第21話 エピローグ

 ──数日後。


「おや、いらっしゃい"白骸"さん」

「こんにちは。果実水と乾燥果実ドライフルーツとナッツの盛り合わせをください」


 "白骸"は独り、酒場の隅のカウンター席へと腰をかけ本を開く。不思議と居心地の良いこの席が、半ば"白骸"の定位置と化していた。



 ──あの後、色々なことがあった。

 姉妹を無事再会させたり、共に戦ってくれた遺骨たちを弔ったり、街へと帰還して治療や報告などの事後処理に時間を割いたりと、とにかく色々だ。


 村の生き残りの姉妹を含む、捕虜となっていた村娘たちは生まれ育った村が既に滅びてしまっていたため身寄りが無く、また心身共に病んでしまった者も多く、大半が修道院の世話になることとなった。


 同盟一行はと言えば、此度の調査報告と異変解決の功績により等級を上げることとなった。

 それに伴い、以前までは"落ちこぼれや嫌われ者の集まり"とされていた【追放勇者同盟】ではあったが、今では辺境の街でも指折りの冒険者集団に数えられるまでになっていた。

 評価の方も"奇人変人の寄せ集め"程度に緩和されているらしい。──ちなみにこの評価には全員が「(何故自分はこいつらと同じ分類にされてるんだ?)」と、心外そうな顔をしていた。


 とはいえ、それだけの功績を成したことで得られた報酬は"鬼謀"の腕の治療費や諸々の経費を差し引いても黒字になっており、こうして昼間から酒場で本を読んでいられる程度には懐に余裕があった。



「ああ、やはりここに居ましたか"白骸"の」


 噂をすれば何とやら。治療院帰りの"鬼謀"がやって来た。どうやら無事治療を終えたようで、朝には付けてた包帯が腕から外されていた。


「あ、"鬼謀"さん! 腕の調子はどうですか?」

「ええ、この通り問題無いかと。違和感も特に感じません。腕の良い治療師を融通して貰った甲斐がありましたよ」

「良かった……ほんと、心配したんですからね」


 "鬼謀"が重症を負ったと知った時、"白骸"は心底肝を冷やした。戦闘中で仕方なかったとは言え、事後報告で切断されかけた血塗れの腕を見せられた時は卒倒しかけたものだ。

 幸い、応急措置としてその場で高い水薬ポーションを惜しみ無く使ったお陰か"鬼謀"は片腕を失わずに済んだ訳だが、一歩間違えば片腕どころじゃ済まなかっただろう。


「なぁに、私には"暴勇"のような腕っ節も無ければ、"白骸貴女"のような特別な力もありません。私に出来ることと言えば、この頭脳あたまと身体を差し出すくらいですよ」

「だからってそんなに軽々しく命を投げ出さないでください。全く、無茶ばっかりして……"鬼謀貴方"らしくもない」

「いやはや、私としたことが面目無い……」


 苦笑し頬を掻く"鬼謀"。

 こいつ本当に反省してるのだろうか? "白骸"は訝しんだ。


「"白骸"はいるか? お、なんだ"鬼謀"も来てたか。はは、そいつぁ丁度良い!」


 酒場の扉が勢い良く開き"暴勇"が顔を出す。

 そして、その後ろからもう一人──


「あら、どうやらわたくし達が最後みたいですわね。お待たせしたかしら?」


 令嬢勇者が酒場の入り口を潜る。

 その堂々とした佇まいに見る者は皆息を飲んだ。

 かつて敗牝令嬢と蔑まれていた頃のようなみすぼらしさは無く、美しくも凛々しい立ち姿は、身に纏う下着鎧ビキニアーマーも合わさりさながら戦乙女のようであった。


「やぁ、"閃鋼"も来ましたか。いえいえ、私も来たばかりでして」

「まぁ、それは良かった! "鬼謀"殿、腕の調子はいかがでして?」

「ええ、この通り快調ですとも!」


 "鬼謀"の元気そうな姿に、令嬢は豊満な胸を撫で下ろす。

 あれから"閃鋼"の勇者と呼ばれるようになった令嬢は、持ち前の不屈の闘志と無数の武具を駆使する武勇が伝わったことにより、かつての悪評を少しだけ払拭することができたようだ。



「でだ、全員集まってるなら話が早ぇ。大事な話がある」


 突如、"暴勇"が真面目な顔で皆と向き合う。一体何事かと"白骸"らは身構えた。


「もう知ってる奴もいるかも知れねぇが、新たなダンジョンが発見されたらしい。……当然、お前らも行くよな?」


 そう告げると真面目な顔から一転して楽しそうに口角を上げる"暴勇"。


「何を言い出すかと思えば……貴方が誘わなくとも、私から誘ってましたよ。いやはや、戦いに関しては私以上に耳聡いお方だ」


「勿論、わたくしも行きますわ。……それに、『あの男』の手掛かりがあるやも知れませんし」


 苦笑しながらも賛同する"鬼謀"と、生涯の目的の為に奮起する"閃鋼"。


「皆さんが行くなら当然私も行きますよ。放っとくと無茶ばっかりしますからね、貴方たちは」


 "白骸"は呆れたように肩を竦める。

 しかし、その顔は満更でもなかった。



「へへっ、聞くまでもなかったな。んじゃ行くかァ!」



 盟主の号令に無言の信頼で応える盟友たち。

 未だ見ぬ冒険へと彼らは歩みを進めるのであった。




 あるところに勇者のみの奇妙な一党あり。

 一党の名は【追放勇者同盟】。

 彼らは皆失敗し、勇者失格と呼ばれた者たちである。

 しかし、それでも彼らは諦めない。

 例え何度折られようとも、その度に立ち上がる。

 それもまた、勇者らしさの一つの形というものだろう。

 今日も彼らは勇者じぶんらしく今を生きている。




第3章 不屈の英雄 完


第4章へと続く

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