【コメディ】当たりが出たらもう一本

 暇だったので近所のスーパーに行くと、「当たりが出たらもう一本!」と書かれたシャーベットのアイスバーが売っていた。

 アイスの棒に『当たり』か『ハズレ』と焼き印がしてあって、『当たり』だったらもう一本タダで貰えるという仕組みのアイスである。

 懐かしい。子供の頃よく食べたなこういうの。

 少々暑い日だったこともあり、俺はそのアイスを一本衝動買いしてしまった。


「あー、こんな味だったな」

 パッケージを破り取り、アイスバーを舐めて俺は呟いた。

 しばらく咥えたり舐めたりを繰り返し、アイスが柔らかくなってきたら前歯を立ててシャクシャク削る。

 やがてアイスの中から棒が姿を見せたがそれには極力目を向けない。

 何が書いてあるかは最後にして最大の楽しみだからだ。

 そんな調子で食べ続け、アイスを全て食べ終わると俺は特に意味もなく目を閉じた。

 さあ、判定はどちらだ。

 当たりか、それともハズレか!

 残ったアイスの棒を顔の高さまで持ち上げ、俺はカッと目を見開いた。


『末吉』


「……は?」

 俺は思わず声が出た。

 末吉? なんだ、末吉って。

 見間違いかと思いじっと見てみるが、やはり間違いなく末吉と書いてある。

 訳が分からず俺はアイスを買ったスーパーでもう一度出かけた。

 そして店員を捕まえて棒を見せたのだが、

「あー、それ『当たり』じゃないんで駄目ですねえ」

 店員はそれだけ言うと行ってしまった。

 いやいやいや。おかしいだろ。

『ハズレ』だったならまだしも、『末吉』なんて意味のわからんもの引いて諦められるか。

 俺はその場の勢いで同じアイスを五本カゴに入れた。


 家に戻るなりひたすらアイスのパッケージを破って食べてを繰り返す。

 しかし、結果は散々だった。


『AB型』

『射手座』

『塔』

『辰年』

『曇時々雨』


『あたり』どころか『ハズレ』すら当たらない。最後に至っては運勢に関係すらない。

 意地になった俺はもう一度スーパーへ行って残りを全部買い占めてやろうと思ったが、立ち上がった弾みにうっぷと胃の中のアイスが逆流しそうになった。

 これ以上は無理だ。体がもう糖分やめろと言っている。

 仕方ない。悔しいが諦めよう……。

 その日はもう食欲がわかず、夕食も控えめにしてさっさと寝た。


 数日後、例のアイスが爆発的なヒット商品になり、どこの店でも品薄だというニュースを目にした。

 ふん、と俺は鼻を鳴らした。

 一体どこの誰が買っているんだ。

 あんなものを大量に買う奴の気が知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る