第57話 狩り祭り・後
こいつは、対人族との戦いを重ねた経験深い、壮年の
そのため、戦闘時の判断が本能のみの
逃げる擬態、不利な擬態、フェイント、こちらのパターンの学習。厄介極まりない。
また
そして、殺しへの執着は強い。結果として殺すことが目的なので、その目的のためなら、スキを作るために、一旦、引くこともする。そういう先のことまで考えた、かなり高度な判断ができるのが
「こういう相手の小賢しさを破るのは、昔から圧倒的な暴力って相場は決まってるんだよね」
圧倒的な暴力とは、即ちリーゼだ。ところが
しかし、俺が下がって、リーゼを前にしようとすると、
「うーん、そうだ」
リーゼがポン、と手を叩いた。
「シダン、位置の入れ替わりに時間を使うから、対策されるんだよ。一気にやっちゃおう?いちにのさんで、シダンがしゃがんで」
「なるほど…わかった」
円の動きで変えられる前に、一気に前に出れば、立ち位置を変えられるかもしれない。
「いちにの」
「「さん」」
俺はしゃがむというより、五体投地を敢行。リーゼは俺の上を弾丸のように飛んでいき、
よし!位置の入れ替えに成功した!
こっちが牙と爪を警戒していることにも気づいている。
リーゼは
そのため、もし爪に掠りでもすれば、すぐに腕が使えなくなる。しかも激痛で動きが鈍れば、さらに大変なことになる。
とは言え、それだけリーゼに集中させれば、充分だ。
ならば、俺はリーゼが作ってくれた隙を狙う。
「
今いる場所と、ほかにもいくつか、逃げそうな場所を予測する。その全ての箇所に同時に
「グギャッ♪」
しかし、
「シダン、ナイス!私が決めるっ!」
俺が
バックステップで下がったリーゼは、軽く走り出し、そして高く飛び上がった。リーゼは空中で、右脚を頭よりも高く上げている。…これは踵落とし?
「喰らえっ!」
リーゼが、
「リーゼ!攻撃は待てっ!」
すると、
「くそっ!捕まっていたのは、ブラフかよっ!?」
俺の叫びも虚しく、リーゼの踵落としは地面に刺さった。そのスキを
大きな空振りで、地面を蹴りで叩いている隙だらけのリーゼを、
「あぐぅっ!?」
「リーゼッ!」
薙ぎ払われたリーゼは、後ろに転がるように飛ばされると、最後は地面に寝転がった。
目は閉じているが、わかりやすい胸は上下しているので、息はある。どうやら気絶しただけらしい。しかし、倒れたリーゼの右脚は、変な方向に曲がっていて、素人目に見てもわかるほどハッキリと骨折していた。
これは…
「リーゼ、今治す……って…!!」
俺が治すために、倒れたリーゼに駆け寄ろうとした。しかし、
「ちぃ…」
こいつ…つくづく頭を使ってくるな!俺が、リーゼを助けようとしようとしていることを、察したようだ。さらに先程までの対峙で、一対一なら、俺に決め手がないこともわかったのだろう。
今度は、リーゼの方に行かせないようにだろう、爪での横振りなどを仕掛けてきた。後ろに下がってリーゼから離れれば、避けやすい攻撃を、だ。
嫌らしいヤツだ。こちらに攻撃手段がないのをいいことに、
俺に、
10倍…10人分…。
む?俺10人分…??
「ガヴァッ!!」
「チッ!?」
思考の海に浸って呆けている俺に、
ギフトの効果で、神経毒は俺には効かないので、怪我をしただけで済むのが幸いだ。
続けて、噛み付き攻撃を仕掛けてきた
んんん?何か閃きそうだ。…10本を撚り合わせる?…三本の矢…力を合わせる。
「待てよ…」
俺の
「やってみるか…
10本の地下茎をロープの様に撚り合わせて、デカい一本の、地下茎を作る。
そして、それを鞭のように横薙ぎに振るった。
この攻撃も、
これは…思っていた以上の威力が出ているな。単に10倍のパワーがあるだけではない。これに、地下茎の硬さ、そして地下茎10本分の重量の慣性が威力として加わっているみたいだ。
「これはいい…リーゼには及ばないが、かなりの破壊力が出せるみたいだな…よし、
縦横無尽に、まずは、とにかく振りまくる。スキを与えないように、大振りはせずに、
縦向きの振り方だと、最後は地面に当たるため、慣性を少し無視して、次の行動に移れる。しかし、攻撃でカバーできる範囲が狭くなる。
横向きの振り方だと避けられたときに、思いっきり慣性に振り回されてしまう。
そのため、斜め向きの振り下ろしを中心に
「くうっ!なかなか当たらないな」
最初こそ、
そう、
先程のリーゼのスキができた際のあの嫌らしい笑みは、
(そうだな…感情を隠せないなら、今は完全に俺をバカにしきっているのは間違いない…。ならば、この罠にかけられるはずだ)
大きい空振りのあと、一気に距離を詰めてきた
「くっそ…
それに今の尻尾の一撃は、腕で防御することが出来たので、腕が折られるだけで済んだ。その腕の骨折も
転んだ体制から起き上がっていない俺に、追い打ちをかけようと
近づき過ぎるとキツい俺は、フェイントも何もない、予備動作すらも大きい、見え見えの横振りをする。
もちろんそれは
高く飛び上がり、
これまでなら慣性で、横向きいっぱいまで振ってから止まるはずの
「引っかかったな」
これまでは、攻撃を受けながらも、敢えて、慣性に任せるように振り続けていた。
もし今回も慣性通りに振られていれば、
ところが、
俺は、これまでずっと
俺は、逆にそれを狙っていた。
「
流石の
「!?」
これは…まずい…読み負けた…?
このままだと
「
この5日間、何度も聞いて、聞き慣れた、彼女の声とともに、無数の小さな石が、弾丸のように飛来したきた。
大したダメージにはならないだろう。しかし、石礫を受けた衝撃と痛みのためか、
声の方をチラリと見ると、馬車に居たはずのアンが、メイド服のまま、すぐそこまで来ていた。
自分とお嬢様に危険が及んだときも使わかなかった攻撃的な魔法。アンは、その気持ちを乗り越えて、俺を助けるために、攻撃的な魔法を放ってくれたのだ。
「シダン様ぁ〜勝ってください〜!」
「アン!助かった!」
10本を撚り合わせて2メートルの太さになった地下茎が、空中で完全に態勢を崩した
やっと捕らえた…もう放さねぇぜ!!これだけ太い地下茎なら、さっきみたいに簡単には噛み切られたりはしまい!
「グギャギャギャギャギャ!!!」
「こんちくしょうおおおおおお!!!」
そのまま、空中の
慣性も。
地下茎の重さも。
10倍のパワーも。
全て、全て、載せられる全てを載せて、
「死ねやあああああああああッッッ!!!」
重量、慣性、パワーが、集約した一撃に、ズッドォン!!!と、大地が激しく揺れる。
それと、同時に「ミギャァァァァァァッ!!」という、世にもおそろしい
振り絞るような悲鳴が途切れると、
見れば、
ピィィィイイイイ!!
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