【ジャンル不明】奇跡の薬

 昔、村の外れに男が一人住んでいた。

 男は錬金術を研究していた。

 頭は良かったが強欲な人間で、どんなことでも自分の利益を優先するので村人たちから嫌われていた。


 ある日のこと、この男は金の錬成実験の副産物として、その頃流行り始めたある病気に対する特効薬を偶然発明した。

 男は喜んだ。だが男は誰にもそのことは伝えなかった。

 他人を信用していなかったので、誰かに教えたら薬を盗まれると思ったのだ。


 男はその薬の研究を続け、やがて効率的な製造方法を編み出した。

 この手順通りにやれば誰でも同じ性能の薬を作り出すことができる。

 だが男はやはり誰にもそのことは伝えなかったし、その手順についても男にしかわからない暗号文字を使って書き記した。

 自分一人だけで薬を量産し、病に掛かった者や家族に高額で売り捌こうと考えていたのだ。


 だがその数日後、男はちょっとした事故が原因で死んでしまった。


 死体を放っておくわけにもいかないので近くの村の住民が男を弔ってやった。

 男が住んでいた家には男の研究成果である薬や手順書などが山のように積まれていた。

 だが何も聞かされていない村人たちには何の薬かわからないし、書類も何が書いてあるのかさっぱりわからない。

 気味が悪いし大したものではないだろう、と全部焼いてしまった。

 こうして強欲な男の研究成果は誰にも知られることなく葬られてしまった。



 それから数年後、別のある男が全くの偶然から同じ薬の作り方を発見した。

 男は喜びこの成果を世間に発表した。

 発表によってこの病気に苦しんでいた大勢の人間が助かり、男は莫大な富と名声を手に入れた。

 その男の名は薬の発見者として現在も歴史に刻まれている。

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