第14話 先視の巫女 伍
「ふふ、ふ。……ずいぶんと無様だな。守るべき主を守ることもできず、逆に主に守られ……あまつさえ、主を己が身代わりにして自分たちは尻尾を巻いて逃げ出すとは。」
男の歪んだ嗤い声が
「神の血をひく
「身代わりだと?! 姫宮家の二の姫として生まれた以上、それが
ひとりの衛士の言葉にびくり、と
「ほう? 役目か。それは知らなかったな。忌々しい姫宮家の巫女に、役目の違いなどあるのか?」
まるで子どものように首を傾げつつ、息をするように男はいくつもの斧を出現させてはこちらにむけて飛来させる。それを焔で消し炭にしながら
「君、姫宮家を目の敵にするくせに、そんなことも知らないのかね? むしろ、なぜ君が我々を攻撃してくるのか、そのほうが私には謎だよ。」
攻撃を邪魔された男は怒るでもなく、むしろまじまじと
「……驚いたな、まだそんな力があるのか。なるほど、その力は役目に由来するものか。」
姫宮家の巫女にはそれぞれ、生まれによって役割がある。
当代では
「さて、ね。私の力は我らがご先祖さまのおかげかもしれないよ?」
首をすくめる
ーーただしそれは、
「先祖というならそこでこそこそと逃げようとしている愚か者たちも同じだろう? 血の濃淡はあるだろうが。」
どん、という体の底に響くような音を聞いたのは、錯覚だっただろうか。
「しまっ……!」
九人はいた衛士たちが、宙に浮いた剣に背中を貫かれて死んでいた。ゆっくりと地面に倒れていく彼らにむけて声をあげようとして、しかし
(何!?)
それが自分の喉から出ていると
「んーっ! んんーんんん! うんんんーっ!!」
隣には、今の
(どういうこと??)
「貴様っ!! 今すぐ、その二人を離、」
怒りに我を忘れた
「【亡者】とは……やはりというべきか、まさかというべきか。」
その光景に
「では、改めまして。ーーお初にお目にかかる、姫宮の巫女よ。私は【亡者】たちの主だ。そうだな……新しい世界の神だから、
明らかに偽名だが、そこはどうでもいい。
「【亡者】を従えるとはね。いったいどんな手を使ったんだい?」
【亡者】には痛覚と同様に、知能がない。むろん意思もない。
(むしろ、今目の前にいる【亡者】のほうがおかしい。)
現世で生を終えた人々は黄泉へ行き、そこで己の抱えた未練や恨みつらみ、怨念をイザナミ神の神力や巫女たちが捧げる歌舞音曲によって少しずつ浄化するのだ。
(それが
【亡者】はこの怨念が黄泉からあふれ、形をとったものになる。現世に現れた【亡者】は現世にとどまるために生者を襲い、その生命力を奪う。本能のままに。
(で、この【亡者】を狩るのが
里の者たちは主にこの【狩人】の仕事をしている。数人は社と
(って、【亡者】が誰かの命令を聞くようになったら私たち劣勢じゃない?! それ、【亡者】に知能が生えたのと一緒じゃん!?)
「んんー!!」
絶望の叫びをあげる
「大丈夫だ、何も案ずることはない。お前たちは皆ここでーー死ぬのだから。」
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