第27話 アリアスの父親

 研究所の壁は燃えていた。


 私の衣服に炎が燃え移る。



「コ、コーールド!!」


 

 瞬時に氷魔法で炎を消した。


 形は短剣でも、炎の質は変わらない。


プシューーーーーー!!


 良かった。


 やはり、氷魔法で消火できるぞ。


「ふむ。やはり殺すのは惜しいか。どんな時でも冷静に対処するその姿勢は中々のものだ」


「お前に褒められても嬉しくはない! 証拠は撮ったぞ!! 帰れ!!」


「証拠?」


「この映像があれば、お前たちは殺人未遂で監獄行きさ! ビジョン!!」


 私は目から映像を映し出した。


 ビッカの悪行もこの魔法で証拠を取ったんだ。


 しかし、



ザァーーーーーーーーー!!



「何!? 映ってないだと!?」


 映像はノイズが入り人物の特定も声さえもわからないようになっていた。


 どうして!?


「はっはっはっ! ビジョンの魔法対策などしているに決まっているだろう。ここにいるラグーザがビジョン対策にノイズの魔法を周囲に張り巡らせているのさ」


 ラグーザと呼ばれた女は不敵な笑みを浮かべた。


 ビジョンは対策済か……。


 つまり、ここで起こる事件は何も証拠が残らない。


バサッ!!


 と男がマントを翻すと、無数の炎が研究所の壁に突き刺さった。


「な、何をする!?」


「お前の返答次第さ」


 炎の短剣はしばらく壁に刺さっていた。


 時間とともに炎になって周囲を燃やす。


 その前に消火してやる!


「コール……」


 コールドの魔法を唱えるより早く、私の口は透明なマスクで覆われた。


「うぐぅうう!!」


 それはマント姿の男が出した風の魔法だった。


 布マスクのように、風の魔法が変化しているのだ。


 い、息が……苦しい……。


 男の放つ風の魔法は私の四肢を壁に貼り付けた。


ガガガガッ!


 う、動けない……。


「さぁて……。シン所長。ゆっくりと話そうか」


ペリリ……。


 男は風魔法のマスクを剥がした。


「お、お前は誰だ!? 名を名乗れ!?」


 くっ! せめて名前だけでも証拠を握ってやる!!


 女は短剣の炎を発現させて私の腿に突き刺した。


グサッ!!


「うぐぅッ!!」


 こ、この女も使えるのか。


「口の聞き方に気をつけなさい。このお方はあなたのような愚民が気軽に声をかけていい存在ではないのです」


「ラグーザ、ほどほどにしておけ。シン所長はこれから仲間になるのだからな」


 くっ……!


「き、貴様の仲間なんかになるものか!」


「ふっ……。そう怒るな。お前にとって条件のいい話なのだから」


 こんな対応しかできない奴らを信用なんかできない!


「私の名前はラジソン・ユーリィ。魔研連の会長をしている。こっちの女は秘書のラグーザ・プリエモール」


 ラジソン・ユーリィ……。


 ユーリィ……だと?


「アリアスさんと同じ名前だ……。まさか……!?」


「ふん──」


 と男は呆れた。


 次の言葉に目を見張る。






「アリアスは私の息子だ」






 なんだと!?

 この男がアリアスさんの父親!?


 そういえば、


「に、似ている……」

 

 目元はそっくりだ、雰囲気も……。

 確かにアリアスさんに似ているぞ……。


「ふん。とんだ失敗作だがな。あんな愚息。我ながら情けない」


「な、何を言う! アリアスさんは素晴らしい人だ!!」


「ふ……。あんなくだらん人間に振り回されては、この研究所の未来もたかが知れているな」


「アリアスさんはそんな人間じゃない!! 思慮深い聡明な方だ!!」


「はははッ! お前はバカだな。少し買い被りすぎたか」


「くっ! 取り消せ!! アリアスさんをバカにするな!!」


「ふん!」


 ラジソンは私の腿に炎を突き刺した。


「ぐぁああッ!!」


「くだらん愚息の話などどうでもいいさ。実益に伴う話しをしようではないか」


「くっ……」


「魔研連に加入しろ」


「い、嫌だ……」


「ははは……。研究所が燃えてしまうぞ?」


「こ、こんな形の勧誘で入ると思うのか?」


「ふはッ! 入るさ。今までこうしてきたからな」


 今までだと!?


 こんなやり方で加入者を増やしたというのか!


 最低な奴らだ。


 とてもアリアスさんの父親とは思えない。


「ファイヤーダガーが研究所を燃やしてしまうぞ?」


「くぅ……」


「お前の体もなぁああ?」


「た、例え、この身が燃えようとも、お前のような人間には屈指ない!」


「ほぉ……。死を選ぶのか……」


「そうだ!」


「お前みたいなタイプ。今まで対応しなかったと思うか?」


「な、なんだと!?」


 その時。

 客室の異変を感じたキレミさんが様子を見にやってきた。


「所長。なんや騒がしいでんなぁ。どないしたん……。きゃあっ!! な、なんやこれ!?」


 驚くのも無理はない。


 部屋は燃え、私は尋問にあっているのだ。


 ラジソンは即座に炎の短剣を彼女の衣服に刺した。


ガガガガガッ!!


「きゃああッ!!」


「やめろ!! キレミさんに何をする!!」


「おや? 死ぬ気ではなかったのか?」


「た、頼むやめてくれ……。彼女を巻き込まないでくれ!」


「おやおや。随分と丁寧な口調になったな」


「所長!! これどういうこっちゃ!?」


「ふははは!! なーーに、単なる勧誘に過ぎんさ。シン所長が返答を渋っているのでこうなっているのだ」


 くっ……!


「所長、熱いわ!! 体が焼けてしまう!!」


 ダ、ダメだ!!


 キレミさんの体に炎が……。


 クソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

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