第五章 来たよ、ウールリカ

第58話 港をぬけると魔物天国



 ゲートを自分でひらき、港を出る僕たち。

 敵の姿はない。門のむこうは港町だ。建物は残ってるんだけど、なんとなく荒れはててる。


 人影があると思ってよくよく見たら、竜兵士だ。ああ、買い物カゴさげたアンデッドもいるなぁ。あれは動く死体か。バジリスク隊長とか、ガーゴイル。魔王軍の主力部隊と、二足歩行の羊モンスター。ヤギや牛? このへんの野生モンスターが魔王軍にくだってる。


 完全に魔物の街と化してるなぁ。港町によくある倉庫は兵士詰所に早変わりだ。


「これ、もしかして、僕ら人間だとバレたら、マズイやつ?」

「僕の危険察知の感じでは、強いモンスターはいませんね。戦っても楽勝です。でも、数が多いから、さわぎになると上に報告がいって、強いボスがやってくるかも。それだけ、ウールバニアに到着するのが遅くなる」


 コソコソ話していると、見まわりの竜兵士二人組がやってきた。


「おいこら、そこの馬車」

「見かけないヤツらだな?」


 わあっ、どうしよう。さっそく見つかってしまった。

 ここは二択だ。アドベンチャーブックなら、選択によって進むページが違う。

 戦うか? ごまかすか?


「おい! おまえらだよ!」

「こっちむけ! まさか人間か?」


 ああっ、僕の肩に竜兵士の手がかかる。グイッとひっぱられて、僕はふりむいた。


「……」

「……」


 黙りこむ竜兵士。

 な、なんだ? 戦闘か? 戦闘音楽、鳴りだすか?

 やがて……。


「なんだ。オークか。そっちは狼男。ぽよぽよにスライム、ネコりんか。ちゃんと関所で入国ビザをもらうんだぞ?」

「は、はい」


 竜兵士は去っていった。

 その間、顔をそむけたまま硬直こうちょくし続ける蘭さんたち。


「よかったー! 僕、オークキングに転職してて」


 そう。オーク系の職業についてると、なぜか、ブタ耳とブタっ鼻になって、モンスターにもオークだと思われる。


「なんとかごまかせたよ。全員、ここにいるあいだ、オークになっとけばいいんじゃない?」


 ピキーン!

 空気が凍りついた。とくに、蘭さんとスズランが顔をひきつらせてかたまる。


「……それは」

「僕、オークの紋章持ってるから、これを持ってスズランにお祈りしてもらえば、誰でもオークになれるよ?」

「……知ってます」


 そう。それはわかってる。以前、オーク城に潜入したことがあるからだ。そのときも、僕やトーマスやランスがオークに化けてしのいだ。

 察したのか、トーマスとランスはすでにオークに転職してる。


「オーク? そんなん、なれるんか? 人間はモンスター職につけへんのちゃうか?」

「ふつうはモンスター神官にお祈りしてもらうか、職業のツボがいるみたい。でも、オークだけはオークの紋章があればなれるんだ」

「ほな、おれもオークにしてんか」

「いいけど、戦闘のとき、必ずファッションデザイナー特性を召喚してよ?」

「オッケーや」


 三村くんはあっさり転職。ホムラ先生にコピーしてもらった就労特性召喚の魔法書を三村くんに使う。就労特性召喚、便利だから人数ぶんあってもいいんだけどな。


「私は魔神だから、おそらく問題なかろう。モンスター職についていればいいんじゃないかね?」と、ホムラ先生。

「……ですよね!」

「よかったです。お兄さま!」


 なにその、蘭さんたちのホッとした顔。ブタさんを差別したらダメだよぉ。


「僕は就労途中のオーロラドラゴンになっておきますから」

「わたしはモンスター職にはなれないので、馬車にこもっていますね」


 スズランはけっきょく逃げた。そんなにオークがイヤなのか?


 モッディはオークに。ゴライは格闘系以外つけないので、これも馬車に。

 モンスターたちはどうせ、もともとモンスターだから、よし。


 アンドーくん、イケノくんは隠れ身が使える。姿を隠した。そんなにブタさんイヤ?


「バランは? バランって武闘大会でも人間だったよね」


 精霊はこの世界では、モンスターじゃなく人間らしい。


「わたしは神獣クィーンハピネスになっておきます」


 魔神や神獣は、人でもモンスターでもないってわけだ。神さまだからね。


「モンスター職ならなんでもいいんだよね? なら、僕、ぽよぽよ神になろう。オークキングは魔王軍を脱退したから、情報通のモンスターがいたら、ややこしくなりそうだし」


 ステータス画面をチョチョイとあやつると、あっというまに、ぽよぽよ神に。


「あっ! かーくんが」

「ああ、かーくんが消えてもうた」

「わあっ、アニキー。やっぱり、アニキはその姿が一番っすよ!」


 ん? みんなの反応から察するに……もしかして、僕?

 うん。見おろすと、白い毛に包まれた、ちんまり可愛い手。


「僕って、ぽよぽよ職につくと、姿もぽよぽよになるんだ?」

「ああ、かーくん、可愛い。モフモフしてもいい?」

「いや、もう、モフってるよね? ロラン」


 とにかく、これでなんとか、ブタさんとモンスターパーティーだ。街なかを歩けるぞ。

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