第45話 歓迎する者たち

アヤ達は初期の街にワープし、カヤックの武具屋に向かって歩いていく。

アヤ達はクラン内ボイチャでノワールが加入したことと合流する場所をどこにするか話し合い、最終的にカヤックの武具屋になった。


「カヤックの武具屋かー」


ノワールは頭の後ろで手を組んで空を眺める。

アヤはふとあることが気になってノワールに質問を問いかけた。


「カヤックと知り合いですか?」


「うーん、平たくいえばそうかもしれないが話し合う仲でもないから顔見知りって感じだな」


「そうなんですか。クラン内ボイチャでお互い知ってそうな雰囲気だったので」


「カヤックの武具屋で売りに寄ったことがあって、その時にまぁ知ったって感じだな。あそこは言い値で買ってくれるからたまに寄る」


ノワールはチラッとアヤの大鎚ウォーハンマーを見たあと視線を前に向ける。


「それ、カヤックの店で買った大鎚だろ?」


「え、あ、はい。カヤックのお店で買いました」


「そうか。まぁその大鎚も日の目を浴びれて嬉しいだろうな」


「……? どういう意味ですか?」


ノワールは思い出を懐かしそうに顎に手を当ててクイッと上げる。


「その大鎚は俺が売ったヤツだ。武器の中でも結構レアなヤツだったんだが、俺は魔導士だからインベントリの中で眠らせるのも勿体なくて売ったんだ」


「そうなんですか」


「嘘。ノワールはカヤックの店で、売ってた賢王の破邪杖が欲しくて、それを足しに買った」


「なんで知ってるんだよ、偽魔女」


「カヤックから聞いた。もちろん拳で」


「暴力で解決するな。つうか個人情報だだ漏れじゃねぇか」


「マークしてるプレイヤーの情報を探るのは基本。でないと次のイベントで勝てない」


「勝利に貪欲でよろしいことで」


角を曲がり、武具屋に続く街道を歩いているとアヤはある視線が向いているのに気がつく。

嫉妬、殺意といった明らかに敵意丸出しで見てくる視線がちらほらあった。

ただそれは自分ではなくなぜかノワールに向いている。アヤはそっと小声でノワールに話しかけた。


「ノワール、なんか敵意ある視線があなたに向いてるんだけど」


敬語は不要と思い、そう聞くとノワールは頭を掻いて口にする。


「知ってる。傍から見たらそう見えるのかもしれないがほんと勘弁してくれ」


深いため息をつきながら話を続ける。


「どうもそいつらの目には俺がハーレムしてるように見えてるらしい。こんな怪物達が可愛い小動物みたいに見えてる方がおかしいっつうの」


女子三人にその言葉は爆弾発言に近いが、あながち間違えでもないのでアヤ達は反論はしなかった。そう、反論しなかった。


「ノワール、一緒にクエスト行ってくれないのなんでなの」


リンゴはわざとらしく目をうるうるとさせ、ノワールをまるで恋人のように目を合わせる。

悪寒が背筋を走り、ノワールは怪訝な顔に変わった。


「おい、やめろ。変に誤解されるだろうが」


「前は一緒にクエスト行ってくれたのに。私、寂しい」


「一回だけだろ。あーもう、スミレ。何か言ってくれ」


ふとリンゴを一瞬だけ見るとリンゴが軽く頷く。スミレは人差し指を顎に当ててニヤリと小悪魔な笑みを浮かべる。


「ノワール殿、最近なぜ私と(勝負の)相手をしてくれないのだ」


「…………は?」


三人の中で一番まともだと思っていた少女がジョークを口にするとは夢にも思っておらず、目が点になるノワールであった。


「い、いやいやいや! 生真面目なお前がそれ言うか!?」


もちろん前のスミレならそんなことはしなかっただろう。しかし、今のスミレは肩の荷を下ろし晴れやかな気分でアヤとリンゴの真似をしたくなったのだ。

いわゆる「私も私も」の女子のノリでイタズラを仕掛けたのである。


「私は元から生真面目であるぞ」


「いや真面目な顔してそれ言う!? 俺、別の世界線に来ちまったのか!?」


「ん、ようこそ、次世代のゲーム世界FFOへ」


「そうか。ここがFFOか……ってそれ発売当初の売り文句じゃえねぇか!」


ノワールは頭を抱えて周りに迷惑がかからない程度の声量で叫ぶ。


「残りは殲滅姫だけ……嫌な予感しかしない」


「お望みならしますよ?」


「しないでくださいお願いします」


そうこう話しているうちにカヤックの武具屋に着き、私達は扉を開けて中に入る。

奥の方に行くとカヤックとイノンがレシピ本を開いて話し合っていたが足音に気づいたのか、こちらを向いてカヤックが声を出した。


「来たな。それと新メンバーも」


カヤックは新たな同志を歓迎するように手を広げて「妖精の箱庭にようこそ」と言葉にする。


「ああ、短い間だと思うがよろしく頼む」


アヤ、リンゴ、カヤック、イノンはお互い見合って頷き、「いっせのーで」と声を合わせる。


「「「「よろしく!!」」」」


温かな歓迎に胸が少しこそばゆくなるノワールだったが、よくよく考えれば殲滅姫と偽魔女といった良くも悪くも注目されているクランに入ったことで、嫉妬や殺意といった視線で注目されるのでは、と胸騒ぎがし始める。


「食材どのくらいあるの?」


イノンがこちらに向かって聞いてくる。ノワールが操作してパネルをでかでかと表示させた。


「海の食材コンプリートに調味料もろもろ二層にある食材をなるべく集めてきた。数で表すと合計2457個ってとこだな」


口をパクパクとさせ、イノンは声を荒げながら声にする。


「そ、そんなに集まるものなの!?」


「金と時間と根性があればいける」


しかし、カヤックは首を捻り疑問に思う。


「そんなすぐ集めれるもんなのか? イベントが発表されて二時間しか経ってないのに、まるで事前に食材が必要になることを知っていたみたいだな」


「察しがいいな。まぁここだと言えないから黙認させてもらうが」


「解析チート?」


「偽魔女みたいにチート使ってないぞ」


「む、私はチートしてない」


「勘で予知するリアルチート使ってるだろ」


「ノワールもやれば、出来るようになる。何事も努力」


「世の中には才能っつう努力だけじゃ辿り着けない世界があるんだわ」


乾いた笑いで小さく息を吐く。


「まぁ事前に食材を集めた方法は置いといて、俺の集めた食材全部渡すわ」


ノワールはパネルを操作してカヤックのインベントリが食材に埋まっていく。


「俺のインベントリがパンクしそうなんだが」


「あとは頼んだ。それじゃ俺はまた食材集めしてくる」


「おいおい。まだ話は終わってないぞ」


ノワールは背を向けながら顔だけカヤックに向ける。


「なんだ。あまり長いと面倒なんだが」


カヤックは鼻息をつき、ゆっくりと口を開く。


「料理作るから試食してくれ。ああ、ノワールの好きな珈琲ケーキも作るぞ」


ノワールは珈琲ケーキの単語を聞き、口角を釣り上げた。


「マジか! ……ってあれ? どうして俺が珈琲好きなこと知ってるんだ?」


「個人チャットでアヤから聞いた。なんでも珈琲大量に飲んでたから好きなんじゃないかってな」


こちらに顔を向けて私は人差し指を頬に当てる。


「皆んなで一緒に食べた方が美味しくなるかなと思ってカヤックに教えたの。ほら好きな物をタダで食べれるからお得だと思わない?」


何か企んでいるのでは、と疑心暗鬼になるノワールだったがアヤの表情は変わらず楽しんでほしいという気持ちが現れた純粋な笑顔だ。

天使なのか、悪魔なのか、彼女の心の奥底を覗くことは不可能だ。


「……分かった。珈琲ケーキ食べるまでな」


彼女の笑顔は魅力的なものだ。

それはアイドルに通ずるようなとても可愛らしい満面の笑顔で。

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