第75話 相手の一手だけ先を行く

 匈奴のリーダーを於夫羅おふらといった。

 麴義と戦って敗れたことがあり、リベンジに燃えている男だ。


「予定通りに半月はんげつ羅漢らかんの陣を敷け。遠巻きに包囲せよ」


 呂青は自ら開戦の鐘を鳴らした。

 騎馬隊が左右へ散開していく。


 麴義はこちらの兵力を六万と計算していたはずだ。

 それが七万へと跳ね上がった。


 すべての計算をやり直す必要がある。

 麴義が優秀であればあるほど麴義の負担も大きい。


 チャンスは今日一日だと思った。

 ここで麴義を倒せば怖い敵が一人減る。


「兄上、私は何をすればいい?」

「俺が槍で合図した時だけ琳は弓を射かけてくれ」

「はい!」


 戦いの鍵は歩兵である。


 高順も張遼も自分の頭で考えられる将だ。

 馬超や徐晃だって局面を読むセンスは一流である。


 いかに騎馬の活躍できる状況を作り出せるか。

 仲間の力を引き出すのが呂青のミッションである。


「火矢隊を前へ。大楯隊に守らせろ」


 大きな盾を構えた歩兵の後ろから火矢隊が前進していく。

 袁紹軍からたくさんの矢が飛んできて、大楯はハリネズミみたいになった。


「放て!」


 火矢が着弾した。

 一部は障害物に刺さり、残りは枯れ草を燃やした。


 袁紹軍の方々から白い煙が上がる。

 麴義がすぐに消火させたから炎が燃え広がることはない。


「残りの火矢もすべて放て!」


 大炎上しなくていい。

 麴義にプレッシャーを与えるのが目的なのだから。


 歩兵をジリジリと前進させた。

 鉤爪のついた縄を飛ばして馬止め用の柵に引っかける。

 一枚、二枚、三枚と倒していった。


 麴義はすぐに補強してくる。

 我慢比べのような時間帯が続いた。


「投石部隊を前へ」


 大がかりな投石機カタパルトがあるわけじゃない。

 投石器スリングを使える部隊を一つ用意している。


 小さな石を飛ばしまくった。

 空からひょうが降ってくるような恐怖感だろうし、弓矢の攻撃とは違ったダメージがあるはずだ。


 お互いの負傷者が出始めている。

 こちらが一人怪我する間に袁紹軍は三人くらい倒れていく。


「投石と弓矢を織り交ぜろ。矢は射尽くしてもいい」


 呂布の戦い方とも、西涼の戦い方とも違う。

 麴義のデータベースに呂青の戦法はないだろう。


 一つ息を吐いた時、張遼隊が動き出した。

 ほぼ同タイミングで匈奴の一万も動き出した。


 小さな隙を見つけたらしい。

 高順らも連携して動き始める。


 呂青は後ろを振り返り、着いてこい! と妹に合図を送った。

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