【ラブコメ】ほれ薬

 京介が廊下を歩いていると、化学室から声が聞こえてきた。


「先輩、これ飲んで下さい」

「なんだこれ?」

「ほれ薬です。私が作りました」

「ほれ薬……? また訳のわからんものを。変なもの入れてないだろうな?」

「大丈夫です。どれも致死量未満で我慢しましたから」

「……一体何を入れた?」

「細かいことはいいじゃないですか。さっさと飲んで下さいよ。ほら、ぐいーっと」

「おいこら、やめっ……んぐっ。おい、本当に飲んじまったじゃねえか!」

「おそまつさまでしたー。どうですかお味のほうは」

「……お前も飲んでみるか?」

「嫌ですよ怖いですもん」

「………」

「ところで私を見て下さい。何か変わりませんか?」

「ん? 何か変わったのか?」

「………」

「どうした、いきなりむくれて」

「……やっぱり先輩には致死量マシマシのやつ飲ませればよかったです」

「なんだと?」

「先輩が悪いんですよ! このニブチン! ドンカン! トーヘンボク!」

「お、おいこら。ちょっと待て、どこへ行く気だ」


 バタバタした物音の直後、化学室の扉が開いて二人の白衣の男女が飛び出した。

 小柄な萌え袖の女を大柄な強面の男が追いかける形で、二人は何事か喚き合いながらあっという間に走り去ってしまう。

「……なんだ今のは」

 京介は二人組を見送ってから、ふと化学室の中を覗き込んだ。

 実験台の上にビーカーに入った謎の液体が置いてある。

 これがほれ薬という奴だろうか。

 会話を聞いた限りではどうも失敗作だったみたいだが……。


「既にほれてるから効かなかっただけだったりしてな」

 

 京介は先程の二人の表情を思い出しながらそう呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る