいな


 おなまえもかわいいから


 ななみちゃんってよびたいけど



 ななみちゃんが“や”になっちゃうかもだから


 きさきさんこんにちはっていった


 おむねがどきどき




――――




 きさきさんがはなしかけてくれた


 わたしがこまっちゃってたら たすけてくれた



 いっしょにてつだってくれて


 いっぱいおはなししてくれて


 おともだちになってくれた



 うれしい おむねがどきどき




――――




 きさきさんはすごい


 おともだちいっぱいだし いろんなことをしってる


 わたしにもいっぱいおしえてくれた



 すまほのこととか


 じょうずなおはなしのしかたと


 じょうずなおはなしのききかた



 まいにちすまほで ぺたぺたおはなしして


 もっとなかよしになれた



 うれしい おむねがどきどき




――――




「ななみちゃんってよんでいーい?」ってきいたら


「いいよー」っていってくれた



「まなってよんでー」っていったら


「いいよー」っていってくれた



 おなまえでよびあって いっしょにあそんだ



 わたしは「えへへー」ってわらった


 ななみちゃんも「えへへー」ってわらってくれた



 だいすき


 おむねがどきどき




――――




 びとうくんが ほかのこをぶってた


 ぶたれたこがないちゃって


 わたしはたいへんだーってなっちゃった



 びとうくんに ぶったらだめなんだよっていったんだけど


 だいじょうなんだって


 わたしは「あれー?」ってなったけど


 でもだいじょうぶなのかな?



 びとうくんは ふうきいいんさんだから


 わるいことしたこに「めっ」てしたんだって



 わたしも まほうしょうじょで


 ごみくずーさんに「めっ」てするから


 それといっしょなのかな?



 でも びとうくんはまじめだし


 きっとだいじょうぶだよね




――――




 ななみちゃんがだいすき


 ななみちゃんは 一番のおともだち



 ななみちゃんはすごい


 ななみちゃんはかっこいい


 ななみちゃんはとってもかわいい



 やさしくって なんでもできて


 憧れのおともだち



 ななみちゃんはとても足が速いから


 おいてかれないように私もがんばる



 ななみちゃんはすごいから


 “や”な顏にさせないようにもっとがんばる



 ななみちゃんはやさしくって


 いっつも私をたすけてくれて


 ずっと私をまもってくれてた


 わたしが気付く前にパパっと色々しちゃう



 わたしはさきに“いいこと”をしてもらった


 だからわたしもななみちゃんをたすけて


 ななみちゃんのことをまもってあげたい



 “おあいこ”じゃないと


 またおともだちでいられなくなっちゃう



 ななみちゃんはやさしいから


 そんなことないかもしれないけど


 でも“おあいこ”じゃないとずるいから


 そうなっちゃうかもしれないから



 まえはできなかった


 かけっこはやっぱりとくいじゃないけど


 でも、わたしにはまほうがある



 だからいまはきっとできる



 ななみちゃんをたすけて


 まもってあげて


 ずっとえがおでいられるように


 ないちゃわないように



 わたしのまほうで




――――




 びとうくんのおはなしをすると


 ななみちゃんのおくちがもにょもにょしちゃう


 “や”じゃないけどちょっとざんねんみたい



 めろちゃんと ななみちゃんと びとうくんと


 みんなでなかよしになれたらいいな



 まほうしょうじょは ないしょにしなきゃいけないみたい


 だからちょっとむずかしいかも



 でも がんばればいつかきっとかなうよね




――――――




 ぜんぶだめになっちゃった



 おともだちじゃなくなっちゃって



 まほうしょうじょじゃなくなっちゃって



 ぜんぶが だめになっちゃった


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