第17話 竜の安息地
"鬼謀"の推理に一同は息を飲んだ。
もし発生源がここだとするのなら、中心から外側に向かって徐々に瘴気が流れ、一番外側である郊外西側に到達するのも頷ける。
「目的地はわかった……だが、死霊術師が関わる目的は何だ? ここに何がある? ダンジョンか?」
"暴勇"の問いに"鬼謀"は首を振る。
「それなんですが……すみません、わかりません。深い瘴気溜まりか、あるいは人を不死者にするような遺物でもあるか……ですが、これはあくまでも噂話程度の情報ですが、あの森の奥には『竜の安息地』と呼ばれる場所があるらしいですよ」
「「竜の安息地……?」」
"暴勇"と"白骸"が首を傾げていると、獣人勇者が声を上げた。
「聞いたことがある。私の村の古老や、定期的に来る行商が言っていた。『北の深い森には竜が傷を癒す為に立ち寄る泉がある』と。もしそれが竜の安息地のことを差してるなら、たぶん間違いないかと」
「なるほど……竜の安息地が実際にあるとするなら、死霊術師が竜由来の何かを求めている可能性が高くなりますね。仮説が確信に変わったかもしれません。ありがとうございます!」
"鬼謀"の感謝の言葉に獣人勇者は照れくさそうにする。
「んじゃ決まりだな。明日そこに向かって、死霊術師をぶちのめす!」
「お待ちを」
逸る"暴勇"を"鬼謀"が制す。
「私の考えはあくまでも仮説です。本当は死霊術師なんて居ないかもしれませんし、全くの徒労に終わることもあるでしょう。……逆に、もし本当に死霊術師、あるいは既にリッチと化してるかもしれない……そんな者が居たとしたら命の保証は、できません」
皆が静まり返る。"鬼謀"は続けた。
「それに、これは依頼でもなんでもありません。危険に挑んだところで報酬が出る訳でもありません。我々が関わらなくとも"光輝"の一党に任せればすぐに片付く案件でしょう。我々は危険を犯すことなく、日常を続けられるはずです。……それでも諸君は、危険に挑みますか?」
3人は顔を見合せる。
"鬼謀"の言う通り、自分たちがわざわざ危険を犯す必要は無いのである。実際、現地に向かったところで、全くの無駄足に終わるかもしれない。
けれども……ここで引いたら『冒険者』ではない気がした。
「……ったく、わかりきったことを聞くなよ。俺は端から行くって決めてんだからよぉ!」
"暴勇"が笑って答えた。
それを聞いた獣人勇者も意欲を示す。
「師匠が行くなら私も行きます! それに、森を探索するならお役に立てるはず」
「私も行きますよ。"暴勇"さんと獣人勇者さんの2人だけにすると心配ですから。ストッパーが必要、ですよね?」
"白骸"も同行する旨を伝えると、"鬼謀"は呆れたように笑った。
「ははっ、これは驚きました。最悪、私だけでも様子を見に行こうかと思ってましたが……皆さん、心強いです。わかりました。この"鬼謀"、全力で皆さんの命を預からせていただきます」
"鬼謀"が頭を下げる。これで皆の覚悟は決まったようだ。
明日への英気を養う為に、勇者たちはこの素晴らしい食事を楽しんだ。
──翌朝。
追放勇者同盟の一行は、発生源と思われる地点に最も近い森の中の墓地へと向かった。ここは以前、他の一党によって動屍体退治が行われていた。
墓地に着いた勇者たちは目を疑った。濃密な瘴気が墓地を充たしていたのだ。
「そんな……!?」
「野郎、処理をサボりやがったか!?」
「いえ……処理はしっかりされたようです。ですが、事態は思った以上に深刻かもしれません」
"鬼謀"は墓地の片隅で火葬の跡と聖水の空き瓶を見つけた。
事後処理はされている……なのにこの瘴気の量は、ただ事ではない。
「……森に入りましょう。恐らく答えはそこにあります」
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