第2話 魔王って本当に悪いヤツ?(スズキのポワレ・オレンジバターソース)☆☆

「オジサンとオバサンのノリに引っ張られてここまで来たけど、これって結局のところ、暗殺、テロのたぐいですよね」


 すると二人は、いかにも情けなさそうな顔で


「オジサン? まだ20代後半なのに立派なオジサンじゃ!

「ワタシなんて、まだ二十歳はたち前」


 だってさ。

 そっちかよ!


「いや、みんな期待してるから、今更やめるとか落胆がハンパねーだろ」

「魔王城にはきっと金銀財宝がざっくざく」


 説得のつもりらしい。

 落胆? 勝手にすればいい。

 金銀財宝? ふーん、目的はそれなんだ…… 聞かなかったことにしよう。


「もしかして、面倒くせぇ~~~とか思ってないよな?」


 もちろん私は正直に答えましたとも。


「思ってますよ」


「ん。正直は美徳なのだ」

「そうだ。俺だって正直言って少しびびってる、じゃねーよ!」


(わはは)


 ウケてるし。

 今どき、こんな古典的ひとりノリツッコミで笑えるとか、私の心の声さんって、もしかして結構な御年配?


(そうだぞ。われしてからだけでも軽く8000年以上)


 はあ、8000年?

 まあ、冗談はさておいてっと。


勝手にさておくな!このやりとりもベタだな~


「じゃなくて、ここまで来て面倒くさいやーめたとか、おっかしいだろーよ」

「ん、アスラもびびったか」

「いいえ、勇者ですから」


 実は大して自覚ないけど、とりあえず言ってみた。


「だからだよ! 勇者と魔王は永遠の敵。平和を乱す魔王を倒すのが勇者の仕事だろうよ。お前の大好きなの『あにめ』や『げーむ』でも最後は必ずそうなってるじゃねーか」


 おっ、アニメにゲームときたか。

 その話題で来られると弱いかも。


「ついこの間も、攻略したの最下層、隠し部屋の資料室で見つけた、ヒーロー物の『あにめ』や世界を救う勇者の『げーむ』に、三日三晩もハマってただろーよ」

「そうそう。あそこには大昔の映像や娯楽が、特にいい状態で保全されてましたよね。それを古代文明の大画面で楽しむ迫力ときたら、くーっ、凄かったなあ!」

「違ぇーよ‼ これで現実の勇者が魔王退治もせずに、遊びにばっかハマってるって知ったら、世間はどう思うかって言ってんだ」


 あ、そこですか?

 いやいや、世間なんてどうでもいいですから。

 どうせ「あにめ」も「げーむ」もで、今の世界のヒト族には何のことやら支離滅裂…… 違うか。青天の霹靂へきれき…… これも違うなあ。ええと、理解不能(これだ!)でしょうし。


 それに、「遊びにハマってる」んじゃなくて、あれはあれで勇者としての立派な勉強の為ですから。


(嘘をつけ。「大して自覚ない」ではなかったのか)


 嘘ですとぉ? とんでもない。

 アニメやゲームは何かと参考になる。

 「ギャラクティカ・なんちゃらかんちゃら・ファイナルホーリーメテオクラーッシュ!」とか、「超絶焔皇拳究極奥義神魔万象無限滅却なんだかエラそうな漢字や熟語を並べただけっぽい、ーっ!」とか長ったらしく技の名前を叫ぶと、別に変哲もないパンチやキックが凄い威力の必殺技になったり、「正義の怒り」とかいう、ごくごくありきたりの理由で戦闘力が何倍にもなったりする。


 あんなん出来たら将来、間違いなく無敵の勇者よねー。

 で、時々練習してるけど、なかなか上手くいかないたぶん一生無理じゃ?(作者・談)

 でも何事も修行よね。諦めずにがんばろー、おーっ!


(白々しい……)


 それに何てったって、この間のあの遺跡には、何千年も昔の料理番組の記録が幾つも残っていたのには狂喜乱舞した。


 例えば…… はいここで再現VTRです。のアスラ先生、お願いしまーす。


 はあいいきなり満面の笑顔で、お待たせしました。勇者アスラがお送りするダンジョン・クッキング(?)の時間がやって参りました。

 今週は視聴者の皆様からのリクエストが多かったので、ご要望におこたえして、・オレンジバターソースの作り方をご紹介したいと思いまーす。


(おい、はどこへ行った)


 スズキの切身は塩胡椒で下味をつけ、オリーブオイルを引いて熱したフライパンに入れまーす。

 おお、ここでもう、ほんのりとオリーブの素敵な香りが漂ってきましたねえ。

 中火で両面に焼き色をつけまーす。

 皮目はパリッと焼き上げましょう。

 ある程度火が通ったら、皮面を上にした状態で鍋肌からワインを加え、ふたをして火を弱めましょう。

 3~5分蒸し焼きにしまーす

 ふんわりと焼き上がったらスズキを取り出して、ワインの煮汁が残ったフライパンで、そのままソースを作りましょう。

 オレンジの果汁と果肉、バターを入れて中火で煮詰めまーす。

 水分が減って、トロッとした状態になれば、最後に塩で味を整えて完成でーす。

 付け合わせはお好みで結構ですが、スズキの下にきのこのソテーなど敷いては如何でしょう。

 グリーンアスパラ茹で過ぎないように注意しましょうを添えると色どりが鮮やかで綺麗ですよ。

 さあ召し上がれ。


(ほう、うまそうではないか)


 でしょう!

 旬のスズキの、口の中に入れて身が「ほろり」と崩れる時の淡白な美味しさときたら、これはもう絶品! パリッと焼いて香ばしくなった皮目の風味と、裏のゼラチン質のちょっと「とろ~り」感も、あはは、思わず笑みがこぼれそう。

 しかもオレンジの爽やかな酸味と甘み、ぷっちんぷつぷつの果肉の食感、バターのコクと旨味や適度の塩味、濃厚な匂いをオリーブオイルの香り高さが引き立てて、全てが溶け合って…… う~ん、至福シ・ア・ワ・セの味わい! 柑橘類とかの果物を料理のソースに使おうっていう、古代文化の発想って凄いよね。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 いやいやいや、実はどうでもいいことは全くない‼

 私があちこちを旅して旧文明の遺跡を探検し、魔物退治を繰り返して、いつの間にか勇者とか呼ばれるようになったのも、元はと言えば昔むかーしの、だったし、今だって、もちろんそうだ。


 魔物退治なんて、言ってみれば「オマケ」

 本当のところ、レシピ探しの邪魔になるから「ついでにここ重要! テストに出ますよ」やった仕事なんすよ。

 つまり、とにかく、今、私の言いたいことはこうだ。


?」

「「えっ?」」(連れのお二人様・談)


 やっぱり!

 今さら驚くとか、この二人、なーんにも深く考えてないな。

 全く、最近のオジサンやオバサンときたら……


「絶対に必要なことなら面倒くさいなんて言いませんけど、魔王討伐って本当に必要なんですか?」

そ、そりゃあ必要だろうよ明らかに狼狽して。ま、魔物を操って人間を襲わせたり、村や町をおどして生贄いけにえ貢物みつぎものを要求したり。お前だって俺らと一緒に、そんな奴らを退治してきたじゃねーか」

「野生の獣だって人間を襲うことがあるじゃないですか。村や町を脅してたのも、魔族のふりをしたヒト族の盗賊団ばっかりだった。魔王が全ての黒幕だなんて、ただの被害妄想かも」

「ん? ヒガイモーソウではない慌てて議論に乱入。魔王はモチロン悪。 魔族や魔物を次々生み出す、あらゆる厄災の元凶。このままでは野も森も国々も邪悪な勢力におかされてヒト族は滅びてしまう」

「教会はそう言いますけど、怪しいなあ。思考停止ですか? むしろヒト族の方が繁殖力旺盛で領地を広げてません?」


「ぉ、お前、それってだぞ……」

「ん……」


 あ、退かれた。

 どこからか「ヒューッ」なんて冷たい北風が、よくある「あにめ」みたいに吹いたり…… しませんけど。



 数分後。


つまりぃもう我ながら半分ムキになって、外部に仮想上の悪辣あくらつな敵を設定しぃ、大衆に信じ込ませて危機感をあおることによってぇ、国内の不満を減じぃ、外敵の打倒、ついには侵略へと向かわせることわぁ、歴史上繰り返されてきた悪質なプロパガンダでありぃ、もしもし、聞いてますかあ」

「「…………」」


 二人は顔を引きらせ、終始無言。


 あはは! まずい。我ながら完全に空回りしてる。

 簡単には納得してくれませんか、そうですか。

 なんせ、長期熟成もののり込みだからねえ。

 よし、ならば相手の弱みを突いてみようか。


「わかりました。魔王討つべし、そんな教会の教えに少しでも疑問を持てば異端ですか。でも、そうすると、お二人もある意味、同罪ですよね」

「「えっ?」」

「だってそうでしょう。美食は教会の言う重大な禁忌きんき。強欲、 淫蕩エッチ依存症など、全ての堕落は美食を求めることから始まる。決して魔族の悪例にならってはならない。新しきヒトは固いパンマズい質素な主菜やっぱりマズい薄い塩味のスープのみで足る嫌だぁ―――っ!ことを知るべし。毎日のかては身体を養うためだけのものと心得よ、ってね。でも、お二人は私の作る料理をいつも美味しそうに食べておられますよねえ」


(おい、片方の口角こうかくだけがニヤリと上がって、悪い顔になってるぞ)


 黙ってろ! この際、知ったことか。


(鏡を見なくとも、お前の表情は顔の筋肉の動きで我には分かるのだ)


 うるさい!!


「い、いや、そ、それはあれだよ。せっかく手に入れた、今は失われた貴重なレシピで再現した料理だろう。一応食べてみないと、なあ」

「ん、ん。お、美味しいから食べてみろって、アスラが勧めるから」

「ほーお、好奇心が禁忌を凌駕りょうがしたとおっしゃる訳ですかね」


…… ここで少女は、ふ・ふ・ふ、と更に邪悪な微笑を浮かべながら(作者・談)


「もしくは、まさかこの私がお二方を堕落へと誘惑したとでも」

「「うう……」」


 


(ふん、来たか)


 そこから勢いよくび出してきたのは、手紙らしきものをくわえた、一匹の黒猫ちゃんでしたとさ…… って、はあ? ね、

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