【ミステリ】宛先違いの予告状
朝ポストを確認すると、巷で話題の怪盗からの予告状が私の元に届いていた。
ただし、宛先違いで。
どうやらうちの近所の美術館の絵画を狙うつもりらしい。自信たっぷりな文章で分単位の時間指定までされているが、それだけに住所間違いの滑稽さが凄い。
どうしようか、と私は考えた。
放っておいてもいいが幸か不幸か今日はこれといって予定もない。
面倒なことになりそうだなとは思いつつ、親切心に好奇心も手伝って私は予告状を美術館へ届けに行った。
ところが予告状を見た館長の通報で駆け付けた刑事は私を怪盗の仲間と疑って拘束した。
「吐け! 奴はどこにいる!」
「知りませんよ」
「嘘をつくな! 無関係な人間がこんなものわざわざ持って来る訳がないだろう!」
どんな理屈か知らないが、少しでも疑わしい者は尋問するらしい。
こんな事してたら有益な情報も集まらなくなるだろうに。
この刑事この仕事向いてないのでは、と私は思った。
そんな不毛なやり取りをしているうちに刻一刻と時は過ぎていき、とうとう予告の時間になった。
怪盗は現れた。
ただし、美術館にではなかった。
隣町の銀行を襲撃したのだ。
銀行強盗をまんまと成功させた怪盗の一味は隠れ家で祝杯を挙げていた。
「いやー、まさかこんなに上手くいくとは思わなかったな。怪盗様々だ」
彼らは本物の怪盗一味ではなかった。
怪盗の名前を使って警察の注意を他に向け、その隙に銀行を襲ったのだ。
宛先を間違えていたのも、書いた後で碌に確認しなかったためだろう。
元々盗みに入るつもりがなかったのだから。
「どうする? もう十分遊んで暮らせる金は手に入ったが、あと何回かやっても捕まらねえんじゃねえか?」
「そうだなあ。金はいくらあっても困らねえしなあ」
酔いも手伝ってか偽怪盗一味は上機嫌だった。
あの様子ではまた同じことをやりそうだ。
別にあの連中が罪を重ねるのはどうでもいいが、怪盗の名を勝手に使われるのは不愉快だ。
多少のお仕置きが必要だろう。
私はちょっとした専門の道具を使って隠れ家のブレーカーを落とした。
室内が真っ暗になり偽怪盗一味が驚いて声を上げる。
私は鍵を開け悠々と中へ入っていった。
翌日の朝、銀行強盗の犯人たちの身柄が警視庁前に転がされていたというニュースが報じられた。
犯人たちを縛った縄には怪盗の手紙が添付されており、手紙にはこの者たちは偽物で怪盗とは無関係だというような内容が記されていた。
強盗犯たちの身柄が一体いつの間に置かれたのかはわからず、警視庁としては面目丸潰れ。
記者のインタビューを受けた刑事は怒りで顔を紅潮させながら、改めて怪盗の逮捕への決意を語った。
そんな感じの内容だった。
私は朝食を取りながらそのニュースを確認し、欠伸をした。
ちなみにあの強盗たちは私のことは知らなかった。
偶然を装ったわけではなく、たまたま間違えて本物の怪盗である私にあの予告状を送ってきたらしい。
いやはや、面白い偶然もあるものだ。
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