【冒険&ホラー】宝石の箱
その日、レオンがその屋敷に盗みに入ったのは全くの偶然だった。
もう何日も碌に食い物を腹に入れておらず、何か飯代になる物はないかと探していた時にたまたま目に留まった。それだけだったのだ。
そこは町外れにある小さな屋敷で、廃墟と呼んで差し支えない状態だった。
誰も住まなくなってから相当経っているらしく、過去に他の人間が侵入したらしい形跡がいくつも残っていた。
一階はどのドアも窓も壊されているし、床は泥の靴跡まみれ。手で持てる物はことごとく持ち去られたようで、家の中には大きな家具くらいしか残されていない。
外観の時点で予想していたとはいえ、金になりそうなものは期待できないように思えた。
だが、念のためと屋敷の一番奥の部屋まで行ってみたところ、レオンは信じられないものを見つけた。
そこは倉庫として使われていたようだったが、部屋の入口に何やら小さな丸いものがいくつか転がっていたのだ。
まさかと拾い上げてみると、それは思った通り真珠だった。
これだけの大きさなら飯にありつくどころかしばらくは遊んで暮らせる。
他には無いかと室内に目をやると、なんとそこには足の踏み場が無いほどの数の真珠が散らばっていた。
レオンは歓喜の声を上げて真珠を拾い始めたが、ふと倉庫の奥に目をやり、手をとめた。
部屋の奥には何やら大きな箱が一つだけ置かれていた
随分と年季の入った箱で、元は白色だったようだが全体的に黒ずんでいる
箱の蓋は閉じているようだった。
――ひょっとして、あの中には真珠よりもっと値打ちのある物が入っているのでは?
レオンはそう考えた。
真珠を拾う前に箱の中身を確かめたい。
レオンは真珠を踏まないよう気を付けながら部屋の奥へ進み、箱の蓋に手を掛けた。
すると勢いよく箱が開き、無数の触手が飛び出した。
あまりに突然のことで反応することすらできず、レオンはそのまま箱の中へ引きずり込まれた。
箱はレオンを完全に飲み込むと蓋を閉じ、何事もなかったように動かなくなった。
それから数日後、箱は再び動いた。
わずかに蓋が持ち上がり、箱の中から何かが転がり落ちた。
それは小さな白い玉。レオンが真珠だと思った球体だった。
この箱はただの箱ではなかった。
「宝石の箱」と呼ばれる巨大な貝の一種で、本来はとある森の奥地でのみ生息しているはずの希少生物だった。
この貝はただの岩の振りをして獲物を待ち、獲物となる動物が近付いたら触手で捕らえて丸呑みにしてしまう。そして強力な消化液で溶かして吸収し、消化できなかった部分は丸く固めた石にして排泄する。
そういう生き物なのである。
そんな貝が何故こんな屋敷にいたかといえば、この屋敷の主人だった冒険家の男が旅先から興味本位で持ち帰ったためだった。
その男が高齢で亡くなり、身寄りのなかった男の屋敷はやがて廃墟になった。
餌を与える者がいなければ貝は飢えて死ぬはずだったが、不法侵入してくる者が定期的に現れたため幸か不幸か貝は命を繋ぎ続けたのだ。
宝石の箱は街区の再編でその屋敷が取り壊されるまで真珠を生み出し続けたらしい。
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