第16話 "光輝"の一党の目的

「まず、ご存知ない方もいますので改めて共有させていただきますが、我々【追放勇者同盟】はギルドから最近の動屍体異常発生の原因究明を依頼されていました。……ところが、本日その依頼は強制的に打ち切られ、調査の続きは"光輝"の一党に引き継がれました。臨時収入とは、そういうことです」


「……そんなことだろうとは思ったぜ」


 "暴勇"は不機嫌そうに酒を呷る。臨時収入と聞いた時点で既に予想はついていたらしい。何とも"暴勇"らしい勘の良さである。


「でもどうしてそんなことを? こんなの明らかに怪しいじゃないですか……」


 "白骸"の疑問も尤もである。

 王都で活躍するような高名な一党が、こんな辺境に出向いてまで粗末な依頼を奪うように引き継ぎ、口止めまでするなど、誰がどう見ても怪しむことだろう。


「唐突ですが"白骸"の、動屍体の発生原因の候補は?」

「え? えっと、ダンジョンの出現や杜撰な管理による瘴気の蓄積、あるいはリッチまたは邪悪な死霊術師ネクロマンサーの関与、です……」

「まさか、"光輝"の一党の闇魔術師が元凶だと……!?」


 獣人勇者が興奮して立ち上がる。


「いえ、その可能性は低いでしょう。彼らは先日、こちらに着いたばかりです。そして集団で行動しておりとても目立つ存在。犯人にしては、線が薄い」

「では、新たなダンジョンの発見とその探索ですか?」


 "白骸"の回答に"鬼謀"は首を横に振った。


「可能性として無くは無いでしょうが、私目線ではそれはあり得ません。仮に、新たなダンジョンの出現だとしたら、地元民である我々が知らず、王都に居た彼らが先に嗅ぎ付けているというのは不自然です。……となると、候補は自ずと絞られますね」

「リッチ……あるいは邪悪な死霊術師……」


 その言葉に"鬼謀"は力強く頷く。


「おそらくですが、最も正解に近いかと。資料室でリッチについての情報を探していたところ、彼の表情が変わりましたので」

「でも、仮にリッチだとしたら私たち冒険者が墓地の浄化を繰り返せば、怒り狂って出てきたりしそうですが……」

「……『まだ』リッチじゃないんじゃねぇか?」


 突如"暴勇"が口を開いたため、皆の注目が集まった。


「師匠、『まだ』とは一体……?」

「そのままの意味だ。"光輝"の一党が追ってる奴は『まだ』リッチになってない死霊術師だ」


 "暴勇"の回答は"鬼謀"を唸らせた。


「流石は"暴勇"、鋭い。ここから先は、あくまで私の推察ですが、"光輝"のところの闇魔術師の身内あるいは同門が『死霊魔術』に傾倒し堕落した可能性があります。理由は大方、永遠の命を求めてのことでしょう」


 "暴勇"と"白骸"は驚愕した。

 同門から堕落者が出たと知られれば、彼の闇魔術師どころか"光輝"の一党の名声は地に落ちる。

 仮説とはいえ"鬼謀"の推理が本当だとしたら、"光輝"の一党がわざわざ地方まで来る理由も、闇魔術師が口止めしてまで動屍体の案件に関わろうとすることにも辻褄が合う。

 しかし、疑問が残る。


「その……何故、堕落した死霊術師はあちこちに動屍体を放っているんですか?」

「ふぅむ……思い当たる節で言えば、足止め、陽動、拠点の防衛、何らかの実験、はたまた己の力を誇示しているだけ、なんてことも考えられますねぇ……ですが、私にはどれも違うように思えます」


 そう言うと"鬼謀"は地図を広げた。街の北西部郊外に4つ印が付けてある。


「これは、動屍体の出現位置です。そして──」


 "鬼謀"が地図に印を追加した。


「これは明日、"光輝"の一党が向かうであろう地点です。……本当は我々が受けるはずの依頼でしたがね。この点を見て、何か気付くことはありませんか?」


 "光輝"の一党が向かう地点は、街から最も西寄りに離れた位置にある。順当に考えれば──


「死霊術師は西に向かっている? 何の為に……?」

「何かを探している、とは考えられねぇか?」

「なるほどなるほど、そういう考え方もできますね。恐らくですが"光輝"の一党も同じように考えるでしょう」

「お前は違う考えだってのか? 勿体振らずに言えよ」


 "鬼謀"の言い様から察した"暴勇"が急かすと、彼は地図に文字といくつかの線を引き始めた。


「動屍体の発生時期を書き込みました。始めはここ、次はここ、そして次は──と、最後であり最新の位置がここです。一見、西側に向かって移動しているように見えますが──」


 "鬼謀"がさらに線を引くと、皆一斉に眼を見開いた。


「あっ……!」「こいつぁ……?」「……森を中心に線が重なってる?」


 "鬼謀"の引いた線により、動屍体の発生位置が放射状に広がっていることに気がつく一同。

 そして、その中心は北西部にある深い森で重なっている。


「動屍体の発生源、及び死霊術師の目的地はここです。風の流れなど諸々の要素を考慮しても、恐らく間違いないかと」

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