第15話

「何だその、またお前かという顔は」

「……失礼致しました」


 腕組をしたサルシェを前にフェルは小声で謝罪した。心の中でしっかり舌打ちをしておく。王城内に併設された鍛錬場にてアイオス騎士団の若者に紛れていた。


「あいつが……?」

「サルシェ様から王の騎士の地位を奪ったやつか」


(だからこんなに私に突っかかってくるのか)


 フェルは若者たちの言葉から悟る。サルシェがフェルに何かにつけて当たってくるのはこのせいだった。どうやらサルシェが王の騎士の候補者だったらしい。


「イザリオ様より鍛錬を仰せ遣わされた。ウゾルク剣術は美しさが足りない。剣術試合ではデステアルナ剣術を使うように」


 サルシェが長い前髪を振り払いながら言った。フェルは思わず眉を顰める。


(剣術に美しさなんていらないだろ)


 デステアルナの剣術は見た目の美しさを重要視した剣術だった。デステアルナの武器はボルチャーに変わりつつある今、剣術は娯楽に過ぎない。あるいは体を鍛えるための手段へと変わりつつあった。ウゾルクのように実戦で使うようなものではないのだ。

 ブレイドも細く長い。ウゾルクの幅の太い、獣の肉を断つことのできるような剣とは大違いだ。とても魔獣の首を断てそうもない。


(子供の遊びじゃないか)


 若者たちの稽古を見てフェルは飽き飽きした。突きが主な攻撃になるのだが、どれも気迫と威力に欠ける。その上防具を身に付け動きにくそうだった。

 若者たちの稽古を見ながら頭の中で何度急所を突いたことか……。こじんまりとした範囲しか動かない剣術試合に早くも飽き飽きしてきた。


 座って見学していたフェルの目の前にレイピアが投げ渡された。反射的に右手で掴み取る。


「ぼうっとするな!お前もやるんだよ」

「……はあ。この折れそうな剣でですか?」


 やる気のない声にサルシェがため息を吐く。


「さっさと準備しないか」


 見るとサルシェが頭に金属製の防具を身に付けていた。フェルは首を傾げる。


「お前の相手をしてやる」

「……?」


 サルシェの発言に若者たちが声を上げた。


「団長が直々に?久しぶりじゃないか」

「あの子……死ぬぞ」


 そんな言葉を耳にし、フェルは恐れよりも燃え上がっていた。


(ちょうど良かった。ストレス発散させてもらおう)


 黙って用意された鎧を見よう見まねで身に付ける。ウゾルクにいた頃は防具など身に付けたことがなかったからだ。

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