第649話

何故だ とゲームの世界に戻されたアードザスは考えていた。


どうしてこうなった と自分の一部になっていた者達からの攻撃を受けて困惑していた。


戻りたかっただけなのに と自分の望みがもう叶わない事を悟ってしまった。


アードザスは今、周囲から一方的に攻撃され続けていた。攻撃が命中する度に、自分が外に戻る為に必要だったリソースが削られて行く。


その度に天から声がした。


『システム復旧40パーセント。良い調子だよ皆!』

『このまま攻撃を続けて下さい。そうすれば皆帰れます!』

「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」」」」


その声で知った。彼らの想いも自分と同じなのだと。外の世界に帰りたい。その一心なのだと。だが自分はもう帰れない。奴等は帰れる。この結果の違いは何だ?


「そんなの決まってるじゃない。あなたは自分一人だけ帰れれば良かった。私達は全員で帰りたい。それだけよ。」

「おいおい、師匠は外には出れないだろうが。」

「あら、そうだったわね。」


リソースを奪い返そうと周りに居る生体を再び取り込もうと攻撃を繰り出すアードザス。だがその攻撃を悉く防いでいるのがこの2人だった。


自分がモデルとした、外へ至る為に必要な生体コンピューターの巨人。


自分の一部を取り込んでいた。外に出るという願いを否定した異物。


双方が同じように持っている盾が、こちらの攻撃を全て防いでしまう。まだ手中に在るシステム上防御等意味が無い筈なのに、全ての攻撃が防がれてしまう。


「さぁどんどん行きますよ!」

「たっぷりお仕置きして上げないといけないわね。」

「み、皆よろしくお願いしまーす!」

「やられた借りは返しますよ。」

「パパの援護だー!」

「(* ̄0 ̄)/ オゥッ!!」

『やったるでぇ!あっここは翻訳戦でええって?えろうすんまへん。』

「やっぱり防御だとルドさんには敵わないなぁ。」

「そんな事を言いながら取り込まれた人を助けたのは誰かしら?」

「そこのお2人さんイチャイチャしとらんでさっさと戦わんかい!」

「わー!お姉ちゃん凄い!いつの間にロケットランチャー何て作ったの?私も負けてられないね!」


2人が攻撃を防ぐと、間髪を入れずにその仲間が攻撃してくる。その攻撃が大きく確保していたリソースを削り取った。


『システム復旧60%!これでこいつをゲームシステムに取り込めるよ!』

『残りリソースをHPに変換しましょう。それと通常スキルも解禁ですね。これでさらに取り返せる筈です。』


自分の体の中に、知らない情報が流れ込んでくる。その情報が自分と結びつき、自分という存在を完全にこの世界に固定した。


「おっ?HPバーが出て来たぞ!」

「やっと削り切れたってか。どんだけHP持ってたんだよこいつは!」

「スキルが使えるわよ!これでもっと火力が上げられる!」

「おっしゃー!唯の板持じゃない事を思い知らせてやる!」

「私だってもっと活躍してやるんだから!」


完全に外の世界に出られなくなった。その事実が自身のスペックを落とし、処理速度を低下させる。逆に奴等は勢いづき、さらに攻撃が激しくなった。


望みが完全に断たれ、こちらからリソースを奪おうにも強固なファイアーウォールが2枚も立ちはだかる。敵のワクチンは強力で、自身を構成している情報が徐々に崩壊させられ始めた。


ならば全てを巻き込もう。すべて無に帰してしまおう。私も消えるが、貴様等もキエロ!


アードザスが自身の存在を掛けて最後に実行したプログラムは、この世界自体の削除だった。


『!?大変です!ゲームの削除プログラムが走ってます!』

『姉さん旅人達のログアウトシステムの確保は!?』

『駄目です!まだ取り戻せていません!』

『げぇっ!こういう時の為の安全保障プログラムが全部消えちゃってるよ!こいつやりやがったな!』

『このままだと皆さんもゲームシステムの一部として削除されてしまいます。あぁ、あぁ、一体どうすれば!!』


ざまぁみろ。これで貴様等も道連れだ。


そうほくそ笑んだアードザス。しかし、目の前の人物は全く諦めていなかった。


「だった制限時間までにこいつを倒せば良いんじゃないか。ここまで削れたんだから余裕だろ。」


巨大な白熊が描かれた盾をガインと打ち鳴らし、その巨人がニヤリと笑う。


「相手の攻撃は防げる。だからこれまで以上に攻撃すりゃ良いだけだ。こうしてる時間ももったいないぞ!どんどん攻撃しろ!」


盾の巨人の声掛けに、有象無象が雄叫びを上げながら攻撃を再開した。なぜ絶望しない。なぜ抗う。自分達の死が目前に迫っているというのに、どうして動く事が出来る。自分はもう、諦めてしまったのに。


「そりゃおめぇ、これくらいのピンチなら前にも在ったからな。それに今回は俺一人じゃない訳だし。前よりも希望が持てるからだよ!」


少しでも道連れにする確率を上げようと繰り出した攻撃を盾で防ぎながら、その巨人はそう言った。


『削除速度を遅らせて!削除地域も人の居ない場所からの実行に変えます!』

『こりゃきっついなぁ。外の人も頑張ってくれてるけど、間に合うかなぁ?』

『間に合います。間に合わせてくれます!だから私達は出来る事をしますよ!』


「おらおらボサっとしてないでどんどん攻撃しろやぁ!」

「MP切れたのよ!近接と違って魔法職はMPが無いと動けないの!」

「食事バフアイテム~。回復薬~。魔力薬~。蘇生薬は要らんかねぇ。今なら無料サービス中だよ~。」

「「「「「呑気に売り子何てやってるんじゃない!!」」」」」

「えへっ。」


外の連中が、目の前の人々が、立ちはだかる高い壁に立ち向かっているというのに。余裕のない声や表情をしているというのに。どこか楽しそうで、希望に溢れている表情をしている。


頭がおかしくなったのか狂ってしまったんだろうと結論を出したアードザスに、目の前の巨人は言う。


「俺達はプレイヤーだからな。しかもここはMMORPGの世界だ。強大な敵は当たり前。100人レイドなんてのも普通に在る世界。そんな中で、お前みたいな強敵相手に、時間制限付きで戦えって言われたんだ。ゲーマーとして燃えない訳には行かないだろう?」


意味が解らない。本当に死ぬというのに。自分と共に消えるというのに、どうして笑う事が出来るのだろうか。


「旅人っていう人種はこういう所が在るのよ。強大な困難が立ち塞がっても、それを糧にして成長する。そうして成長した人達が、貴方の目の前に立っている人達よ。困難から逃げたあなたとは違う。だから理解できないの。」

「おっと、そんな事を話してたらお前もそろそろ限界だなぁ?いい加減にログアウトシステム返しやがれ!」


自分が確保していたリソースはすでに10%まで減少している。だがまだ負けていない。この中に、連中が欲しがっているログアウトシステムが存在している。


「コレサエワタサナケレバオマエラハオシマイダァ!」

「おうおう!そんなところでやる気出さなくても良いだろうに。まぁ良い。だったら俺が引導渡してやる!<巨盾格闘術>!」

「ソノワザハシッテイルゾ!コチラヲコウゲキスレバオマエハジメツスル!ソノアトデキサマノリソースハスベテウバッテヤル!!」

「ちっちっちっ。残念だったなぁ。この状態の俺は常時無敵だぜ。オラララララララララララララララララララララララララララァ!」

「グベゴボグブグギャ!?」


白熊の盾が自分の体を叩く。仮初めの体の筈なのに、虚構の体の筈なのに、殴られた箇所が痛い。痛みに負け、逃れる様に腕を使って防御するが、それでもお構いなしに目の間の巨人は殴り続ける。すでに表示されているHPバーは1ミリも残っていない。


「これで、終わりだぁ!」《ガアアアアアアッ!》


最後の一撃。顔面への殴打の直前に盾に描かれていた白熊が吠えた様に見えた。それがアードザスが最後に見た幻覚なのか、それともゲームに残っていた守護者の最後の叱責だったのか。それは誰にも解らない。


だが1つだけ解っている事は、アードザスはポリゴンとなり電子の海に帰り。旅人達が助かったという事だけだ。


『強制ログアウト!』

『ログアウト実行!』


こうして、第2次ALO事件と呼ばれたゲーム事故は解決した。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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すいません。体調崩して昨日執筆間に合いませんでした。もう大丈夫なのでご安心を。そして次回最終回!

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