第78話 ぽよぽよ軍団、廃墟工場へ



 しょうがないんで、僕はサンダーに金貨を数枚渡した。百億円一枚、一億円十枚、一千万十枚。これだけあれば、今夜の夕食や武器防具なんかもたいてい買える。なんなら、屋敷や戦車だって買えてしまう。


「サンダー。君だけが頼りだ。君はかしこいから、このお金を有効に使えると信じてる」


 サンダーは黙ってうなずいた。寡黙なタイプか。


「いやはや。何もモンスターに託さなくても」

「さよう。このゴウヨンほど正直者はおらぬ。自己の欲望に対してな」

「えっと、この町にはカジノってなかったかな?」

「……」


 信頼ならない人間たち。ゴウヨンさんは魔物か。


 馬車を置いて、僕らは廃墟工場へ走った。町の大半が廃墟になった工場だ。どこにいるんだろう? あまりに広大な敷地で迷路みたいだ。


「ボス付近に行くまでは、隠れ身ガマンしとこうな。いざってときに使えないとダメだから」と、ランス。


 隠れ身は便利な技だけど、クールタイムが必要なんだよね。


 侵入できそうな場所を探すと、入口は一つだ。


「アニキ。なか、ダンジョンっすね」

「モンスターの気配がいっぱいあるね」

「ええ? 僕わかりません」


 上から、ぽよちゃん、僕、エアリーサンだ。エアリーサンって長いな。エアリーでいいや。


 三匹のぽよぽよが頭をよせあって語る図。


 なぜか、エアリーもぽよぽよ職につくと、ぽよぽよ変化した。心が純粋な精霊族だからかもしれない。素直なんだね。僕より小柄で銀色の巻毛のウサギ。尻尾もカールしてる。


「はぁ。可愛いなぁ。ぽよぽよ三匹にかこまれて、おれ、幸せだぁ」


 ランスは至福の笑み。

 ミニコはロボットだし、人間がいないもんね。


「だから、モフらないでよ」

「ケチケチするな。人間のときは握手もできないんだぞ?」


 うーん。なんとなく、僕はその原因がうっすらわかってきた気がするんだけどな。本人は気づいてないのかな?


 かわるがわる僕らを抱きあげるランスにつれられて、いよいよ工場に侵入だ。薄暗くて、いかにも廃墟だなぁ。こんなとこには、たいてい、僕の嫌いなアレがひそんでるんだけど……。


「あっ、そうだ。僕、神獣ソロモーン、マスターしたいから、転職しよう。戦闘中は就労特性召喚で、ぽよぽよ神になるから」

「おれもセラフィムになっとこうかな。オークは人目を忍ぶ姿だ」

「ぽよもライトウルフおぼえるっす」


 話してると、さっそく出た。

 チャララララ……。

 戦闘音楽だ。



 野生の機織はたおり機があらわれた!

 野生の糸巻きがあらわれた!

 野生の部品があらわれた!



「……野生の部品? 糸巻き? 機織り機?」

縫製ほうせい工場だから。カーリーぽよぽよも可愛いよなぁ」

「ランス。エアリーがイヤがってるから、やめてあげて」

「ぽよちゃんのハートマークもすてがたい」


 こいつ、この調子でいつもネコりんたちをなでまわしてるのか。


 工場に放置された道具がモンスター化してしまったみたいだ。魔王軍が建物を占拠すると、こうなるんだよな。


「ぽよちゃん、聞き耳!」

「うっす!」


 ステータスは……うん。ザコ。弱い。弱すぎる。一番強い機織り機でもHP900、力150、体力50。部品なんか、HP10だ。

 スキルは機織り機がギットンバットン、はたをおる。糸巻きがグルグル巻き、糸をまく。部品はとびちらかす。


「たいしたことないねぇ。僕、つまみ食いしよっかな。吸血の指輪が四つあるしねぇ」


 吸血の指輪は僕といっしょにいるメンバーじゃないと、装備しても効果がない。なので、前につけてたトーマス、イケノくんからは回収してある。さらに、出かける前に三村くんが「また、でけたで」と新しいのを渡してきた。三村くんのつけてたオリジナルとあわせて四つだ。


「じゃ、ぽよちゃん、ランス、エアリー、一個ずつ装備してね」

「うっす!」

「知力……知力をおれにくれ」

「エルって呼んでください。わが神さま!」


 一個あまるなぁ。ミニコは自身が装備品なんだよな。武器防具は身につけられるんだけど。


「ミニコ、これ、つけられる?」

「ミ? ミミィ……」


 ミニコは首をふった。

 装備品との相性があるのかな? 吸血の指輪が数値をあげるタイプのものだから、エラーが出たのかも。ミニコは歯車かじってステ伸ばすタイプだからなぁ。


 しょうがないね。自分でつけとくか。勇者マスターしたから、装飾品の装備数ふえたしね。


「よっし。食うぞ! まずは機織り機からだ〜」


 ストローぷすっ。チューチュー。チューチューチュー……。


 油断しきってると、何かが起きるよね。


 そのときだ。

 糸巻きが変な動きを。

 クールクルと糸をまき始める。

 こっちの順番なんだけどなぁ。これは、あのパターン? 敵のターンをのっとっちゃうっていう?

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