第71話 ぽよちゃん対ジャッケル戦1



 モンスターに化けて、こっそり関所を通過する——

 こうなったら、そんなことは言ってられない。かーくんには申しわけないが、仲間をほっとくなんて、ぽよちゃんにはできなかった。


「ケロちゃーん!」


 ぽよちゃんは戦場に急いだ。


 ジャッケルが何やら呪文を唱える。すると、ジャッケルの姿が一瞬、見えなくなる。

 隠れ身だろうか? アンドーアニキが使うような?

 トーマスやランスは子分だが、アンドーだけはアニキと呼んでもいい。かーくんのダチだし、隠れ身には何度も助けられた。


 いや、違う。何かが動く残像が見える。隠れているわけではない。あまりにも素早くて、視覚でとらえることが難しいのだ。


 稲妻のような黒い筋が走り、ほぼ同時にゲリラ軍の人たちが次々に倒れた。みんな、白目をむいてる。戦闘不能だ。残るはケロちゃん一人。


「た……助けてケロォー! かーくん、ロラン、みんなー!」


 ぽよちゃんはスピードファイターをかけながら、戦場にとびだした。


「ケロちゃん、来たっす!」

「ぽよちゃん!」

「ケロちゃんは後衛にさがってろ!」

「ケロ!」


 黒い筋にむかって、ぽよちゃんは自らつっこむ。ガチンと固い衝撃がぶつかる。


「ほう……おれのスピードについてこれるヤツがいるとはな。それも、なんだ? ぽよぽよか?」

「ふん。ぽよは、ぽよぽよのなかのぽよぽよ。ぽよぽよ王だ! 仲間には手出しさせないぞ!」

「ぽよぽよふぜいが、一度止めたていどで、いい気になるな!」


 ぽよちゃんはすでに数十歩以上、戦場を走っている。スピードファイターで素早さと器用さがとっくにマックスの百倍に達している。

 それなのに、なぜか、ジャッケルの動きがまだ見えない。


(そんなバカな? まさか、ぽよより速い? そんなわけないっす)


 戦場をかけぬける一陣の風のようなぽよぽよ。

 それにまったく劣らず追いすがる黒い筋。

 何かが、おかしい。


 そういえば、ヤツは古代の魔法と言っていた。ヤドリギやゴドバのような変な魔法がかかっているに違いない。


 何度もぶつかりあっているうちに、ジャッケルのターンが終わったようだ。

 ぽよちゃんはいったん立ちどまった。むこうのターンでなければ攻撃は受けない。


 ジャッケルはニヤニヤ笑いつつ、こっちを見ている。


「ぽよぽよにしてはやるな。これほど強い戦士は初めてだ。どうだ? きさま、おれの傘下さんかにならないか? 右腕にしてやるぞ?」

「お断りっす」

「では、後悔しながら死ぬがいい!」

「負けるのはそっちっす!」


 ここは落ちついて、いつもみたいに聞き耳だ。

 数値は見えない。なんだかまぶしくて、キラキラした何かにジャマされる。スキルはかろうじて見えた。それも、ぼんやりと。


(カガミ……? 鏡って、ロランが大好きなやつ? 毎朝、自分の顔をながめてるやつっすよね?)


 よくわからないけど、ジャッケルがとても強いことだけはわかった。手かげんしていては、たしかに勝てない。


「よし。ここは新しくおぼえた、あの魔法だ」


 ぽよちゃんは呪文を叫んだ。

「友達百人できるかなー!」


 すると、自分のまわりにポワポワと綿毛のようなかたまりが、いくつも浮かんでくる。いっきに百体のぽよちゃんになった。ステータスもスキルもそっくり同じ分身だ。


「みんな、アイツをやっつけるぞ!」

「うっす!」

「やるぜ、やるぜ!」

「オートテンションモードっす!」

「うぉー、あがるー!」

「アルテマハイテンション!」


 仲間にぽよぽよが十匹以上いると、自動でテンションがあがるオートテンションが発動した。


 百倍ぽよちゃん総攻撃!

 いくらなんでも、これでやれないはずはない。ゴドバだって、もっとチョロかった。

 途中の関所のボスが四天王より強いなんて、そんなことありえないのだ。


 だが、いったい、どうしたというのだろう?

 ぽよちゃん百分身の総攻撃を受けて、ジャッケルは……まだ立っている!


「な……アイツ、化け物っすか?」


 かーくんアニキ、早く来てほしいっすよ!

 ぽよの全力で勝てそうにないっす。


 あきらめの気持ちに、ぽよちゃんは押しつぶされそうになった。

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