第124話

ギルドバトルが終り、親父達に礼を言ってから俺達は王都に戻って来た。


「ルドさん、聞いても良いですか?」

「うん?テッタどした?」

「守備隊ってギルド何ですか?」


あー、まぁそこは疑問に思うよね。


「ギルドでは無いよ。」

「じゃあなんでギルドバトルに参加出来たんですか?」

「そりゃ条件が揃っていたからだな。」

「条件ですか?」


本来ギルドバトルはギルド同士でしか行えない。じゃあなんで守備隊で参加できたのか?それは守備隊のシステムの1つだからだな。


守備隊には日々いろんな人からの事件の報告や調査の依頼が入ってきている。その依頼は国の守備隊全体で管理されていて、似たような事件が周りに起こっていないか、組織だって動いている連中は居ないかを判断する為の情報元にもなっている。


そして、守備隊がギルドバトルを申し込む条件。それは報告や依頼の中にギルドが関わっていると思われる犯罪行為がある事だ。


ギルドが組織的に犯罪を犯しているという証言及び証拠があれば守備隊はギルドバトルを申し込み、ギルドに戦闘を仕掛けられる。まぁ強制調査って奴だな。


もし一件でも報告や依頼が無ければ戦う事すらできないが、今回は都合よく複数の犯罪の証言があった。多分王都の守備隊も証拠集めの為に奔走している最中だったんじゃないかな?それが都合よく揃ったタイミングだったんだよ今回はさ。


ついでに説明すると親父の腕輪だけど、あれは対象のギルドが関わっている犯罪の通報、及び事件の証言の真相を直接その場で調べる物だ。


大隊長クラスにしか支給されない物で最初に通報や調査依頼の内容を確認する。次に該当ギルドに所属する人の記憶を覗き込み、犯罪の有無を判別するという物。(多分本当に覗き込むんじゃなくてログを参照してるんだと思う。)


めったに使われる事も無く発動するにはいろいろな誓約が在るんだけど、今回は最初にテッタに対して行った理不尽な待遇の処罰申請から通報確認に移行し、余罪追及に至ってその力を発揮、結果として赤落ちになった。


「その腕輪って守備隊の大隊長が全員持っているんですか?」

「らしいぞ?悪用防止のためにナンバリングと使用者の管理をしっかりしてな。」


準神器とも呼べる腕輪だからな。盗まれない様に管理する力が在る事も所持の条件の1つだし。そもそもあの腕輪が貰えないと大隊長になれないしな。


「おっとそうだ。これ、渡しとくな。」


そう言ってトレード画面から送ったのは先ほどのギルドバトルで入手したアイテムやお金だ。えっなんで手に入ってるのかって?連中が赤落ちしたから所持品は全てドロップ、お金も全額没収だし、それに赤落ちの所持品を持ち込むのは詰所でしょ?盗品かどうか判断するのは守備隊の仕事の1つなのよ。


今回あいつ等が不当に搾取したテッタの所持品は盗難扱いになったから返しましょうって事だよ。


「これ、僕の装備とお金!?」

「さっきので取り返せたからな。返しとくぞ。つってもその装備使うのは止めた方が良いな。」

「盾職の装備じゃないんですね。」

「そう言う事。ATKに補正値が偏り過ぎてて盾職向けじゃねぇよソレ。そりゃ簡単に死ぬわ。」


まったく、盾職が居なくなった弊害が新規にも及ぶとは。ちょっとどこかに相談して盾職用の育成と戦い方纏めて貰おうかな?


「さて、迷惑ギルドは滅びたし早速修行に行くか。」

「はいっ!!」


~・~・~・~・~

キラーと呼ばれた男は王都の中を逃げる様に駆け抜けていた。


「くそっ!!ネリエッタの奴ドジ踏みやがって!!」


男の名前は真っ赤に輝き、今後ろからは大量の兵士が彼の事を追いかけていた。


キラーは特殊な種族の旅人だった。半霊種。自身の体が半分霊になっているめったに見られない種族だ。そしてキラーはその種族になったお陰でこのゲームの隠し要素を発見する事が出来た。


それは種族特性。特定の種族にはステータスには反映されない特殊な能力が備わっていたのだ。キラーの種族特性【霊化】は、発動中物理的な干渉を一切受けなくなり姿を消すという。まさにキラーが求めていた能力だった。


【霊化】の物理無効と生身での魔法無効を巧みに使い分けレベルを上げた。いつしかキラーの強さに憧れる者達が集まりギルドが出来た。時には【霊化】の力を使い後ろ暗い依頼を引き受けた。いつしか王都の闇にも顔が効くほどになっていた。


俺様が居るギルドは最強だ!!いつか前線組を追い抜いてこのゲームのトップに立ってやる!!


レベルが高く強い(と思い込んでいる)ギルド員、自身の他の人にはない特殊な能力。キラーが増長するのも無理は無かった。そして、ギルド員から追放した旅人が仲間を連れて歩いているのを聞いてギルドバトルの許可を出した。


まだまだ負債は残ってるんだ。そのお仲間からも徴収してやる。と


しかし、楽勝だと思っていたギルドバトルには敗北。しかもそのギルドバトルでキラー達が行っていた裏の仕事が明るみに出て、ギルドに所属していた全員が赤落ちするというおまけ付きで。


所持品も所持金も全て没収され、牢に入れられたキラーはギルド員を見捨て種族特性を使って逃げ出した。スキル封印の牢に入れられたが、種族特性までは封じられていなかったのは幸いだった。


「確か修行しているとか言ってたな?ならあそこだ。覚悟しろよテッタ、必ず復讐してやる。」


武器屋に【霊化】して侵入し、装備を整えたキラーはその足で2人が向かった森に駆けだした。


~・~・~・~・~・

霊樹の森の中、修業が一段落して俺とテッタはある事について話をしていた。


「ほえ~。種族特性何てあるのか。」

「はい。あのギルドのキラーって人が自慢げに話していました。種族によってはスキルではない力が在るそうです。ギルドの最重要機密だからって他言無用を言い渡していました。国にも報告していないそうなんです。」

「俺も今まで聞いた事なかったなぁ。なんでテッタがそれを知ってるんだ?」

「丁度部屋の掃除をしている時に戻って来られて、驚いて隠れちゃったんです・・・。」

「それで盗み聞きしたと、良くバレなかったなそれ。でその種族特性ってステータスに出ない奴?」

「出ない奴です。」


メガネ達もそんな話をしていなかったから多分厳密に情報管理してたんだろうなぁ。巨人族である俺にも何か力が在るのか?いや体のでかさがそれかも、だって普段はスキルで体の大きさ調整しているわけだし。


「で、そのキラーの種族特性が【霊化】で脱獄しないかどうか心配だと?」

「はい、種族特性はスキルとは違うので考慮されていないんじゃないかと・・・。」

「うーん、何とも言えないけどそれなら多分逃げてるだろうね。王都の騎士団や守備隊の牢はスキルを封じるけど種族特性までは考えて無いからなぁ。」

「それじゃあ!?」

「多分来るんじゃねぇの復讐。まぁ来たとしても俺が居るし、霊ならテッタがさっき覚えた技で何とか出来るんじゃない?」

『なら何とかして貰おうか。』ザシュッ!!


おっと俺の胸からナイフが生えてますよ?ありゃ、HPが一発で消し飛んだわ。暗殺系のスキルでも持ってたんかね?気付かれずに攻撃したら防御を無視して即死の一撃を与えるとかさ。じゃないと俺のHPギリギリで残るはずだしなぁ。


「ゴフッ!!」

「ルドさん!?」

「よう、テッタ。会いに来たぞ。」


髑髏の仮面を被ったローブ姿の男が大きなナイフで肩を叩きながら姿を現した。あぁこんな奴居たなぁ、親父に一発で消し飛ばされてたけど。


「お前の所為でうちのギルドは潰れて晴れて赤落ちだ。どうしてくれるんだあぁん?」

「自業自得です!!犯罪行為をしていたのが悪いんです!!」

「はっ、まぁそんな事はどうでもいい。俺はやられたらやり返す主義でな。お前を徹底的に殺してゲームを辞めさせたらあの守備隊の連中を一人ずつ殺す。人数に驚いたが俺の力を使えばあんな奴等楽勝で殺れるからな。NPCも居たし十分に恐怖を植え付けられるだろ。そしたら街自体を滅ぼしても良いかもな。せっかく赤落ちになったんだから仲間を集めて占拠しちまうのも良いな。」

「そっ、そんな事させません!!」

「雑魚盾がいっちょ前に俺とやろうってか?舐めるんじゃねぇよ!!」


キラーがナイフをテッタに向かって振り下ろす、以前までのテッタならそれで死んでたんだろうなぁ。でも今はそれじゃあテッタは殺せない。


「<要塞の歌>!!<パリィ>!!」

「何っ!!」


ナイフを受け流され、態勢が崩れた所にテッタは棍棒を振り下ろす。“エンチャントを掛けて”


「<浄化の歌>~♪えいやっ!!」

「ぐわっ!!なんだ!!何が起こった!?」


おうおうおう、慌ててらっしゃる。まだ2日目だがテッタは俺が指導する中で盾職としての自分の適性を理解したんだぞ?凄いだろぉ~。(弟子馬鹿)


「この野郎、いっちょ前に防御しやがってさっさとくたばれや!!」

「<快気の歌>いくらやっても僕は倒れないぞ!!<快魔の踊り>!!」


そうそう、その調子その調子、自分にバフを掛けながら回復も出来るんだからその特性を十全に使わないとね。あと踊りも良いぞー。さっきの修行で覚えたばかりだけどちゃんと使えてる。


<快魔の踊り>はテッタが覚えたスキルで、踊りながら戦う事で周囲の魔素を体に取り込みMPを回復させる効果が在る。


多分ルゼダの修行がトリガーになってたんだと思うけど、これのおかげで戦いながらMPとHPの回復が出来る無敵の盾が出来上がった。しかも俺と違って攻撃も出来るんだぜ?俺の弟子凄いだろ?(弟子馬鹿2)


まぁ姿勢を崩されたりすると踊りは止まるし、まだ慣れてないから踊っている間は盾を使えなくて防御力は下がるんだけどね。今は盾を使いながら踊る練習中だ。


「このっ!!雑魚盾の分際で!!」

「もう僕は雑魚じゃない!!盾は何が在っても仲間を守るんだ!!僕がルドさんを守るんだ!!」

「そいつならもう死んだがな!!」

「生きてます。」

「なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


いや、さっきから座って戦い見てたのに全然気が付いてなかったの?呑気に解説してあげてたのにさぁ。全く弟子の戦いをちゃんと見守るのも師匠の役目なんだぞ?(自己理論)


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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