第12話
「フェル様。早速ですが王の騎士としての最初のお仕事をイザリオ様より承っております」
アマヤにマントを預けながらフェルは緊張感を高めた。魔獣に関する任務に就くことができるのだと考えたからだ。
「イザリオ様が是非フェル様とお話したいとのことです。王の公務の後、お部屋にお伺いしましょう」
「話……?」
(魔獣に関することか)
「不安ですか?大丈夫。イザリオ様は気さくなお方だからきっと楽しめますよ」
アマヤが微笑んで見せる。フェルは思わずたじろいだ。まるで我が子を慈しむようなその視線が気恥ずかしくて慣れない。
フェルはイザリオとの会合まで部屋で待機することになった。
「いやあ!悪かったな。随分と遅くなってしまった」
緊張感の欠片もないイザリオの陽気な姿にフェルは黙り込んだ。王の居室はフェルの部屋の二倍はある。絵画や彫刻が飾られ厳かな雰囲気が漂っていた。
外にアイオス騎士団が控えていたが部屋の中は侍女の一人もいない。人払いをしているようだ。フェルが正装しているのに対しイザリオはゆったりとした服装をしている。
「まあ、そこの椅子に適当に座ってくれ」
「……失礼します」
フェルはイザリオに言われるがまま近くの椅子に腰かけた。テーブルの上には飲み物と切り分けられた果物が置いてある。イザリオは水差しからグラスに飲み物を移しながら話しかけてきた。
「フェルが好きな食べ物は何だ?ウゾルクには山菜のスープがあると聞くが。俺は鹿の肉がいいかな。あれを酒で煮込むと美味いんだ」
「……?」
予想外の話題にフェルは水色の瞳を見開いた。その様子を見てイザリオが楽しそうに笑う。
「そんな畏まるな。今日は王の騎士になったフェルの親睦会だ!これから魔獣の問題を解決するために力を合わせるんだ。まずはお互いのことを知らなければな」
「親睦……?」
「何事もまずは顔を合わせての対話から。フェルも俺がどういう人間か分からなければ不安だろう?」
フェルは顔を俯かせ、膝の上で握りこぶしを作った。イザリオの胡散臭い笑顔に苛立つ。その笑顔は他者に探りを入れるときの偽りに見えた。
(……こんな時に親睦だと?ふざけるな。こうしてる間にも魔獣がうろつき回っているかもしれないのに)
「……どうでもいい」
「ん?」
「そんなこと……どうでもいい」
フェルは吊り上がった水色の目をイザリオに向ける。
「とっとと私を魔獣が現れそうな場所に向かわせればいい!こんな無駄なことしてる場合じゃない!……です」
イザリオはフェルの背後に炎が燃え上がるのが見えた。力強い瞳の光はさながら青い炎のようだった。途中、冷静になったのか慌てて敬語を付け加える姿にイザリオは小さく笑う。グラスを手にして軽く酒を口に含むと何事もなかったかのように続けた。
「焦る気持ちはよく分かる。だが今の状態のフェルを魔獣のもとに向かわせるわけにはいかない」
イザリオはテーブルに肩肘をつき、フェルに微笑みかける。その後で真剣な表情に戻ると冷酷に言い放った。
「今のままだと確実に命を落とす」
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