★★★ Excellent!!!
陥穽がすぐそこにある世界で 宮田秩早
新型感染症が蔓延する世界。
その感染症が世に知られるようになってから、しばらく経った世界は、その厄災を受け止め、それなりの対応をとっているように見える。
また、登場人物たちも、「第四波」の到来……その状況を淡々と受け入れているようだ。
死や病苦、後遺症といった感染症に直接かかわること、感染症を契機にした人間関係の変化、仕事への影響。
感染症のもたらす人生の陥穽。
主人公は新型感染症に感染した経緯を持っているが、ことさらにそれを嘆いているようすはない。
ただし、あまり前向きな印象はなく、そういうものだと諦めてしまっているのか、これまでに味わったさまざまな痛みや失望に、身構えてうちに籠もっているのか……。
その主人公が、ある出逢いをきっかけに、変わってゆく。
痛みを痛みとして受け止め、それを消化してゆこうとする。
このテーマは新型感染症という物語背景特有のものではなく、人生普遍のテーマだろうと思う。
みずからが「日向にいる」そのことを確かめながら生きていく。
現実のこの世界にも通ずる設定から、人生普遍のテーマを描く作品。