地上最強の女VS地底最強のワーム
アスクレピオス内で絶大な発言権をもつ一家「鱶川家」。その末席に名を連ねる鱶川ちひろは、ある使命を仰せつかっていた。
「酒呑坂めいの戦闘データをとれ」
その指令に従って送り込んだアルコールヘイター戮は、見事ボコボコにされ返り討ちにされた。これによって酒呑坂めいは「第一種危険人物」に認定され、彼女に対する無制限の武器使用が解禁された。
そんなめいに対する次の刺客として選ばれたのが、ウランバートル支部が捕獲した新種の
この生物は、UMAとして知られるモンゴリアン・デス・ワームの正体とされている。地中を掘り進み、地上に飛び出して獲物を食らう大型の肉食動物だ。真偽は不明だがヒグマを襲ったという逸話もあるほどの凶暴性をもっている。
ただの人間であるめいにとっては、非常に危険な生物である。そんな刺客を送り込むからには、「死んだらそれまでだ」と考えられているのだろう。
会場から離れた小高い場所で、鱶川ちひろは鹿毛の馬に跨り、双眼鏡を使って狂騒を眺めていた。ここの地下には戦国時代の城壁が埋まっており、デスワームが地中を掘り進んでも、この場所まで来ることはない。
「あの酒飲み女、今頃焦ってるんだろうなぁ。せいぜい楽しませてくれよ」
およそ惨劇を眺める者とは思えないヘラヘラした笑いを浮かべるちひろ。そこに馬蹄の音をともなって、一対の人馬が近づいてきていた。
「も、もしかして鱶川ちひろさんですか!?」
興奮気味に声をうわずらせながら話しかけてきた少女は、立灯女学院の第二射手を務める予定の選手であった。周囲が騒がしいと、馬も落ち着かなくなる。叫びながら逃げ回る人々から距離をとるために、なるべく
「あん? オレのこと知ってんのか」
「知ってるも何も……うちの学校では伝説じゃないですか!」
鱶川ちひろはかつて、立灯女学院騎射競技部のエースであった。その伝説的な活躍ぶりは、今でも同校で語り継がれている。
「お会いできて光栄ですが……こんなところにいては危ないです! 得体のしれない怪物が暴れてるんです! 死人も出てます!」
怪物を放った犯人が目の前にいるとはつゆ知らず、この後輩は必死に訴えた。ちひろは煩わしそうに右目を細め、眼球だけを動かして後輩を見た。
「はぁ……オレは大丈夫だ。あんたは早く行きな。あんたの馬、そわそわしてんぞ」
「ですが……わかりました。落ち着いたらまたゆっくりお話がしたいです」
去ってゆく後輩の背を見つめながら、ちひろは「やれやれ」とつぶやいた。
「あと二、三年もすりゃいい女になりそうだけどよ……ちいと光が強すぎんだよ」
*****
「めいちゃんの話……本当だったんだね。疑ったりしてごめん」
「いいんだよひなちゃん。それより早く安全な場所に逃げうわっ!」
めいの足元が、突然割れた。そこからワームが飛び出してきた。アルコールの力を得ていためいは下からの攻撃を瞬時に察知し、噛みつかれる前に大きく跳躍した。
「
まるで特撮番組のヒーローのような、美しく力強い跳び蹴り。しかし間が悪いことに、ワームはすでに地面に引っ込みかけていた。
めいの足裏には、確かに蹴りが当たった感触があった。だが、それはあくまで引っ込んでいる途中のデスワームにかすめただけだった。とうていクリーンヒットとはいえない。
「ちっ! 逃げられた! この酔滅流星キックをかわすとは……ぐぬぬ……」
地面に引っ込まれれば、手出しできない。厄介極まりない相手だ。これならホッキョクグマの方がまだ楽だった。
めいは近くにあったイチョウの木によじ登り、枝の上に立った。地面に足をつけているのは危険だと判断したのだ。地面を見下ろすと、モグラ穴のようなものが地面にいくつも開いていた。
どうすれば、やつを地上に引きずり出せるのか……考えもつかない。もたついていると逃げられてしまう。逃げられればもっと被害を出すかもしれない。
困り果てていためいの耳が、物音を拾った。地面に硬いものが落下する音だ。
音のした方を振り向くと、そこにはミネラルウォーターの二リットルボトルが落ちていた。落としたのは……めいとは別のイチョウに登っていた比奈であった。
ボトルが落下した地面が、音を立てて割れた。そこから飛び出したワームが、ボトルを丸呑みにして地中へと引っ込んでいった。
「やっぱり……トレマーズのグラボイズと同じだ!」
「トレマーズ……? グラボイズ……?」
「前にめいちゃんと一緒に見た映画だよ!」
比奈の言葉で、めいは思い出した。高校二年生のときに、比奈の家でそのような映画を見た記憶がある。地中から襲いくる人食いモンスターと戦う映画だ。あれは比奈に見せられた映画の中では断トツで面白かった。
確か……あの映画のモンスターは地面の振動を察知して襲ってくる習性をもっていた。今対峙しているワームも、ボトルが落ちたところに反応して飛び出してきた。
「……そうか!」
めいは突破口を見つけた。
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