2章:初めてのまともな食事と決意とエルフの少女
第11話 エルフの少女
「じゃあ、あとはよろしくお願いします」
「キースもマリーも無理しないでね…チャドさん、2人をよろしくお願いいたします」
マリーさん、キースさん、チャドさんの3人は院長先生と一通り挨拶をすると、お金を渡して、街の方へ食事に行った。
とは言え、まだしばらくコーダエを拠点にして仕事を受けるみたいだし、そもそも定期的にここには足を運んでいるらしいので、そのうち、会うこともあるだろう。
「では、シダン」
「…はい」
9年間も名前もなく過ごしていたので、新鮮な感覚だ。院長の呼び掛けに、自分のことと一瞬認識できず、反応が遅れてしまった。
「孤児院のメンバーにあなたを紹介します。ついてきてください」
「わかりました。よろしくお願いします」
この孤児院、外から見た感じには、レンガ造りの平屋だった。それなりに大きく、200平米程度の敷地はありそうだ。裏には畑が見えたので、子供たちで面倒を見て、ある程度、自給自足をしているのかもしれない。
マーリネ農業国は、北に大きな山を抱えているが、ここにくるまでのウォーキングで聞いた限り、南には平原が広がっている。
そのためか、また都市と国家の単位も違うということもあるのだろう。都市を城壁が覆っている、欧州の都市国家的なイメージではなく、飽くまで国の中の都市という位置付けなのか、街に城壁はないそうだ。もちろん国境に行けばまた違うのだろうが。
そのため、孤児院のある郊外は、境界も何もないため土地を使い放題だろう。
「さて、この先が食堂で、いまみんなは朝ごはん食べています。ちょうど集まっているので紹介しますね」
「はい」
院長先生が先に食堂へ入っていき、中の子供たちに声をかける。
「みんな、新しい仲間です。さ、シダン入って」
「はい」
こちら、と手招きをするので、合わせて食堂へに入る。
中には…6人の子供がいて、シチューらしきものをスプーンで食べていた。3人が明らかに俺より年上の…地球で言う中学生くらいの男の子。そして俺と同じ年くらいの女の子が1人。俺より年下らしい3、4歳くらいの男の子1人に女の子1人だ。
「こちらの年長組はイワ、ヒダカ、タケオ。とは言ってももう明日には卒業だから、短い付き合いにはなっちゃうけどね」
院長先生が年上男子をそう紹介するが、年長組はご飯に夢中でこちらに見向きもしない。院長先生は、仕方ないか、という風に軽くため息をついて、次に同じ年くらいの女の子を引っ張ってきた。そして女の子の両肩を後ろからもって、俺の正面に立たせる。
「こちらの女の子がロゼッタ。シダンと同じ9歳」
もじもじっとしながら女の子が俺をじっと見ていたが、やがて慌てて口を開く。
「よ…よろしく、えーとシダン?」
「シダンです。よろしく、ロゼッタ」
さっきの鑑定でわかったけど、俺の年齢に9と書かれていたよね。ということは、この子も同じ年といういうことだ。
「こっちの年少組が2人とも3歳。男の子がシマと女の子がリマ」
「よろしく」
「よろしくお願いいたします」
2人揃ってキチンと頭を下げるので感心した。3歳と言えば、地球で言うと幼稚園に入ったばかり。言葉もまだまだ未成熟で、てにをはもなく、ようやく会話が成り立ち始めるレベルだろうに。
俺は膝をついて、子供に目線を合わせた。そういえば、子供は目線を合わせて話すのが大事と聞いたことがある。理由は忘れたが、悪いことはないだろう。
「シダンです。シマ、リマよろしくね」
「「うん」」
2人がニコリ、とした。うん。小さい子供は男女関係なく癒されるね。2人への挨拶を終えて立ち上がると、同じ歳のロゼッタがまた前に出てきた。
「院長先生、シダンは私の隣の部屋でいいですよね?」
「そうね。いまあそこ空いているもんね」
「じゃあ、私が案内してきまーす」
「お願いね。その間に私はシダンの朝ごはん用意してきますから」
先生は恐らくキッチンに繋がっているのだろう扉を開けて隣の部屋に行った。年長組は相変わらず食ってて、無反応。まぁ明日にはいなくなるって言うから気にしなくていいか。
「改めて、私はロゼッタ。私も9歳だから、よろしくね、シダン…うーん。シーくん、って呼んだ方がカワイイから、そう呼んでいい?」
「あ、ああいいよ。うん。よろしく、ロゼッタ」
ロゼッタは手を差し出してきたので、こちらも手を差し出し握手する。名前ついた直後に、早速あだ名もついた。
「ここでは、みんな助け合っていくの。私たちもシーくんを助けて上げるから、シーくんも私たちを助けてね」
「わかった」
クリっとした優しげな垂れ目に長い睫毛。少し癖のある肩くらいまでの金髪をふわりとさせながら、ロゼッタと名乗った少女はそう俺に告げた。
年よりも、かなり大人っぽい感じがする。…これは将来、美人になるだろうなぁ。ん?あれ?髪の隙間から覗く、耳が…何だか妙に長いし、先が尖ってる?
「シーくんの部屋はこっちだよ」
「え?あ?はい」
ぼーっとしていたら、ロゼッタが俺の手をグイグイと引っ張り、俺をどこかに連れていく。
「私の耳に気がついた?」
「え?あ?勝手に見てごめん?」
「謝ることないわよ?この耳は
「
エルフ!?エルフだって?そういえばルカと話していたときに名前だけは上がっていたな。耳尖ってるし、なるほと、あのエルフなんだろうな。
「そうよ。シーくんは
「うん。親に売られて、初めて村の外を知ったから…何か
「イーサマータ…ほんと田舎…というか人が住んでいる北限じゃん…」
「アハハ…」
人が住んでる北限っすか。田舎なんてレベルじゃなかったのね。
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