比奈救出!
「まだまだぁ! 酔滅百連拳!」
腹に一撃もらって苦しむ梶谷に、めいはなおも畳みかけた。物凄い速さで、拳を連打しまくった。胸、腹、肩、そして顔面をタコ殴りにされた梶谷の黒いニンジャ装束は、各所に出来上がったたんこぶで膨れ上がっている。
そしてこれが決め手とばかりに、鼻っ面に最後の一撃が打ち込まれた。梶谷の体はワイヤーアクションのように大きく後方に吹っ飛び、アスファルトの上に突っ伏した。
「次はあんたら……」
めいの鋭い眼光が、ふらふら立ち上がったちひろと、その傍らで怯えるゆめに向けられた。これ以上邪なことを考えつかないよう、徹底的にぶちのめさないといけない。めいは怒りに燃えていた。
そのときだった。道路側から、バキバキとフェンスを力任せになぎ倒す音が聞こえた。何か大きなものが、敷地を囲うフェンスの一端をなぎ倒して敷地内に侵入してくる……
――タンクローリーだっ!
「え……」
現れたのは、巨大なタンクローリーだった。白い車体のデカブツはやかましいエンジン音をうならせながら、両者の間に無理矢理突っ込んできた。その巨体と騒音は、まるで怪獣のようだ。
「ふぅ、間に合いました」
「ああ、助かったぜネムリ……」
「ネムリお兄さま!」
運転席に乗っていたのは、比奈を連れ去ったニンジャたちを従えていた美青年、鱶川ネムリだった。助手席側のドアが開くや否や、ちひろとゆめはそそくさと乗り込んでいった。
――逃げられる!
めいは悔しげに奥歯を噛みしめた。さすがにあんな、見上げるほど大きなタンクローリーを拳でどうこうするのは不可能だ。そのままタンクローリーが敷地内を通り、駐車場側のフェンスをなぎ倒して去っていくのを、指をくわえて見ているしかなかった。
「……まずい! もうすぐ爆発する!」
ちひろの言葉を、めいは思い出した。あの弓使いは地下で、「この建物はあと十分で爆発する」と言っていた。もうすぐその十分後が来るのではないか。建物から離れないと、爆発に巻き込まれてしまう。
めいは走った。敷地内を走り抜け、タンクローリーが踏み倒したフェンスを通って道路に出た。
道路に出たちょうどそのとき、めいの背を空気の振動が襲った。鼓膜を破らんばかりの爆発音が辺りに響き渡る。振り向いためいが見たのは、バラバラに弾け飛んだコンクリの平屋と、その跡地から上る炎と黒煙であった。
*****
スポーツカーを停めてある場所にめいがたどり着いたとき、すでに日は暮れかけていた。運転席には右手にばんそうこうを貼ったアヤノと、狭い後部座席に寝かされている比奈の姿があった。
「お待たせ」
「めいさん大丈夫だった?」
「まぁ何とか……」
めいが助手席に乗り込むと、アヤノは車を走らせた。
座席にもたれかかっていると、どっと疲れが両肩に乗ってきた。いつの間にか、右腕の痛みも消えている。もしかして、これも酒の効能なのかもしれない。というか、そうとしか考えられなかった。
めいは今日あったことを、あれこれと思い出した。本当に、色々あった日だった。牧場でイトウの怪物と戦い、坂田と名乗るライフル魔を捕まえ、敵組織の拠点に潜入し、比奈を無事救出した。
がむしゃらに戦ってきた。拳を振るっている間は、疲れなんか忘れていた。比奈を助ける。ただその意志が、めいの体にガソリンを注ぎ続けていた。
ゆらゆらと、めいの意識は眠りに
このとき、この酒乱女は知らなかった。まだ戦いは終わっていなかったことに。
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