第79話 鉄はとびちるんだったー!
糸巻きクルクル……。
糸がまかれると、僕らのターンがクルクルと巻きで進んでしまった!
思ったとおりだ。相手のターンを強制終了させるスキル。
そして、敵のターンに移った瞬間だ。いきなり、さびた鉄クズみたいなものがパーンと派手に破裂音を響かせる。
待って、待って? 鉄クズ? 鉄クズだって? これはイヤなおぼえがあるぞ。
前にホムラ先生の研究所がダンジョンになってしまったときだ。鉄クズってモンスターが自爆技を使ってきたっけ。しかも、鉄クズのHPは1なのに、こっちのダメージは200だったんだ! 部品のHPは10だから、単純に計算して、ダメージは十倍。二千か!
今の僕のHPは約二万八千。二千ダメージは痛いけど、死ぬわけじゃないからいいか。ぽよちゃんもランスも二千くらい……ん?
「ギャー! エルが死んじゃう!」
自爆は全体攻撃なんだー!
でも、そのときにはもう遅く、部品はとびちってた。
「イテテ。イテッ」
「かすり傷っす!」
「まあまあ痛いよ」
僕、ぽよちゃん、ランスは思ったとおり、ぜんぜん平気。
けど、鉄クズが消えると、エアリーサンは床に倒れてた。美少年(風ぽよぽよ)のまわりでお星さまが飛んでる。
「ごめん。エル。次のターンで蘇生してあげるから」
残るは糸巻きと機織り機だ。糸巻きの『糸をまく』はやっかいだけど、ほかはただの直接攻撃みたいだし……。
機織り機の順番さえすめば、もうこっちのものだ。
次の僕らのターン、まず糸巻きを倒して、そのあとエルを生き返らせる。そして、機織り機をやっつければ問題なく勝てる。なんなら、MP使わずに回復できる技を使ってもいいかな。
なんて考えた次の瞬間、今度は機織り機が思わぬ技を使った。
パタン、パタン、パタンと心地よいリズムで、はたをおる。横糸、縦糸そろえてね。
はたをおるって技だよね? なのに、なんでだ? リードがカタンカタンと鳴るたびに、そこから野生の部品がとびだしてくる!
ああ、また野生の部品があんなに……全部で十体はいるなぁ。
「ど、どうしよう。さすがに十個全部に爆発されたら、僕でもヤバイよ」
「おれは死ぬな」と、ランスが肩をすくめる。
ぽよちゃんだけはHP六万あるから、それでも余裕。
てかさ。僕とぽよちゃんの器用さなら敵の物理攻撃なんて、みんなかわせるはずなのにな。自爆は必中なのか。神獣の気でもふせげてない。魔法あつかいなのかな?
僕らは次に起こる惨劇を予想して、かたく目をとじた。
……けど、何も起こらないな?
「あっ、動けるようになってる。僕らのターンだ」
よかったー! はたをおるで増えた部品は、そのターン行動しないんだ。でも、次のやつらの順番まで残ったら大変だ。部品には自爆以外の行動パターンがない。必ずこのターンで終わらせないと。
「糸巻きさえ倒せば、行動順をとられることはないね。じゃあ、僕、糸巻き倒してから、エルを蘇生する。そのあと、全体魔法で全滅させるよ」
もうつまみ食いなんて言ってられない。こんなに緊迫した戦い、ひさしぶりだ。この前、願いの国から脱出する洞くつのなかで、呪われまくったとき以来だ。あれ? 意外と最近だった?
と、そのとき、ランスが言いだす。
「ちょっと待ってくれ。おれは知力とMPを増やしたい」
「いや、でも……」
「ちょっと、おれに任せてくれないか?」
「えっ? いいけど?」
どうするかと思えば、ランスは後衛にさがった。四人しかいないから、全員前衛に出てたんだよね。これが根本的な敗因だ。半分ずつ前衛後衛になってれば、あせらなくても二人は確実に生き残ったのに。
「えっと、じゃあ、僕やるよ?」
「待った。おれの神獣セラフィムの特技にいいものがある」
「え?」
次の瞬間、ランスは叫んだ。
「神の言葉!」
さらに、ブツブツとラテン語かなんかをつぶやいてる。なんとなく、バトルフィールドの空気が変わった。
これは、アレだ。火の結界とか、水の結界とかの結界魔法。その属性の魔法効果があがる空間を作る。効果はたいてい数ターン。
「5ターンは大丈夫だ」
「これ、何属性の結界?」
「光だな」
やっぱり、光属性なのか。ランスは生来魔法も光属性だしな。
「でも、これでランスの魔法の威力が増したとしても、すぐに部品を倒さないと、アレ全部が爆発したらヤバイって状況は変わってないよね?」
すると、ランスは笑った。
「いや、もう、やつらはおれたちを攻撃できない」
「なんで?」
「光魔法を使えないから」
うーん。奇妙発言。
「なんなら、試しにつまみ食いでもして、ヒマつぶしてみれば?」
では、遠慮なく。
糸巻きからチューチューする。もちろん、糸巻きは僕が全部の数値を吸うまで待ってくれない。途中で糸を巻かれた。直後に部品のとびちらかす。ちらかるほど、とぶなよぉ。ほんとにもう。
けど、十個の部品が連続自爆したのに、なぜだ? 僕らには傷一つつけられなかった。
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