第16話 心配したんですから

 ゴブリンジェネラルを討ち取った"暴勇"は崩れ落ちるようにその場に仰向けに倒れ込む。


「"暴勇"さん!」


 少女勇者は魔力欠乏でふらつく脚で駆け寄り"暴勇"を支える。


「へへ……よう嬢ちゃん、助かったぜ……」

「っ……死んだかと、思いました……!」

「いや、死んだぜ……確実にな」

「えっ……?」


 "暴勇"から驚愕の事実が伝えられる。


「野郎からでっけぇの一発貰った瞬間な、『あ、これ死んだな』って思ってよ……そのまま意識がぶっ飛んだ俺は、真っ暗な水底に落とされた訳よ。あー、これが地獄かーって本能で理解したさ。だから確実に死んだのよ、俺」


「じ、じゃあやっぱり魔法は失敗して…"暴勇"さんは、あ、アンデッドに……」

「おい待て勝手に人を殺すな。この通り生きてるだろうが」


 少女は眉をひそめた。自分から死んだだの生きてるだのややこしいことを言わないで欲しい。


「一度は死んだ。地獄も見た。俺もここまでか……って思ったら、嬢ちゃんの声が聞こえたんだ」

「私の、声が……?」

「おう、必死に俺を呼ぶ声が聞こえた。そこまで呼ばれちゃ『勇者』として応えない訳にはいかねぇわな。何とか戻ろうと水面目指して踠いたさ。そしたらこの通り、戻って来れたって訳よ」


 "暴勇"はガハハと笑うと「ありがとよ」と一言呟いた。

 少女の目から大粒の涙が溢れた。


「全く……心配、したんですからね……!」

「お、おう、悪ぃ……しっかし嬢ちゃんの魔法はスゲェな、何度死んでも蘇れるとか大したもんだぜ。……死ぬ度にどんどん水深が深くなってるのが、ちと怖ぇがな……」


 もしや多用してはいけない何かなのでは? 少女は訝しんだ。


「お、そういや"鬼謀"の野郎はどうした?」

「あ……そうだ……"鬼謀"さんは……ジェネラルの気を引く為に、囮になって……」





「おや、私がどうかしましたか?」

「えっ」



 "鬼謀"の勇者が目の前に立っていた。



「えっ、なんっ……潰れて死んだはずじゃ……!?」

「ああ、これですか?」


 "鬼謀"は血塗れのマントを拾ってくる。


「ゴブリンの屍体にマントと荷物の一部を被せて投げました。案の定引っ掛かってくれたようでしたが、飛んで来た床材が頭に当たってしまい……その、気絶してました」


「「…………」」


 絶句。


「目が覚めた頃には既にカタが付いておりまして……いやはや、面目無い……」


 大きなたんこぶの出来た頭を下げる"鬼謀"に2人は怒る気も失せてしまった。


「とにかく無事で良かったです……」

「それより今までどこ行ってたんだよ?」

「ええ、残党の掃討も兼ねて彼女たちを回収して来ました。戦利品もこれこの通り」


 金貨の詰まった袋を見せる"鬼謀"。彼の後ろには、地下牢に居たあの捕虜たちが居た。


「貴女の手当てのお陰で皆歩いて脱出できる程度には回復してましたよ。いやはや、『善行』はしておくものですね」


 "鬼謀"の言う通り、地下牢で会った頃から比べたら随分と顔色が良くなっている。少女はそっと胸を撫で下ろした。


「しっかし、城一つ落として戦利品はこれっぽっちかぁ……」


 実入りの少なさに"暴勇"は残念そうにしていたが、「その分ギルドからたんまり引きずり出しますよ」と"鬼謀"はホクホク顔であった。


 実際ゴブリンジェネラルの首級が手に入ったのも大きい。これだけで群れの規模の証明にはなる。捕虜も無事回収しているので追加報酬も期待できるだろう。


「では諸君、撤収しますよ」

「はい!」

「ちょっと待った」


 "暴勇"が待ったをかけた。


「"暴勇"さん? どうかしましたか?」


 気まずそうに目線を反らしながら"暴勇"は指摘する。


「おい嬢ちゃん……その格好で帰るつもりか……?」

「おっと……」



「え……? ……きゃああぁぁぁっ!?」



 ゴブリンジェネラルに衣服を剥ぎ取られていたことを思い出し、少女は赤面した。

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