【ミステリ】乗り間違えた予知夢
流れていく景色に違和感を覚えて、ようやく私は乗る電車を間違えたことに気が付いた。
一気に背筋が寒くなり、変な汗が溢れてくる。
これでは今日の商談には間に合わない。先方は怒り狂うだろう。
今回の話がご破算になったら損害は果たして一体いくらになるか。考えたくもない。
何か、この危機を乗り切る方法はないか?
私は必死で考えた。
そして思いついた。
昔たまにテレビで見ていた二時間の推理ドラマで時刻表トリックというのがあった。
電車だけでなく新幹線や船、マイナーな私鉄やレンタカーなどあらゆる交通手段をを駆使してアリバイを作り出すトリックのことだ。
あんな感じでどうにか時間内に間に合わせることはできないだろうか?
刻一刻と時間が過ぎる中、私は夢中で携帯の検索結果とにらめっこした。
そしてどうにか間に合わせる手段を組み上げた。
次の駅で降りて反対方向へ向かう新幹線に乗る。そしたら二つ目の駅で降りて別の新幹線に乗り換えてとんぼ返り。そこの駅の最寄りのレンタカー屋から車で高速を飛ばせばギリギリではあるが間に合わせることができる。
ただし乗り換えの時間はかなりシビア。
ちょっとしたロスで破綻する。
だがやるしかない。
会社の命運が、自分の明日からの生活が懸かっているのだ。
電車に揺られながら私は手順を何度も頭の中で繰り返した。
そして、電車が駅に到着し、ドアが開いた瞬間全力で駆け出した。
ひやひやする場面が何度もあったが、私はなんとか商談の時刻前に目的地へ到着することができた。
本当に首の皮一枚という感じで、どっと疲れが溢れるのを感じる。
だが本番はここから。商談をまとめられなければ何の意味もない。
私は呼吸と身なりを整えると待ち合わせの建物へ入っていった。
ところが、私を見た途端、商談の相手は何故か目を丸くしてこう言った。
「あれ? あなた、どうしてここに?」
私は訳が分からず、
「お約束した通り商談に来たのですが……」
「あなたが乗ると言っていた電車、事故に遭ったんでしょう。大丈夫だったんですか?」
相手はそう言いながらロビーのモニターを指差した。
そこには私が本来乗るはずだった電車が脱線している映像が映し出されていた。
私はふと目を開けた。
ここは……駅のホームの椅子。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
いかんいかん。これから大事な商談があるというのに。
この日のためにここ最近ずっと深夜まで準備していたから疲れが溜まっているのだろう。
もうひと踏ん張り。商談が上手くいったらまとまった休みでも取ろう。
駅のチャイムが鳴り、電車がやってきた。目の前と背後の路線、二台同時。
この時間帯はダイヤが複雑なのだ。
「乗り間違えたら大変だな」
私は切符を確認しながら立ち上がったが――ふと引っかかりを感じた。
夢の中でも電車に乗っていたような気がするが、何だっただろう。何か重要なことだった気がするが、思い出せない。
まあいいか。
とにかく商談に遅れたら大変だ。乗ってから考えよう。
行き先が合っていることをしっかり確認してから私は電車に乗り込んだ。
駅のチャイムが鳴り、電車は走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます