第61話 神騙しの策略 【ゼルガside】
ーーゼルガ視点ーー
誰もが寝静まった深夜。
俺たちはジルベスタルにいた。
その国にいるという、魔法使いギルドの連中と合流するためだ。
案内してくれたのは、いけ好かない男だった。
詳しいことは知らないが、ジルベスタルの牢獄から脱獄をしたことを誇らしげに語っていた。なにやら、アリアスに相当な恨みがあるらしい。
謎の男は報酬を貰って嬉しそうに眉を上げた。
「ここが、黒のギルドのアジトさ。ヤバい連中だからな。俺はここで失礼させてもらうよ」
そのギルドは黒のギルドと呼ばれ、一般の魔法使いギルドとは違い、危険なことを生業とした特殊な団体だった。
ヤバイことに足を突っ込むなんて、俺の性ではないが、この際やむを得ない。
ククク。
アリアスと、あの根暗女に後悔させることができれば本望よ。
人気のない路地を通って、小さな階段を降ると、その地下室が黒のギルドのアジトだった。
Gと名乗る男が、どうやらギルド長らしい。
蝋燭の明かりに照らされてGの黒装束が光る。
「よく、ここがわかりましたね?」
「ああ、ある男が案内してくれたんだ」
俺がその男の特徴を伝えると、Gは鼻で嘆息をつき「ビッカか……」と呟いた。
あの男はビッカというのか。
知らない名だな。
しかし、誰だっていいさ。
アリアスに恨みがあるのなら信用はできるんだ。
そして、このGもアリアスに恨みがあると聞いている。
深々と被ったフードから顔を覗かせたのは知っている顔だった。
こいつは……知っているぞ。
ジルベスタルの環境大臣だ。
ギャンベリック卿。
頭文字をとってGなのか……。
しかし、顔を晒せば誰にだって正体はわかるはずだが?
「フン! 私の顔を見て気がついたようですね」
「それはそうです。あなたはギャンベリッ──」
と名前を言いかけると、Gの部下が俺の首にナイフを添えた。
「ククク……。おバカさんですね。殺しますよ? 名前を言うのはご法度。私はGですから」
「ま、回りくどいな。こんな誰もいない場所で」
「天空の神は見ていますからね。私ほどの身分ともなると、魔法の契約書をいくつも交わしているのですよ。そこに触れると雷が落ちてしまいますからね。だから、私はGなのです」
なるほど。
神の審判を欺く為に名前を伏せているのか。
別に名前なんてどうだっていい。
目的が同じなら問題はないんだ。
「ではG。あんたがアリアスに恨みがあるってのは本当だろうな?」
「恨みというかね。目障りな存在ですよ」
「ククク。それでいいさ。じゃあ、俺がアリアスを陥れる計画に協力して欲しい」
「ほぉ……。どんな計画か教えなさい」
「そ、その前に、このナイフをどけてくれよ。ずっと首の前にあったんじゃ、生きた心地がしないよ」
「では、あなたも約束しなさい」
そう言って、1枚の紙を見せた。
「これは奴と交わした契約書です。私は全指揮権を奴に委ね。これには抵触しないと約束した。だから、この単語を口にすることは許しません」
それは魔法の契約書だった。
彼は【魔法鉄道】という単語を指差して、俺を睨んだ。
「この単語を口にすればお前を殺す」
なるほど。
契約書には【魔法鉄道事業の全指揮権をアリアスに委ねる。また、事業の進行を妨げる行為は一切してはならない】と記されている。
つまり、彼が鉄道に関与すれば神の雷が落ちるのか。襲撃なんてもっての外だな。
単語くらいで審判が下るとも思えんが、細心の注意を払っているのだろう。
ふっ……。神を騙すのにここまでやるか。
「あんた、相当な悪だな」
「ふん……。あなたに言われたくはありません。そんなことより、奴を貶める計画を話しなさい」
俺は計画をGに伝えた。
「ほぉ。それであの試乗会を頓挫させるわけですか……。そうなれば両国間の同盟はなくなり、最悪、大勢の死人が出ますね」
「へへへ……。そんなのはアリアスの責任さ」
そうだ。
全ては奴が悪いんだ。
俺をギルド長にしなかったんだからな!
しかも、そればかりか、レージャを使って俺をギルドから追放しやがった!
あんな気持ちの悪い根暗女のどこがいいんだ!
あの2人だけは、絶対に許しちゃおけねぇんだよぉお。
「とにかく金がいる。口の硬い魔法使いを集めなけりゃあならないんだ」
「なるほど。大勢の魔法使いで襲撃ですか……。面白い」
「金をくれ! それがなければ始まらん」
「なるほど……。では1億出しましょう」
「い、1億コズンだと!?」
「襲撃の人数は多ければ多いほどいいのでしょう?」
「……あ、あんた。アリアスを殺す気だな?」
「さぁね。そんなことは知りませんよ。私はあなたにお金を出すだけ。それをあなたが利用するだけです」
「ククク……。交渉成立だな。楽しみにしてな。奴に地獄を見せてやるよぉおおお」
◇
ーーアリアス視点ーー
快晴の日。
王都ジルベスタルは朝から大賑わいだった。
今日は試乗会だ。
王都に隣接していた未開拓地域を開墾して駅を作った。
そんな場所に大勢の人が集まる。
会場は大盛り上がり。
花火魔法がドンパンと打ち上げられる中、王室の人間をはじめ、王都中の人間が、魔力機関車が動くのを今か今かと待ち望む。
「さぁ始まりました! 魔力鉄道の試乗会! 司会進行役は
彼女は、ラジソンとの性能比較テストで解説をしてくれた子だ。
上手に盛り上げる役だからな。
国民の人気があるのかもしれない。
「では、開会式まで少し時間がありますので、カルナ騎士団長に歌っていただきましょう! 恋のジルベスタルです!!」
やれやれ。
ここでも歌うのか。
どうせ国王の指示なんだろうけどな。
僕も歌うように指示されたが全力で断った。
そんなことより鉄道に集中したいんだ。
「こ い の ジル♪ ジル♪ ジルベスタル〜〜♪」
カルナが歌うと会場は沸きに沸いた。
はぁ……。
もう彼女のイベントでもいいんだよな。
「素敵な開会式になりそうだねオッツ」
「ええ。そうねフォーマッド……」
と、僕の横にはフォーマッドさんたちが立っていた。
オッツ婦人は赤ちゃんを抱きかかえフォーマッドさんによりかかる。
やれやれ。
随分とお2人の距離が近い。
僕が鉄道ギルドで働いている間に何があったのか?
「アリアスくん! この両国同盟が無事に済んだらウチにご飯を食べに来なさい! オッツの飯は世界一美味いんだぞ。ワハハ」
オッツ婦人を呼び捨てですか。
もうそんな仲なんだな。
男女の仲はわからんが、そういうことなのだろう。
「アリアスさん。この魔力鉄道というのは赤ちゃんでも乗れるのですか?」
「ええ。大丈夫ですよ。試乗テストを繰り返しましたからね。安全で、快適です」
「そうですか……。一度、あなたの作った乗り物に乗ったことがありましたからね」
そういえば、そんなことがあったっけ。
あの時の婦人は絶叫していたな。
ふふふ。
「こんなに大きな物が本当に動くのですか?」
「はい。魔力を動力源にして動くんです」
「もう怖い思いはさせないでくださいね」
「ええ勿論」
「……あなたには信用がありません」
「ははは……」
やれやれ。
婦人はやっぱり苦手だな。
開会式が始まった。
国王が挨拶をすると、拍手喝采である。
次は僕の演説だ。
それらしいことを話して、最後の文言に入る。
「──というわけで、ここジルベルスタル駅を出て60キロ走ると国境付近に差し掛かります。そこには中継地点として黄金駅が設けられています。そこで少し休憩をして再出発。その黄金駅を過ぎると隣国、王都ロントモアーズ領です。そこからさらに60キロを進むとロントモアーズ駅。そこにはロントモアーズの国王が待っているわけです」
僕たちが国王たちと合流すると、晴れて同盟国としての契約が結ばれるのである。
魔力機関車には王室の人間とその関係者だけが乗り込む。
ギャンベリック卿は体調不良で辞退した。
城に残って国王の帰還を待つという。
こんな歴史的なイベントだというのにタイミングが悪いな。
カルナとボーバンは国王の護衛の為に同乗だ。
「あは! なんだかドキドキしてきちゃった。アリアスは本当に凄い物を作ったわよね」
「俺はワクワクしてるぞい! 鉄道の開通。両国同盟は歴史的偉業! 流石は心の友よ。鼻が高い!」
操縦するのは鉄道ギルド長のレージャだ。
専用の制服を着て、綺麗に化粧もしているのだが、目の下のクマだけはどうにもならかったようだな。
ま、魔力操作の腕は確かだから、安心していいだろう。
「みなさん。安全運転を心がけますので、どうぞ快適な旅をご満喫してくださいね。デヘ……デヘヘ」
相変わらず、営業スマイルは苦手みたいだな。
パーーン。ドパーーン。
魔法花火が更に激しく打ち上げられた。
「さぁ! いよいよ魔力鉄道が動きます! 新しい歴史の幕開けです! いってらっしゃい!!」
ワァーーーーーーーーー!!
と、大歓声が巻き起こる。
僕らを乗せた魔力機関車はゆっくりと動き始めた。
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