第70話 ケロちゃん大ピンチ!



 ぽよちゃんはモンスターだ。もとは野生だった。毎日、草原で草を食べ、仲間たちと平和に暮らしていた。たまに人間と遭遇したものの、それほど大きなトラブルもなく、両者はそれぞれのテリトリーで住みわけていた。


 魔王軍が台頭たいとうしてから、世の中がおかしくなったのだ。

 ぽよぽよのぽよちゃんが人間の味方をするのは変だ。でも、魔王軍のやりかたには納得できない。

 以前の平和な世界に戻ってほしい。そのために魔王軍をやっつける人間がいるなら、力を貸してあげたい。

 それがかーくんの作戦にあわないなら、せめて予言の巫女を助けたあとでもいいから、ウールリカを解放できないだろうか?


 少なくとも、あの男の人たちが全滅すると思うと、とても悲しい気分になった。


 とにかく、ここはケロちゃんをつれて、早くかーくんのもとへ帰ろう。きっと、アニキなら、うまく解決してくれる。


 ところがだ。ようすをうかがって、やっとケロちゃんが入れられた馬車のなかへ忍びこんだ。なのに、ケロちゃんは帰りたくないと強情を張った。


「ケロちゃん! きっとアニキたちが心配してるっす。早く帰るっす!」

「やだケロ。ぼくはみんなといっしょに戦うよ。だって、ここの人たちは、ぼくを頼りにしてるんだもんね」

「ケロちゃん。ここの人たちには悪いけど、みんな、すごく弱い。全滅するっす」

「じゃあ、なおさら、ぼくの力が必要だね。ぼくは強いから大丈夫ケロ〜」


 馬車に男たちが入りこんできたので、ぽよちゃんはあわてて、すみっこの箱のかげに隠れた。そのまま、馬車が走りだす。


(ああ、クマりんさん。もうキャンプについたかな? トイが気まぐれ起こしてないといいけど。かーくんアニキ、ロラン。早く、みんな来てほしいっす)


 カラカラとわだちの音。

 ときおり馬車がはずむ。

 空が明るくなってきたのが、ほろ馬車のなかからでもわかる。戦いのときが近づいている。


 やがて、一時間とたたないうちに、馬車は止まった。関所についたのだ。


「おいこら、おまえたち、通行証を持って——」


 門兵の声が悲鳴に変わる。先手必勝で弓矢を射たのだ。ヒュンと空気を裂く音がして、何かが倒れた。


「わあっ、敵襲だ! 人間どもが襲ってきたぞ」

「出あえ、出あえ」

「みんな、かかれ!」


 人間とモンスターの声が入り乱れる。


「カエルさま。お頼みしますぜ!」

「任せてケロー!」


 ゲリラ軍のリーダーにつれだされて、ケロちゃんが行ってしまう。


 かーくんたちが来るようすはない。夜営地は関所の逆方向だから、追いつくにはまだ時間がかかるのだ。


 ぽよちゃんは急いで馬車をとびだし、ケロちゃんを探した。


 だが、その必要はなかった。

 目の前に関所がある。道のまんなかを大きな鉄の扉がふさぐ。


 その前にボスとわかるモンスターがたたずんでいる。大きさは二メートル。ボスとしては小さい。港のビッグカンガルーほどの巨体ではない。

 あれが、ジャッケルだろう。見ためはジャッカルの魔物だ。四つ足で耳がとがっていて、キツネっぽい。


 だが、ジャッケルを見たとたん、ぽよちゃんは背筋が寒くなった。なんとなくイヤな感じがする。それは以前、ゴドバと対峙したときのような感覚だ。


 コイツ、強いんじゃないか?

 それも、すごく?


 遠耳がきかない。気配をつかみにくい敵だ。


「ケロちゃん……」


 ケロちゃんが危ない。

 アイツと戦っても、ケロちゃんでは勝てない。そんな予感がした。


 しかし、ぽよちゃんがかけつけたときには、すでにケロちゃんは、ゲリラ軍の人たちとパーティーを組んで、ジャッケルと戦っていた。


「ケロちゃん、ダメだ! ソイツと戦っちゃいけないっす!」


 ゲリラ軍の多くは、以前、お城の兵士だったようだ。騎士や重騎士が多い。後衛に魔法使いや僧侶もついている。陣形としては悪くない。

 でも、やはり、思ったとおり数値が低い。だ。数値のどれかが四桁に達してる人すらいない。


「ケロケロロ〜!」


 ケロちゃんの呪文が黒雲を呼び、嵐があたりを襲う。ジャッケルを直撃した。

 しかし——


「ケ、ケロ……?」


 どうしたことか、ジャッケルにはまったくきいてるようすがない。

 それどころか笑っている。


「ふはは! 素晴らしい。古代のこの力。こんな魔法、痛くもかゆくもないぞ!」


 ああ、ジャッケルのターンだ。ケロちゃん、ピンチー!

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