第2話 ぽよぽよとして初バトル



 野生の獣人Aが現れた!

 野生の獣人Bが現れた!

 ——と、テロップが告げる。


 そうか。野生か。ということは、ここは魔王城とかではないんだな。魔王軍のモンスターには『野生の』ってつかないんだよ。これがつくのは野良モンスター。


「ぽよちゃん」

「うす! 聞き耳っすね?」

「う、うん……」


 やっぱりとまどう、ぽよぽよ語。

 今まではなぁ。「ぽよちゃん。聞き耳!」「キュイ!」って……キュイって可愛く答えてくれたのに!


「へへへ。アニキ。たいしたヤツらじゃないっすよ。レベルは30。そこそこ高いっすけどね。力も体力も二桁なんす」


 二桁。つまり、最大でも99。

 それはもう僕らの敵じゃないね。

 僕は自分のステータスをながめた。うん。大丈夫。姿はぽよぽよだけど、数値は人間のころのままだ。

 つまり、僕もぽよちゃんも力や体力は五桁。いろいろと僕のチートスキルを利用して、ここまで強くなったんだ。ぽよちゃんなんか、力の数値が限界マックスの99999だ。知力だって七万超え。


「ふふふ。僕らにケンカを売るなんて、やめときな。獣人のおっさ……おじさんたち」


 僕はカッコよく啖呵たんかを切ろうとしたけど、できなかった。ジロッとにらまれて、思わず丁寧に言いなおしてしまう。


「ふん。チビども。おイタがすぎるぜ!」

「いい子はうちに帰ってママのおっぱいでも飲んどくんだな!」


 これでも二十歳すぎてるんだけど? いったい、いくつだと思われてるんだ? ただのあざけりの言葉だとしても、それだけ僕が幼く見えてしまうのか? まあ、ぽよぽよだからな。ぽよぽよだから……。


「ほんとにいいの? 知らないよ? おじさんたち」


 いちおう、書いとくと、今の僕の数値はコレ。数字嫌いな人は読みとばしてもらえばいい。じゃあ、なぜ書くかって? 僕が自慢したいからだ!



 レベル55(オーロラドラゴン)

 HP33853、MP9075、力41040、体力20663、知力38978、素早さ58647、器用さ66420、幸運99999


 レベルよこのカッコのなかは職業ね。僕は今、オーロラドラゴンを就労中だ。というか、さっきまで山びこ職だったけど、今なおした。オーロラドラゴンなら、就労中、すべてのステータスが20%アップするからだ。


 特技のつまみ食いや職業マスターしたボーナス値やなんかで、こんなすごいステータスに。幸運はマックスだ。ふつうの人はレベル55でも各ステータスは三桁だからね。


「じゃ、かかってきてよ。おじさんたち」

「生意気なヤツめ! ちっと反省してもらおうか」


 獣人のおじさんAが、たぶん、僕をつまみあげようとしたんだろう。首ねっこに手をかけたその瞬間、おじさんはウッとうなる。


「おいおい、さっさとやっちまおうぜ。何してんだ?」

「持ちあがらねぇ」

「そんなバカな」

「ウソじゃねぇ。疑うんなら、おまえ、やってみろ」

「どれどれ」


 おじさんBが手を伸ばしてくる。僕はチョンとその手に頭突きした。ほんのちょっとソフトタッチしたつもりだったんだけど、おじさんBがピョーンとふっとんでいく。ああ、酒場のみんなの注視を集める。おじさんBは目をまわした。


「すいません。できるだけ、そっとしたんだけど」

「こ、コイツ! 何しやがった!」


 おじさんA、怒り狂って、なぐりかかってくる。

 けど、僕の器用さ六万なんだよね。しかも風神のブーツの装備品魔法で、一歩ふみこんだだけで数値三倍ハネあがるし。


「ヒョイっとな」


 かるいフットワークでかわす僕。へへへ。

 なんか幼児がダンスしてるっぽく見えるらしいんだけど、まあ、自分ではわからないからオッケー。これでもかってほどの可愛い属性。


 おじさんAはあっけなく床につっこんで倒れた。



 戦闘に勝利した!

 経験値250を手に入れた。200円を手に入れた。



 へへへ。だから言ったのに。


 すると、どっかからパンパンと拍手の音が。

 僕はくるりとふりかえった。

 近くのテーブルにフードをかぶった人影がある。

 だ、誰だろう?

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