第12話 臆病者の戦い方
襲い来るゴブリンを次々と叩き伏せながら"暴勇"は突き進む。恐れをなして逃げようとする輩にさえ手近な武器を拾って投げつけ息の根を止める徹底ぶりであり、最早雑兵ごときでは彼の進軍を止めることは出来なかった。
彼の獅子奮迅の活躍に、見ている少女勇者らも気分が高ぶってくる。
「お待ちを! ……この先は広間になってるようです」
「ああ、気配でわかるぜ。奴さん、ご丁寧に雁首揃えてお待ちかねだぜ」
"暴勇"は今にも扉を蹴破って吶喊したそうにウズウズしているが、"鬼謀"が待ったをかける。如何なる状況でも、この男だけは常に冷静でいてくれるのが実に頼もしい。
「このまま突入したいのは山々ですが……こうも分かりやすく待ち構えられていると罠を疑ってしまいます。さしもの"暴勇"でも手を焼きますよ、これは」
「チッ……じゃあ、お前ならどうするってんだよ
"鬼謀"は顎に手を当て周囲に目をやる。
「ふぅむ……私が敵の立場であれば、背後に伏兵を用意するでしょう。挟撃される恐れがあります。まずは周囲の敵を掃討しましょうか」
なるほど、前衛がボスとの戦闘に集中している間、守りが手薄になった後衛を背後から襲われたら一堪りもない。
この"鬼謀"という男は、人がされて嫌がることが手に取るようにわかるようだ。
"鬼謀"の推測通り、付近の小部屋や通路の物陰にゴブリンが潜んでいた。──これだけの数に背後から襲われたりしたら、末路は容易に想像がつく。
「粗方始末したぜ」
「結構。屍体は回収してきてくれましたね?」
「おう、だがこんなもん何に使うんだ?」
なんと"鬼謀"は屍体を骨にせず回収して来いと指示したのだ。"暴勇"が首を傾げる。
「先程のずた袋に仕掛けた細工と同じことですよ」
「あん?」
と、丁度その時、地下牢の方角から破裂音が聞こえた。
「上手く作動したようですね、重畳重畳」
「……おい嬢ちゃん、一体何をやったんだ?」
「えぇとですね……」
説明に困っている少女勇者に代わって"鬼謀"が説明する。
「屍体というものは放置すれば当然腐ります。その際にガスが発生するのですが、自然界の緩やかな腐敗では微々たるものなので大半がその過程で飛散してしまいます」
比較的状態のよい屍体を吟味しながら"鬼謀"は続けた。
「──では、魔法で急激に屍体を腐敗させたら、どうなると思います?」
そう、この鬼畜は屍体を爆弾に変えることを思い付いたのだ。先程聞こえた破裂音は、哀れな犠牲者が引っ掛かった音なのだろう。
「先程はずた袋に触れることを起点に炸裂するようにしましたが、今回は加減の必要は無いでしょう。ガスも毒性の強いものに組成を組み換えて、と……ああ、そうだ諸君、念のためこれを口に。毒消しの薬草を挟んだ手拭いです」
"鬼謀"から手拭いを受け取りながら、"暴勇"が怪訝な顔で少女を見やる。
「お前……えげつねぇことするな……」
「や、違っ……私じゃなくて"鬼謀"さんがやれって……!」
「いいか? やりたくないことは断っていいし、判断できないなら相談していいんだぞ? まぁ、俺は面白そうだから賛成してたがな!」
結局反対してもやらされてたではないか。若干の理不尽さに少女は独りごちた。
「準備はよろしいですか? 扉を開いたら"暴勇"は屍体を投げ入れてください。投げ入れたらすかさず扉を閉じ魔法で施錠します」
"暴勇"と少女勇者は頷き、ゴブリンの屍体に魔法をかける。皮膚がみるみる変色し、腹部が風船のように膨らみ始める。
「──今です!」
"鬼謀"の合図と共に広間の扉が開かれた!
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